その35 石野さんが倒れた

文字数 808文字

 その後はもう星羅のワンマンショーと言っても良かった。怖さに敏感になりすぎた彼女は、挙句には自分の影を見ても絶叫していた。僕はお化けその物に対する面白さは感じなかったが、恐れおののく星羅もまた見応え十分だと思った。

 何とか出口までたどり着き、明るい日差しの下に出て来た時、星羅はもうヘロヘロだった。僕に体を預けるように倒れ、息も荒くぐったりしていた。

 僕は近くのベンチに彼女を座らせると言った。

「面白かったね」

 星羅は肩で息をしながら言った。

「どこがよ」

 恨めしそうに見上げる星羅の視線を避けるように言った。

「中々凝った造りで、僕は良かったと思うよ」
「あ、そうなの。でも、次からは私を絶対に誘わないでね」
「そう。楽しいのに」

 そう言いながら健斗達を探したのだが、まだ中にいるのかその姿は見えなかった。しかし。五分経っても十分経っても彼等の姿は見えなかった。

「おかしいな。もう出て来てもいい頃なのに」

 その頃には息も落ち着き、いつもの彼女に戻った星羅も心配していた。

「遅いね。何かあったのかな」

 その時、僕のスマホが唸った。健斗からだった。

「もしもし、僕だけど、どうしたの」

 すると健斗らしくない焦った声が聞こえた。

「石野さんが途中で倒れちゃってさ。意識が飛んじゃっていたから脱出口から出してもらったんだ」
「えっ! そうなのか。石野さんは大丈夫なのか」
「うん。今は意識も戻っている」

 僕と星羅は思わず安堵の溜息をついていた。

「それで、今はどこ? 病院なの」
「違う。石野さんが家に送って欲しいって言うから、タクシーで向かっているところ」
「そうなんだ。じゃあ石野さんは流石君に任せるよ」
「分かった」 

 スマホを切ってから僕はしみじみ言った。

「相当怖かったみたいだね」
「そうね。彼女にはきつかったのかもね」

 さっきまでの星羅の様子と言い、今の石野さんの状態と言い、健斗から言い出した話ではあるのだが、反省してしまう僕だった。
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