その32 必殺技

文字数 748文字

 僕がぼんやりとそんな風に考えていると星羅が声を荒げていた。

「矢野君! 聞いているの」
「あ、聞いているよ。分かった。一緒に行くよ」

 簡単なものである。自分の思うようになった途端、星羅は満面の笑みを浮かべてサラッと言った。

「じゃあ、今度は休みの日に会おうよ」
「ええっ……休みの日は休みたいよ」
「何を年寄り染みたことを言うの。矢野君も気にいるような場所を探すから」
「そうか? じゃあ期待しているよ」
「じゃあ、流石君は必ず連れて来てよ」
「分かった」
「じゃあね!」

 星羅は言うだけ言うと、また走って行ってしまった。僕は本当に彼女に恋をしているのだろうか。自分に自信が持てなくなってきた。ひたすら面倒臭いのである。

 すると今度は健斗が背後から声をかけてきた。

「矢野君。どうしたんだ? ぼんやりして」
「ああ、流石君こそ、『信子さん』に会いに行ったんじゃないのか?」
「それがさ、途中で担任に捕まってさ。職員室に連れて行かれたんだ」
「何かやったのか?」
「違う。何だか知らないけど、僕に国立のM大を受けろって言うんだ」
「へぇ! 超が三つぐらい付く優秀校じゃないか。君なら合格出来るよ」
「でも僕は嫌いなんだ。行きたくない」
「何だよ。勿体ない」
「進学先ぐらいは自分で決めたいさ」

 健斗らしいと思った。それに担任が彼にM大を勧めるのも理解出来る。M大に入るような生徒がいたとなると、うちの入学志望者が増えるからだ。大人の事情とは本当に醜いものだ。

 僕はそんな話は別にして、星羅の頼みを彼に伝えた。僕が予想した通り健斗はかなり渋ったが、効くかどうか自信は無かったがあの必殺技を使った。

「僕の頼みでもダメかな」
「えっ! 仕方ないなぁ」

 健斗の返事を聞いて思った。どうやらこの技は、男も女も関係なく誰が誰に使っても有効らしい。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み