その18 天才じゃね?

文字数 1,012文字

 そして一週間後。模試の結果が出る日が来た。

 僕達の高校では定期試験の時には公表されないが、模試になるとそれぞれのコースの上位十名の名前と点数が公表される。それを見て一喜一憂する者が大半だが、僕や健斗のように全く興味を示さない者もいる。
 僕と健斗が屋上で昼食を摂っていると、星羅が髪を振り乱して駆けて来る姿が見えた。そして僕達の(そば)に来ると肩で息をしながら言った。

「あなた達って何者?」
「はぁ?」

 僕と健斗には意味が分からず、パンで口一杯にした顔で星羅の顔を見上げていた。彼女は僕と健斗の顔を見比べながら言った。

「流石君。あなた、七科目七百点満点で六百八十五点の断トツ一位じゃない。二位が五百七十点だから、もう神の領域よ」
「そうか?」

 健斗は何も感じないのか平然と牛乳を飲んでいる。僕も正直。星羅が何を息巻いているのか全く分からない。

「それがどうかしたのか」

 星羅は今度、僕の方に向かって息も荒く言った。

「矢野君も矢野君よ。何が勉強は苦手よ。あなた私立文系で七位よ。分かる? 学年の半分は私立文系で出している中で七位よ。凄い事よ」
「そうなのか?」

 星羅はその場にへたり込んでしまっていた。

「私はとんでもない人達と関わりを持ってしまったのね」

 パンと牛乳をやっつけてしまった健斗が笑いながら言った。

「まぁ、あんなのマグレだから気にすること無いよ」

 それを聞いた星羅が呆れ顔で言った。

「マグレであんな点を取られたら、他の生徒がたまらないわ。もう大騒ぎになっているわよ。この流石って誰だってね」 

 その言い方がおかしかったので、僕も笑いながら言った。

「そうだよ。僕だって今回はマグレでそんな成績だったんだよ。次は分からないさ」

 星羅は僕達にはっきり聞こえる大きな溜息をついて言った。

「あなた達、頭は良かったんだ。いつもは訳の分からない無駄話ばかりしているのに、隠していたんだ」

 すると健斗が頭を掻きながら言った。

「そんなつもりはなかったんだけどな」

 僕もつられて頭を掻きながら言った。

「そうなんだ。そんなつもりはなかったんだ」

 星羅は僕達がとんでもない事をしたように言うが、当の本人にすればそんな意識は無いのである。ただ目の前の問題を解いただけ。偶然それが正解だっただけなのだが、僕は星羅に対して何か罪を犯したような気持ちになってしまった。

 健斗も僕と同じ気持ちなのか、身の置き場が無いように憐みを乞うような目で僕と星羅を見ていた。
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