その31 これも恋?

文字数 808文字

 その日の放課後、健斗はいつものように『信子さん』の所に行くと言うので、僕は一人で帰った。
 校門から出て少し歩いていると星羅に呼び止められた。

「ちょっと、待ってよ」
「何か用?」

 彼女は走って来たのか、額に汗を滲ませていた。

「そんな走って追いかけて来るなんて、ただ事じゃないな」

 星羅は息を切らせていた。

「そんな訳じゃないけど……流石君はいないの」
「うん。『信子さん』の所じゃないのか?」
「それがさ、私も行ってみたんだけどいないの」
「いない? どうしたのかな。いつもは下校のチャイムまでいるのに」
「他に心当たり無い?」
「無いな。どうかしたのか?」

 星羅の息遣いも収まったようで、額の汗を取り出したハンカチで拭いていた。

「この前会った美紀は覚えているでしょう」
「うん」
「あの子がね。また流石君に会いたいんだって」
「会えばいいじゃん」
「そうなんだけど。今度もまた一緒に会えないかな」
「僕達も一緒って事?」
「そう」
「えー、面倒臭いな。もう一人で会えるだろう。子供じゃないんだから」

 星羅は頬を膨らませて不満を露わにした。

「何冷たい事を言ってんの。それくらいやってよ」
「また流石君のビックリ話で終わりになるかもしれないよ」
「それでもいいの。ねぇ、駄目かな」
「うーん」

 僕がまだ渋っていると、星羅は僕の顔に思いきり近づいて小さな声で言った。

「私の頼みでもダメなの?」

 僕の体に軽い衝撃があった。何だろう。この感覚は……星羅の何気ない一言なのだが、その使い方が微妙で、ふと横を見ると彼女の顔がすぐそこにあるのである。そんな状態で『ダメなの』と言われると、どうしてかそうしなければいけない気持ちになってしまう。
 これが恋に落ちている証拠なのだろうか。だとしたら恋は相当面倒臭い感情であり行為とも言える。
こんな風に思いながらも異性を感じてしまうのは発情しているのかもしれない。そうなるとこの一言は、とんでもない必殺技ということになる。
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