その19 理科標本室

文字数 1,140文字

 それからと言うもの、僕達の昼食風景には変化が出て来た。

 これまでは屋上で昼食を食べていたのは僕と健斗、そして星羅の三人だったのだが、いつの間にか三人とか四人のグループが幾つか進出してきており、様子を見ているとどうやら僕達を観察しているようなのである。

 そんな視線に最初に気付いたのは星羅だった。

「最近、私達見られてない?」
「そうかな」

 健斗が周りを見回して言った。僕も同じように周りを見て言った。

「気になるの?」
「なんだかさぁ、人が多くない?」
「まぁ。言われてみれば、屋上で昼を食べる生徒は増えたかな」
「ね、そう思うでしょ」

 健斗は周りのグループの数を数えて言った。

「そうだね。言われてみれば、今日は七つもグループが出来てる。屋上で昼食を食べるのが流行りになって来たのかな」

 星羅はもう定番の呆れ顔で言った。

「何を言っているの。多分皆、あなた達を見に来ているのよ」
「えっ! 僕達を見に来ているのか」

 そう思って僕が幾つかのグループを注視すると、確かにこちらを見ては何か小声で話し合っている。何を話しているのかは分からないが、そんなこそこそしないで言いたい事があるなら、ここまでくればいいのに、どうしてそうしないのだろう。

 星羅はランチボックスを片付けながら言った。

「そりゃね。理系のナンバーワンと文系トップセブンがご飯食べているなら、どんな顔をしているのか一度は見たくもなるわよ」
「そんなものかな」

 僕にはそんな生徒達の気持ちが分からない。成績なんて試験のたびにコロコロ変るものだろうし、いつまでも同じ成績だという保証も無いのである。一体何を期待しているのかさっぱり分からない。

 すると健斗がぽつりと言った。

「僕達と、友達になりたいのかな」
「どうして」
「一応は有名人だしさ」
「なるほどね。じゃあ、サインの練習しなくちゃいけないのかな」
「どうだろう。僕はサインは苦手だな」
「僕もだ。どう書いていいかも分からない」

 僕と健斗が真面目な顔で話していると、星羅が苦笑いを浮かべていた。

「あなた達、何をどう考えたらそんな発想になるかな。信じられないわ」
「そうかな……」

 僕がぶつぶつ言っていると、星羅は「さてと」などと言って健斗の肩を叩いた。

「人に見られてご飯を食べるのも何だし、今度から場所を変えない?」
「場所を変える? どこに」
「それは、もっと人の少ない落ち着いた場所よ。そして簡単には行き辛い所」
「そんな場所なんてあるのか」
「それを探すのよ」
「探すと言ったって、僕はまだこの学校に完璧慣れた訳じゃないから無理だよ」

 健斗が頭を掻いている時、僕に良い考えが浮かんだ。

「あ! あるよ。良い所が」
「え、どこ、どこ」
「理科標本室」
「は?」

 星羅は僕が何を言い出すのかと、怪訝な顔をしていた。
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