その27 石野美紀

文字数 1,359文字

 翌日の放課後、僕達は駅前のコーヒーショップにいた。僕と健斗が並んで座り、向かい側に星羅と美紀とかいう生徒が座っていた。
 やはり同じ学年とは言え、初対面であればそれなりに緊張する。星羅は以前からの知り合いなのでそれほどでも無いようだが、僕はさすがに気が引ける。

 そもそも僕は第三者的な立場なのでこの場にいてもいなくても同じなのだが、健斗が初対面の女子の前でどんな顔をするのかを見たいという理由だけでのこのこ来てしまった自分が情けなくなってきていた。好奇心だけで行動すると、つまらない結果しか得られないという例だろう。

 しかし当の健斗には緊張している素振りなど全く見られず、ただ席に付いて目の前の美紀を眺めているだけである。
 そのせいなのか、憧れの健斗が間近にいるからなのか分からないが、彼女の緊張感は半端ないようで鈍感な僕にも伝わってくるようだった。

 美紀は公立理系を目指すリケ女らしく、星羅とは違う知的な雰囲気が漂っていた。長い黒髪を後ろで束ね、編み込んで垂らしている。これでそばかすだらけの顔に丸眼鏡なら漫画に出てくるガリベン少女なのだが、美紀は違っていた。
 クールビューティーとでも言えばいいのだろうか。切れ長の目は涼しく、鼻筋は通っていて凛としている。小さ目な唇が少し輝いているのはここに来る直前にリップを塗ったせいかもしれない。ただ座っているだけなのだが、有名な画家が描いた絵のように見えた。

 美紀は性格的に無口なのかこういう場面には慣れていないのか分からないが、無言のままうつむき加減でテーブルの上をじっと見つめているだけで、僕は多少の息苦しさを感じていた。

 動きの無い閉塞感のあるその場を何とかしようと星羅が口を開いた。

「ねぇ。黙ってばかりじゃ何も始まらないわよ。流石君、何か話してあげてよ」
「どうして僕が? 僕は誘われただけじゃないか。そっちから何か言ってよ」

 健斗らしいものの言い様である。僕はどんな時もマイペースな彼が(うらや)ましかった。

「そんな寂しい事を言わないでよ。美紀もそうよ。あなたが流石君と話がしたいって言うから連れて来たのよ。何とか言いなさいよ」

 そこまではっきり言わなくても良いとは思うのだが、星羅は星羅でサバサバした性格なので、そう言わなければ気が済まなかったのだろう。

「あの、流石君は目指す大学とか学部とかはあるんですか?」

 ようやく美紀が小さな声で言った。

「無いよ」

 健斗のあっさりした答えに美紀が驚いていた。

「えっ! 無いんですか。あんなに模試の成績が良いのに」
「模試の成績と実際に行く大学とは別だよ」
「そ、そうなんですか」

 何とも殺伐とした会話である。健斗も何もそこまで簡単に言わなくてもいいとは思うのだが、それを責められない僕も同罪かもしれない。

 すると僕の代わりに星羅が言った。

「流石君。もう少し言い様があるんじゃない?」
「言い様って何だよ」
「だから、せめて医学部志望だとか、工学部に行くつもりだとか、細かな所まではいいから、そんな感じで話は出来ないの?」
「うーん」

 健斗が腕を組んで考え込んでしまった。星羅は簡単に訊いたつもりなのだろうけど、そんな質問をすれば何事も適当に済ませる健斗がまともな答えをするはずがないのである。この男に考える時間を与える事は墓穴を掘るに等しい。
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