その11 呼び出し
文字数 1,216文字
放課後、僕が帰ろうとしていると噂の牧野がやって来て言った。やたらと挑戦的な目だった。星羅の感じた嫌らしい目とは、この目の事なのだろうか。
「矢野。ちょっと付き合ってくれよ」
「何か用?」
「用ってほどじゃないけど、顔を貸してくれよ」
「やだな。貸せる顔なんてないからね」
「なんだと!」
牧野は急に凄みだした。しかし、どちらかと言えば細い華奢 なタイプの彼が凄んだところで、あまり迫力は感じない。ここは一応気を使っておどおどした方が良いかもしれない。
どうしてここまでこんな奴に気を使わなければいけないのか、自分でも嫌になる。本能的に争いを避けているのかもしれない。
「な、何だよ。僕が何かしたのか?」
「ごちゃごちゃ言わずに来いよ」
彼は僕の肩を乱暴に掴むと、廊下に引っ張り出した。
「分かったよ。分かったから手を放せよ」
「分かればいいんだ」
「それで、何処に行くんだ?」
「付いて来れば分かる」
彼はそう言って先に歩き出した。気は乗らないが、僕も彼の後に続いた。
彼が連れて来たのは僕がいつも昼を食べている屋上だった。そこには二組の柳田と三組の榎木がいた。
この三人は絵に描いたような不良で、今の時代に茶髪でリーゼントなんて流行らないとは思うのだが、彼等はそれがステータスであるかのように構えている。両ポケットに手を入れて斜にこっちを見てくる視線に、いくらかの敵意が感じられた。
牧野は僕を二人の前に連れて来ると彼等の間に入り、同じように斜に構えて僕を威嚇するように言った。
「矢野さぁ、おまえ、星羅と付き合ってんのか?」
親しい男女の間で、どこからが『付き合っている』になるのか分からない。セックスをしたかしないかで判断するなら僕達は『付き合っている』のかもしれないが、果たしてそれが境界線かどうかを考えると違うような気もするし……全く分からない。
僕は適当に答えた。
「僕が、渡辺さんと? まさか」
「違うのか?」
「違うよ。ただの友達だよ」
柳田が一歩前に出て、さらに僕を威嚇するように言った。
「何だかいつも仲良さげじゃねぇの?」
「そうかな。別に意識はしていないけど」
「本当かよ。いつも屋上で一緒にメシ食ってるって話じゃねぇか」
「あ、見ていたんだ。じゃあ、来ればよかったのに」
「何!」
柳田の顔色が変った。僕は彼に変な事を言っただろうか。ただ一緒にご飯を食べようと誘っただけなのに、どうして顔色を変えられなければいけないのだろう。
「おまえ、ふざけてんのか!」
柳田は僕の鼻先まで顔を近づけて恐ろしいまでの目付きで僕を睨んだ。その後ろから牧野がおっとりと声をかけた。
「まぁ、柳田。そこまで言うなよ」
柳田は「ちっ!」などと舌打ちして下がった。その姿を見て僕は思わず連想してしまった。
それは映画がまだ白黒の時代に撮られた街中のチンピラの姿で、喧嘩では絶対に勝てない相手にせめてもの強がりを見せる姿と重なって見えたのだ。僕は笑いをこらえるのに必死だった。
「矢野。ちょっと付き合ってくれよ」
「何か用?」
「用ってほどじゃないけど、顔を貸してくれよ」
「やだな。貸せる顔なんてないからね」
「なんだと!」
牧野は急に凄みだした。しかし、どちらかと言えば細い
どうしてここまでこんな奴に気を使わなければいけないのか、自分でも嫌になる。本能的に争いを避けているのかもしれない。
「な、何だよ。僕が何かしたのか?」
「ごちゃごちゃ言わずに来いよ」
彼は僕の肩を乱暴に掴むと、廊下に引っ張り出した。
「分かったよ。分かったから手を放せよ」
「分かればいいんだ」
「それで、何処に行くんだ?」
「付いて来れば分かる」
彼はそう言って先に歩き出した。気は乗らないが、僕も彼の後に続いた。
彼が連れて来たのは僕がいつも昼を食べている屋上だった。そこには二組の柳田と三組の榎木がいた。
この三人は絵に描いたような不良で、今の時代に茶髪でリーゼントなんて流行らないとは思うのだが、彼等はそれがステータスであるかのように構えている。両ポケットに手を入れて斜にこっちを見てくる視線に、いくらかの敵意が感じられた。
牧野は僕を二人の前に連れて来ると彼等の間に入り、同じように斜に構えて僕を威嚇するように言った。
「矢野さぁ、おまえ、星羅と付き合ってんのか?」
親しい男女の間で、どこからが『付き合っている』になるのか分からない。セックスをしたかしないかで判断するなら僕達は『付き合っている』のかもしれないが、果たしてそれが境界線かどうかを考えると違うような気もするし……全く分からない。
僕は適当に答えた。
「僕が、渡辺さんと? まさか」
「違うのか?」
「違うよ。ただの友達だよ」
柳田が一歩前に出て、さらに僕を威嚇するように言った。
「何だかいつも仲良さげじゃねぇの?」
「そうかな。別に意識はしていないけど」
「本当かよ。いつも屋上で一緒にメシ食ってるって話じゃねぇか」
「あ、見ていたんだ。じゃあ、来ればよかったのに」
「何!」
柳田の顔色が変った。僕は彼に変な事を言っただろうか。ただ一緒にご飯を食べようと誘っただけなのに、どうして顔色を変えられなければいけないのだろう。
「おまえ、ふざけてんのか!」
柳田は僕の鼻先まで顔を近づけて恐ろしいまでの目付きで僕を睨んだ。その後ろから牧野がおっとりと声をかけた。
「まぁ、柳田。そこまで言うなよ」
柳田は「ちっ!」などと舌打ちして下がった。その姿を見て僕は思わず連想してしまった。
それは映画がまだ白黒の時代に撮られた街中のチンピラの姿で、喧嘩では絶対に勝てない相手にせめてもの強がりを見せる姿と重なって見えたのだ。僕は笑いをこらえるのに必死だった。