その40 突然の別れ

文字数 811文字

 翌週の定期試験も終わり、後は夏休みを迎えるだけとなった。今日一日最後の授業を受けると、明日は終業式と掃除で終わりである。心なしか足取りも軽い僕だった。

 教室に入るともうそれがルーティンのようになっている星羅がやって来た。

「おはよう」
「おはよう」
「今日一日がんばったら、明日から休みだね」
「そうだね」
「夏休みの予定は立てた?」
「別に」
「そうなんだ。ねぇ、矢野君。折角の夏休みだから旅行でもしない?」
「旅行?」
「どこでもいいから、一泊二日くらいでさ」
「ううん」

 どうせ一日中家でゴロゴロしているよりはマシなのだろうが、どうも気が引ける。

「考えておくよ」
「じゃあね」

 星羅は去って行った。
 ふと気が付くと、今日はまだ健斗が来ていない。いつもは僕より早いのだがどうしたのだろう。その内にでも来ると持っていたのだが、結局彼は授業が始まろうとする時にも来ていなかった。

 やがて担任がやって来て、僕達にいきなり言った。

「突然だが、流石君が転校することになった」
「えーっ!」

 とにかく突然すぎて、クラスの中は騒然とした。ただ、僕と星羅だけは理由が分かるだけに下を向いて笑いをこらえていた。

 全く、健斗というやつは本当に糸の切れた凧のようなやつだ。自由気ままにやりたいようにやってくれる。あそこまで自由だと、さすがの僕も羨ましくなってしまう。
 しかし彼はこの学校をつまらないと、本当に思ったのだろうか。僕の感覚では結構気に入っていたように思える。しかも美紀という強力なパートナーも現れている。色々考えてみるのだが、これと言った理由が見つからない。

 そのうちクラスの一人が尋ねていた。

「流石君は何処に行くんですか?」
「流石君はお父さんの仕事の都合で、アメリカに行くことになったんだ」
「マジかよ!」

 今度は僕が思わず口にしていた。ただ単純に面白くないから止めたのではなかったのである。僕は星羅を見た。彼女も僕の方を見て驚きの表情を見せていた。
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