第66話 覚醒
文字数 1,753文字
吹き出す鮮血と共にアズラルトの体は邪神封じの魔剣によって、肩口から縦に半ばまで切断された。丁度、腰のあたりで魔剣は何かに引っかかるようにして止まっている。
魔剣を引き抜こうとしたファブリスだったが、どこかに引っかかっているのか上手く引き抜けない。
今は剣よりもエルのことか。
ファブリスはそう思うと、ファブリスの方へ倒れ込もうとするアズラルトの体を後方へ蹴り上げた。
邪神封じの魔剣をその身に差し込まれたままで、鮮血と共に半ばまで斬り裂かれたアズラルトの体が後方へ倒れる。アズラルトが握っていた長剣はファブリスの胸に刺さったままだった。ファブリスはそれを無造作に抜いて床に投げ捨てた。
アズラルトを今、殺したという事実。セリアや家族の復讐を遂げたという事実。だが、それらの事実があってもファブリスの中には何の感慨も浮かんではこなかった。
望んでいたはずのことだった。狂うほどに渇望していたといってもよかった。だが、何の感慨も浮かんではこなかった。それが、ファブリスには少しだけ不思議だった。
そんな思いを抱きながら、ファブリスは未だ捕らえられているエルの下へ足を向けたのだった。
ここはどこだろうとエルは思った。意識が混濁しているようだ。自分が今、何故寝ているのか。その理由さえも分からない。
手足も含めて体が固まったように動かず、起き上がることができなかった。ただ、目と首だけは辛うじて動かせるようだった。
確か自分はサイゼスピアにいて……。
エルは起き上がることを諦めて、横になったままで記憶を辿る。
ファブリスさん!
そう。ファブリスが勇者によって剣で胸を貫かれて……その後、自分はアズラルトに捕らえられて……。
先程と変わらずエルの体は横になったままで、手足は動かない。視線の先には高い天井があって、ここが大きな建物の中だということをエルに知らせていた。
静かだと思っていたが、とうやら聴力がおかしかったようだった。徐々に聴こえが戻ってくる感覚があった。
やがて、金属がぶつかり合う音が聞こえてくる。
これは……。
エルは僅かに動く首を捻ってその音がする方に顔を向けた。
ファブリスとアズラルトだった。二人が火花を散らしながら剣を交えていた。
よかったとエルは思う。細かな顛末は分かるはずもないが、いずれにしても胸を貫かれたファブリスは無事だったのだ。生きているのだ。
その安心と同時にマーサとアイシスの姿が見えないことにエルは気がついた。
サイゼスピアのあの時から自分が目を覚ますまでに、一体何があったのか。あの時からどれぐらいの時間が経ってしまったのか。
混乱する思考の中で次々と湧き上がってくる疑問を押さえ込みながら、エルはとにかくここから逃げ出さなければと思う。状況からみて自分はここで捕らえられているのだろうとエルは結論づけていた。
エルは再び手足に力を入れてみたが、一向に動く気配がない。アズラルトに捕らえられた時、ガルディスという名の魔道士に何らかの魔法をかけられたことをエルは思い出した。その影響なのだろうかと思う。
自分の四方を囲むようにして白い燭台のようなものがあることにエルは気がついた。どうやら、その四方の中心に自分が寝ているようだった。しかも、自分は少し床から浮き上がっているようでもあった。
自分が置かれている状況は何となく分かった。だが、どうして自分がこのような状況におかれてしまっているのかがエルには分からない。
そこまで考えてエルは再びファブリスに視線を向けた。先刻から金属同士がぶつかり合う音は止まることがなかった。
エルが再びファブリスに赤色の瞳を向けた瞬間だった。視界の中でファブリスの大剣がアズラルトの体を肩口から両断した。
いや、両断したという表現は妥当ではないだろうとエルは思う。ファブリスの大剣は丁度、アズラルトの腰の辺りで止まっている。
アズラルトから噴き出した鮮血で、顔も含めて体中が深紅に染まっているファブリス。
だが、倒したのだ。ファブリスがあの邪神討伐の勇者を倒したのだ。少しだけエルが安堵の溜息を吐き出した時だった。
