その29 マジか!

文字数 1,051文字

 僕が多少白い目で彼を見た時、健斗はさらに言葉を繋いだ。

「転校は十二回だけど、受験も三回だよ」

 それを聞いた聖羅が目を丸くしていた。

「ちょ、ちょっと待ってよ。受験も三回って意味わかんない」
「だから、中学を卒業して最初の高校受験で入った学校が全然つまらなくてすぐに止めたんだ。その後幾つか学校を変わったけど、どこも気乗りしなくてね。翌年に随分離れた地方で再受験して改めて高校に入学したんだけど、そこは女子が多くて困ったんだ。だから止めた。そしてその地方でも幾つか学校を変ったけど、全然ダメでさ。仕方なくこっちに来た時に三度目の高校受験でようやく希望通りの学校に入れたんだけど、やっぱり退屈して来てさ。さすがに親にはもう高校受験はダメだって言われて……」

 僕は思わず健斗の話を止めていた。

「ちょっと待ってくれ。三度も受験するって……流石君は今、幾つなの」
「僕は二十歳だよ」
「えーっ!」

 星羅と美紀の声が見事に重なっていた。僕も正直驚きを通り越して、まるで宇宙人を見るような目で健斗を見ていた。しかしそれを聞いたことで、これまで僕の中でモヤモヤしていたものが晴れて行くのが分かる。

 僕より先に初体験を済ませたとか、タバコも酒も抵抗なく受け入れられたのも彼が二十歳だからこそなのである。それにしても見事にやられた気がする。
 どう見ても十八歳の高三に見えるし、二十歳を思わす片鱗など皆無なのだから見事としか言えない。
僕と星羅が言葉も無く健斗を見たままでいると、美紀がそっと席を立った。

「私、ちょっと用を思い出したから、帰るね」

 彼女の気持ちは分かりすぎるほど分かる。彼の異常さに慣れた僕でさえひっくり返るほどの衝撃だったのだから、初めて会って驚愕の事実を聞かされればああなるのが普通だと思う。

 しかし星羅は違っていた。美紀が帰ったのも気にならない程、健斗を質問攻めにしたのである。同時に明日から、何だか意味も無く楽しくなるのではないかと思う僕がいた。


 それからと言うもの、健斗が年上と分かったから何かが変ったかと訊かれても、何も変わらないと言うのが答えになるだろう。
 本人が全く気にしないのもあるが、僕も彼が年上と分かっても何をどう対処すればいいのかなんて、考えること自体が面倒臭いのである。彼がそれでいいのなら、それでいいと思っている。 
 ただ十八歳の女子高生にしてみれば年上の同級生という設定は魅力的なのか、星羅はあれだけ嫌がっていた理科標本室に健斗と一緒に行ったりするのだから世の中、変れば変るものである。
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