その36 健斗の変化

文字数 941文字

 月曜日の朝、僕は健斗に尋ねた。

「昨日は大変だったね」
「そうだね。そっちは大丈夫だったの?」
「こっちはね。ほら」

 僕は友達と語って、笑っている星羅を指差していた。

「本当だ。渡辺さんはタフなんだね」
「そうでもないよ。昨日は死にそうになっていたから」
「そうなんだ」
「石野さんはそんなに怖がりだったの?」
「そうだなぁ。とにかく中に入る時から僕の腕をがっちり掴んでさ。これは大変だなと思った途端に生首が飛んできて」
「ああ、それは大変だ」
「それで一発目のギャーが来てさ。しばらく歩いていると墓場から落ち武者が出て来たんだ。それで二発目のギャー」
「うわ、最悪」
「そう。あれは最悪だったな。僕は全身に石野さんがまとわりつくような感じで……強烈なプロレス技をかけられたみたいだった」

 健斗はその時の事を思い出しているのか、いつもよりぼんやりと宙を眺めていた。

「そこで彼女は意識を失ったのか」
「多分、そうだと思う。いきなり彼女が重くなったからね」
「本当にご苦労さんって感じだな。申し訳なかったね。無理やり誘ってそんな目に遭わせてしまって」

 しかし健斗にはあまり迷惑ではなかったようで、何も無かったように言ってくれた。

「別に構わないよ」

 僕には普段と変らない健斗に思えた。


 その日の昼。僕達三人が屋上で昼食を摂っていると、美紀がやって来て仲間に入れてくれと言った。断る理由も無いので「どうぞ」などと軽く言うと、彼女は躊躇(ためらい)なく健斗の隣に座った。何気ない行動なのだが、僕には美紀が少し足を引きずったように思えた。

 美紀が腰を下してランチボックスの蓋を開けようとしている時、星羅が尋ねていた。

「昨日はあれから大丈夫だった?」
「うん。心配かけてごめんね。もう大丈夫だから」

 僕も反省の気持ちを込めて言った。

「悪かったよ。無理やり連れ込んだみたいで」
「大丈夫。もう平気だから」

 美紀が蓋を開けるとそこには、星羅の物とはまた違う弁当の姿があった。美紀はその中から玉子焼きを箸で掴むと健斗に言った。

「食べます?」
「あ? うん」

 僕と星羅は呆気に取られていた。星羅が何度も勧めても滅多に手を付けなかった弁当なのだが、美紀が勧めると何の抵抗も無く受け入れている。僕は健斗に何があったのかと変な勘繰りをせざるを得なかった。
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