自分の中で何かが生まれる感覚があった。何かが。あえて言うのであれば、禍々しく不吉な物が生まれてくるような感覚だった。
魔剣を引き抜こうとしたファブリスだったが、どこかに引っかかっているのか上手く引き抜けない。
今は剣よりもエルのことか。
ファブリスはそう思うと、ファブリスの方へ倒れ込もうとするアズラルトの体を後方へ蹴り上げた。
邪神封じの魔剣をその身に差し込まれたままで、鮮血と共に半ばまで斬り裂かれたアズラルトの体が後方へ倒れる。アズラルトが握っていた長剣はファブリスの胸に刺さったままだった。ファブリスはそれを無造作に抜いて床に投げ捨てた。
アズラルトを今、殺したという事実。セリアや家族の復讐を遂げたという事実。だが、それらの事実があってもファブリスの中には何の感慨も浮かんではこなかった。
望んでいたはずのことだった。狂うほどに渇望していたといってもよかった。だが、何の感慨も浮かんではこなかった。それが、ファブリスには少しだけ不思議だった。
そんな思いを抱きながら、ファブリスは未だ捕らえられているエルの下へ足を向けたのだった。
ここはどこだろうとエルは思った。意識が混濁しているようだ。自分が今、何故寝ているのか。その理由さえも分からない。
手足も含めて体が固まったように動かず、起き上がることができなかった。ただ、目と首だけは辛うじて動かせるようだった。
確か自分はサイゼスピアにいて……。
エルは起き上がることを諦めて、横になったままで記憶を辿る。
ファブリスさん!
そう。ファブリスが勇者によって剣で胸を貫かれて……その後、自分はアズラルトに捕らえられて……。
先程と変わらずエルの体は横になったままで、手足は動かない。視線の先には高い天井があって、ここが大きな建物の中だということをエルに知らせていた。
静かだと思っていたが、とうやら聴力がおかしかったようだった。徐々に聴こえが戻ってくる感覚があった。
やがて、金属がぶつかり合う音が聞こえてくる。
これは……。
エルは僅かに動く首を捻ってその音がする方に顔を向けた。
ファブリスとアズラルトだった。二人が火花を散らしながら剣を交えていた。
よかったとエルは思う。細かな顛末は分かるはずもないが、いずれにしても胸を貫かれたファブリスは無事だったのだ。生きているのだ。
その安心と同時にマーサとアイシスの姿が見えないことにエルは気がついた。
サイゼスピアのあの時から自分が目を覚ますまでに、一体何があったのか。あの時からどれぐらいの時間が経ってしまったのか。
混乱する思考の中で次々と湧き上がってくる疑問を押さえ込みながら、エルはとにかくここから逃げ出さなければと思う。状況からみて自分はここで捕らえられているのだろうとエルは結論づけていた。
エルは再び手足に力を入れてみたが、一向に動く気配がない。アズラルトに捕らえられた時、ガルディスという名の魔道士に何らかの魔法をかけられたことをエルは思い出した。その影響なのだろうかと思う。
自分の四方を囲むようにして白い燭台のようなものがあることにエルは気がついた。どうやら、その四方の中心に自分が寝ているようだった。しかも、自分は少し床から浮き上がっているようでもあった。
自分が置かれている状況は何となく分かった。だが、どうして自分がこのような状況におかれてしまっているのかがエルには分からない。
そこまで考えてエルは再びファブリスに視線を向けた。先刻から金属同士がぶつかり合う音は止まることがなかった。
エルが再びファブリスに赤色の瞳を向けた瞬間だった。視界の中でファブリスの大剣がアズラルトの体を肩口から両断した。
いや、両断したという表現は妥当ではないだろうとエルは思う。ファブリスの大剣は丁度、アズラルトの腰の辺りで止まっている。
アズラルトから噴き出した鮮血で、顔も含めて体中が深紅に染まっているファブリス。
だが、倒したのだ。ファブリスがあの邪神討伐の勇者を倒したのだ。少しだけエルが安堵の溜息を吐き出した時だった。
自分の中で何かが生まれる感覚があった。何かが。あえて言うのであれば、禍々しく不吉な物が生まれてくるような感覚だった。