その34 お化け屋敷

文字数 1,291文字

 プラネタリウムがあるホールまでは、立ち並ぶ女子ウケする店の前を歩かなければならない。僕達には興味の無い小物や古着の店の前を通るたびに二人の女子は歓声を上げて立ち寄っている。お蔭で僕達は何度も待たされる羽目になった。

「帰ろうか」

 僕がそれとなく言うと、健斗は少し先の人だかりを指差して言った。

「矢野君。あそこ、面白そうだよ」
「どこ」

 そこには人の列が見えていて、さらにその脇には建物を見上げて何事かを相談している姿も見えた。

「何だろう」
「行って見ようよ」

 僕は品物を選んでいる女子二人を半ば強引に引っ張って、健斗と一緒にその人だかりに向かった。そして建物を目の前にして健斗が瞳を輝かせていた。

「お化け屋敷だ!」

 建物の前面にはオドロドロしい文字と絵で、そこが昔懐かしい『お化け屋敷』であることを教えていた。

 二人の女子は引き気味なのだが、健斗はますます気合が入ってきたようである。

「予約の時間にはまだ余裕があるんだろう? だったら暇つぶしに入ってみようよ」
「えー!」

 女子二人の声がまた見事に重なってしまった。僕も昔から怖いもの見たさが強く、お化け屋敷は大好物である。僕はためらうことなく言った。

「行こうよ。面白そうじゃないか」

 星羅が恐々(おそるおそる)言った。

「四人で行くのね」

 すると健斗が意外だと言う顔をした。

「何を言っているんだ。こういう場所は一人か二人で行くものさ」
「えー、何となく嫌だな」
「じゃあ、渡辺さんは矢野君と行きなよ。僕は石野さんと行くから」

 健斗の提案は彼女達の気持ちを動かしたようで、結局はまんざらでもない顔で従うのだった。

 そのお化け屋敷は『墓場コース』と『病院コース』があって、僕達は病院コースを、健斗達は墓場コースを行くことになった。

 入口で僕は健斗達二人に言った。

「じゃあ、出口でね」

 美紀の顔色が星羅以上に青白く変っていた。


 建物の中に入ると病院コースと言うだけあって、暗闇の中に廃墟となった病院のセットが組まれている。時々「キャー」だの「ウソー!」だのの女子の声に交じって、男の野太い声で「オワッ!」などと聞こえたりする。建物の見た感じから狭い印象があったのだが、赤いライトで照らされたその場所は結構広く感じられた。

 僕は久々のお化け屋敷なので気持ちは高ぶっているのだが、そんな僕の気持ちに水を差すのが星羅だった。とにかくベッタリ張り付いて来るのである。いつも以上に密着度は高く、歩きにくいことこの上なかった。

「あのさ、渡辺さん」
「な、何」
「少し離れてくれないかな」
「どうして」
「こんなにくっ付かれると、歩きにくくて仕方がないんだ」
「な、何言ってるの。誘ったのはそっちでしょ、最後まで責任とってよ……ギャー!」

 僕達の目の前に腹の中から内臓をはみ出させた男が飛び出て来た。星羅はこれ以上出ないと思うほどの強い力で僕の腕を握った。

「痛ててて……」

 僕が声を上げても星羅の力は抜けなかった。逆にさらに力が込められたようだった。

「アギャー!」

 また星羅の絶叫である。今度は眼球が(こぼ)れ落ち、頭に手術道具が刺さったままの血だらけの女がこちらにヨロヨロと近づいて来ていた。
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