その15 釈然としない気持ち

文字数 897文字

 健斗は柳田の髪の毛を持って顔を引き上げて動画を見せながら言った。

「君達は三人で勝手に喧嘩して、勝手に血を流したんだ。いいね。もし僕達に仕返ししようなんてしたら、これをネットに流すよ。君達の顔写真と住所も一緒にね」

 虚ろな目付きの柳田の顔を、健斗は一度平手打ちした。

「ねぇ、聞いてる?」

 健斗がもう一度尋ねると、柳田は腫れあがった顔で言った。

「わ、分かった……」

 柳田は声を震わせて、首を縦に振るだけだった。

「これで大丈夫だ」

 柳田の頭を戻す健斗に僕は、『釈然としない気持ち』を尋ねた。

「ねぇ、流石君。一つ訊いていいかな」
「何?」
「君は僕がやられているのを、最初から撮っていたんだ」
「うん。最初からね」
「へぇ、最初から……見ていただけなんだ」
「そうだよ。見ていただけだよ。それが何か?」
「いいや。別に」

 体中から力が抜けるような脱力感があった。でもそれが気持ち悪いとか胸が悪くなる感覚にはならず。どちらかと言えば清々しく思うのは、彼と僕が同じタイプの証とも思えた。同時に、流石健斗という生徒の冷酷さを見た気もした。

 僕は持っていた角材を牧野に持たせ、健斗は自分の角材を柳田に持たせた。その時、彼が何かを見つけたようだった。

「あ、いい物があった」

 それは榎木がポケットに仕舞っていた煙草とライターだった。

「これも使おうよ」
「どうやって」

 健斗は煙草を数本取り出すと彼等の周りに散らばらせた。そして自分で一本咥えると火を点け、大きく吸いこむと彼等に吹き付け、その後足元で捻じるように消した。

「流石君は煙草を吸うの?」
「矢野君は吸わないの?」
「僕は吸わない」
「僕はたまにね……もちろん外では吸わないよ。家の中でね」
「家族がいるだろう」
「いるけど関係ないよ」
「そうなんだ」

 僕は健斗だけではなく、彼の両親もどんな人物なのか物凄い興味が湧いたのだった。


 その後、僕達は職員室に駆け込み、踊り場であの三人が大騒ぎしていると焦りに焦った演技で伝えると、教頭や保健体育のいかつい教師達が走って行った。そして数分後、遠くの方から救急車のサイレンが聞こえて来た。

 その日を境に校内から牧野、柳田、榎木の姿が消えた。
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