その7 僕も済ませた
文字数 962文字
その日の昼休み、僕がいつものように屋上でパンと牛乳を頬張 っていると健斗がやって来て何も言わずに僕の隣に座って、僕と同じように無言でパンと牛乳を頬張った。
お互い無言の時間が過ぎた。やがて僕が先に食べ終わったので健斗に言ってやった。
「僕も昨日、済ませたよ」
言いたかった言葉がやっと話せた。僕の体を昨日の快感以上の物が走った。やっぱりこれは魔法の言葉だと思った。健斗は意味が分からないのか、指でこめかみ辺りをポリポリと掻きながら言った。
「何を?」
「だから初めてのセックス」
健斗の瞳が明らかに驚いていた。
「そうなんだ。やったんだ」
「うん。やったんだ」
「もしかして、昨日帰りに話していた女子なのか?」
「うん」
「へぇ」
健斗はそう言ったきり、またパンを頬張っていた。そして最後の牛乳を飲み干すと言った。
「矢野君は凄いね」
「何が?」
「そんな簡単にセックスの出来る相手を見つけられるなんて、誰にでも出来る事じゃないよ」
「そうかな。あいつの顔しか浮かばなかっただけなんだ」
「ふぅん。じゃあ、あの子に嫌だと言われたらどうするつもりだったの?」
「さぁ……他に探したかも」
健斗が笑った。彼が笑うと、どういう訳か僕は安心する。不思議だ。
「僕は矢野君のそういう所が好きだな」
「どういう所?」
「そうだな。場当たり的って言うか、その場凌 ぎっていうか、何にも考えないって言うか、そんな所かな」
僕は褒められているのか貶 されているのか分からない複雑な気持ちだった。しかし彼が笑いながら口にするのだから悪い意味じゃないと思えた。彼はさらに言った。
「彼女は何か言ってた?」
「どうだろう。終わった時は怒っていたみたいだったけど、帰りにはケロッとしていたな」
「そうだろうね。矢野君はそんな空気を持っているから」
「どんな空気?」
「何かとんでもない事を仕出かしたとしても、それが矢野君だと不思議と許せる……みたいな?」
僕には良く分からなかった。僕が何をやっても許されるタイプだと言われたように思うのだが、そんな人間でないことは僕自身が一番知っている。
「そんなの、君の善意の考え過ぎだよ」
「そうかな」
健斗は昨日のように寝転ぶと「あぁ」と言いながら大きく伸びをした。僕も同じように寝転んで空を見上げた。昨日は全くの快晴だったが、今日は雲の塊が幾つか浮いていた。
お互い無言の時間が過ぎた。やがて僕が先に食べ終わったので健斗に言ってやった。
「僕も昨日、済ませたよ」
言いたかった言葉がやっと話せた。僕の体を昨日の快感以上の物が走った。やっぱりこれは魔法の言葉だと思った。健斗は意味が分からないのか、指でこめかみ辺りをポリポリと掻きながら言った。
「何を?」
「だから初めてのセックス」
健斗の瞳が明らかに驚いていた。
「そうなんだ。やったんだ」
「うん。やったんだ」
「もしかして、昨日帰りに話していた女子なのか?」
「うん」
「へぇ」
健斗はそう言ったきり、またパンを頬張っていた。そして最後の牛乳を飲み干すと言った。
「矢野君は凄いね」
「何が?」
「そんな簡単にセックスの出来る相手を見つけられるなんて、誰にでも出来る事じゃないよ」
「そうかな。あいつの顔しか浮かばなかっただけなんだ」
「ふぅん。じゃあ、あの子に嫌だと言われたらどうするつもりだったの?」
「さぁ……他に探したかも」
健斗が笑った。彼が笑うと、どういう訳か僕は安心する。不思議だ。
「僕は矢野君のそういう所が好きだな」
「どういう所?」
「そうだな。場当たり的って言うか、その
僕は褒められているのか
「彼女は何か言ってた?」
「どうだろう。終わった時は怒っていたみたいだったけど、帰りにはケロッとしていたな」
「そうだろうね。矢野君はそんな空気を持っているから」
「どんな空気?」
「何かとんでもない事を仕出かしたとしても、それが矢野君だと不思議と許せる……みたいな?」
僕には良く分からなかった。僕が何をやっても許されるタイプだと言われたように思うのだが、そんな人間でないことは僕自身が一番知っている。
「そんなの、君の善意の考え過ぎだよ」
「そうかな」
健斗は昨日のように寝転ぶと「あぁ」と言いながら大きく伸びをした。僕も同じように寝転んで空を見上げた。昨日は全くの快晴だったが、今日は雲の塊が幾つか浮いていた。