その6 開けてはいけない箱の蓋
文字数 1,285文字
誰に教えて貰った訳でもなく、卑猥 な動画で覚えた訳でもないのに体が勝手に動くのである。僕は次第に楽しくなってきた。
しかし僕の初めての経験はすぐに終わってしまった。初めてのセックスなんてこんなものなのだろうか。確かに快感はあったがそれは一瞬で、徒労感 の方が大きいような気がする。
こんな事ならボルトをナットで締める時、最後に締まる瞬間のキュッとした感覚の方が僕には心地良い。世の雄達はこんな事の為に雌を追い掛け回すのだろうか。徒労感しか残らないのを思えば滑稽 に思えた。
それはともかくとして、僕は初めての経験の感想を彼女に語るべきなのだろうか。また「おかしい」などと文句の一つも口にされるのだろうか。そんな事なら無理に語ることもないだろう。
星羅はベッドの中でシーツに隠れるように小さくなっている。特に抵抗もされず、されるがままになっていたのだから無理やりだと言われる筋合いはないはずだ。ただいきなりというのはまずかったかもしれない。もう少し時間をかけて説明した方が良かったかもしれない。しかし今更何を考えた所でもう遅すぎる。
僕は服を着ると顔を隠したままの彼女に言った。
「大丈夫?」
返事は無かった。
「怒っているのか?」
するとようやく星羅が顔を出した。
「矢野君。前にも誰かにこんな事をしたことがあるの?」
「いや。ないよ」
「ちょっと酷 いんじゃない?」
「やっぱりそうか。謝るよ」
「謝るって……」
星羅は僕の言葉に呆れたのか、いきなりベッドから半裸の姿で出て来た。
「本当はね。謝って済む事じゃないのよ。分かってる?」
「多分、そうじゃないかとは思ってる」
星羅は無言で辺りに散らばった制服を身に付けると、元の姿で言った。
「私、帰る」
「そう。送るよ」
「いいわ。一人で帰る」
「大丈夫?」
「今更 何よ」
僕は彼女が相当怒っていると思った。しかし玄関先で彼女が靴を履き、ドアを出て行こうとした時、急に振り返って言った。何事も無かったかのようなスッキリとした顔だった。
「次は前もって言ってよね」
「は?」
星羅はそれだけ言って出て行った。何だか狐にばかされたような気持ちだった。僕は彼女に本当に悪い事をしたのだろうか。
傷ついた女子があんなに晴れ晴れとした顔を見せるだろうか。女子の考える事は本当に分からないことだらけだ。しかし意味も無くヘラヘラする馬鹿な男達に比べればはるかにましだと思った。
翌日、僕が教室に入ると、星羅が昨日の事など忘れてしまったかのようにしれっと近づいて来て言った。
「矢野君。おはよう」
「おはよう」
「今朝はちゃんとご飯は食べて来たんでしょうね」
いつもと全く変わらない星羅だった。ただ昨日と違うのは、妙にべったり張り付いてくるような視線と、昨日より濃密なボディコンタクトだった。
同時に彼女が帰り際に捨て台詞のように言った『次は前もって言ってよね』という一言が僕の心にずっしりと圧し掛かってきた。
まさか僕は『次』を暗に要求されているのだろうか。もしそうだとすると……僕は彼女の心の奥底に仕舞ってあった、開けてはいけない箱の蓋を開けてしまったような気分になった。
しかし僕の初めての経験はすぐに終わってしまった。初めてのセックスなんてこんなものなのだろうか。確かに快感はあったがそれは一瞬で、
こんな事ならボルトをナットで締める時、最後に締まる瞬間のキュッとした感覚の方が僕には心地良い。世の雄達はこんな事の為に雌を追い掛け回すのだろうか。徒労感しか残らないのを思えば
それはともかくとして、僕は初めての経験の感想を彼女に語るべきなのだろうか。また「おかしい」などと文句の一つも口にされるのだろうか。そんな事なら無理に語ることもないだろう。
星羅はベッドの中でシーツに隠れるように小さくなっている。特に抵抗もされず、されるがままになっていたのだから無理やりだと言われる筋合いはないはずだ。ただいきなりというのはまずかったかもしれない。もう少し時間をかけて説明した方が良かったかもしれない。しかし今更何を考えた所でもう遅すぎる。
僕は服を着ると顔を隠したままの彼女に言った。
「大丈夫?」
返事は無かった。
「怒っているのか?」
するとようやく星羅が顔を出した。
「矢野君。前にも誰かにこんな事をしたことがあるの?」
「いや。ないよ」
「ちょっと
「やっぱりそうか。謝るよ」
「謝るって……」
星羅は僕の言葉に呆れたのか、いきなりベッドから半裸の姿で出て来た。
「本当はね。謝って済む事じゃないのよ。分かってる?」
「多分、そうじゃないかとは思ってる」
星羅は無言で辺りに散らばった制服を身に付けると、元の姿で言った。
「私、帰る」
「そう。送るよ」
「いいわ。一人で帰る」
「大丈夫?」
「
僕は彼女が相当怒っていると思った。しかし玄関先で彼女が靴を履き、ドアを出て行こうとした時、急に振り返って言った。何事も無かったかのようなスッキリとした顔だった。
「次は前もって言ってよね」
「は?」
星羅はそれだけ言って出て行った。何だか狐にばかされたような気持ちだった。僕は彼女に本当に悪い事をしたのだろうか。
傷ついた女子があんなに晴れ晴れとした顔を見せるだろうか。女子の考える事は本当に分からないことだらけだ。しかし意味も無くヘラヘラする馬鹿な男達に比べればはるかにましだと思った。
翌日、僕が教室に入ると、星羅が昨日の事など忘れてしまったかのようにしれっと近づいて来て言った。
「矢野君。おはよう」
「おはよう」
「今朝はちゃんとご飯は食べて来たんでしょうね」
いつもと全く変わらない星羅だった。ただ昨日と違うのは、妙にべったり張り付いてくるような視線と、昨日より濃密なボディコンタクトだった。
同時に彼女が帰り際に捨て台詞のように言った『次は前もって言ってよね』という一言が僕の心にずっしりと圧し掛かってきた。
まさか僕は『次』を暗に要求されているのだろうか。もしそうだとすると……僕は彼女の心の奥底に仕舞ってあった、開けてはいけない箱の蓋を開けてしまったような気分になった。