その10 気になる目

文字数 749文字

 健斗が転校して来て一ヶ月ほどが過ぎた。昼食時には相変わらず彼と屋上でパンをかじっているが、以前と違うのはそこに星羅が混ざっていることだった。

 今日も空は明るく晴れていて、そろそろ夏休みの予定も聞こえてくる頃だった。僕と健斗はいつものパンと牛乳だが、星羅は弁当を持ってきている。時折「食べて」と差し出してくるが、僕も健斗も中々手を伸ばさないので彼女にはそれが不満のようだった。

 星羅が急に溜息をつきながら言った。

「最近ね、ちょっと気になるの」
「何?」

 僕が興味無さげに尋ねると、彼女は箸を置いて言った。

「最近、牧野君の目が気になるの」
「牧野君って?」

 健斗が尋ねると星羅はペットボトルのお茶を飲んで言った。

「ほら、ちょっと茶髪でヤンキーっぽい人がいるじゃない」

 健斗はかじりかけのパンを持ったまま宙を見上げて言った。

「あぁ、時々遅刻してくるあいつの事か」
「そう。それが牧野君」

 僕は食べ終えたパンの袋を畳み、牛乳を飲み干して言った。

「牧野君がどうかしたのか?」
「最近、嫌らしい目で私を見るの」
「考え過ぎじゃないのか?」
「そんなこと無いわ。絶対に変な目で見てるわ」

 他人の目線の善し悪しなど僕と健斗にしてみればどうでも良い事で、互いに探るように視線を交わしていた。しかしそんな事をしていても(らち)が明かないので、僕は言った。

「まぁ、気にしないことだな。いざとなったら、その時はその時さ」
「本当? 何か考えてくれるんだ」
「まぁ、そんな時が本当に来たらね」
「ありがとう。矢野君」

 軽くいなしてはみたものの、星羅の何かを期待する微妙な微笑(ほほえみ)は僕達に無言の圧力をかけていた。どうして他人の面倒を背負い込まなければならないのか、我ながら人の良さに呆れてしまった。

 僕は健斗と「やれやれ」とばかりに腰を上げるのだった。
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