第27話 命乞い
文字数 1,555文字
だが、ジャガルがそう言い終える前に、咆哮を上げてマーサがジャガルに飛びかかった。エルが息を飲んだ瞬間、宙を舞ったマーサにガルディスが戦斧を一閃させた。
マーサの丸太のような前足はガルディスの体に触れることができないままで、マーサは地面に着地する。程なくして着地したマーサの胸から鮮血が流れ出た。
「舐めるな、獣人族。俺は勇者と一緒に邪神を討伐した戦士なんだぜ? 獣人族ごときが俺の相手をできるはずがない」
それを見てファブリスが一歩前へと進み出た。
「こいつは俺が相手をする。お前は兵士どもを殺せ」
「……てめえ、相手をするだと。殺せだと。大きな口を叩くもんだ。ここを切り抜けられるつもりか?」
ガルディスが皮肉で満ちた嘲笑をその顔に貼りつかせた。その嘲笑に合わせるかのように二人の兵士がファブリスに斬りかかっていく。
ファブリスの大剣が一閃、二閃する。一人目は袈裟がけに両断され、二人目は胸部付近で周囲に鮮血を撒き散らしながら両断された。
「……てめえ、どういう仕掛けだ? 魔法か?」
瞬時にただの肉塊となった兵士を前にしてジャガルが掠れた声で呟いた。ジャガルがそう言うのも無理はないとエルは思う。一刀でしかも片手で人を両断できるなど、およそ人の技ではない。あるとすれば、それは人外の技だ。
「邪神を討伐した戦士様は、暫く会わない内にお喋りになったようだな。邪神討伐の功績でお偉い貴族様になったそうじゃないか。お偉くなるとお喋りになるものなのか?」
「てめえ、何の復讐だか知ったこっちゃねえが……セリアのことか? そう言えば、ありゃいい女だったな。てめえの使い古しだったがよ。皆にぶち込まれて、ひいひい言ってたぜ」
余裕を見せるつもりかジャガルが下卑た笑みを浮かべる。大剣を握るファブリスの手が小刻みに震えている。
「……ジャガル、お前はここで死ね」
「舐めるな! てめえ如きが!」
そう吠えながら一気に距離を詰めたジャガルが上段から巨大な戦斧を振り下ろした。ジャガルの戦斧がファブリスを捕らえたかに見えた瞬間だった。
鮮血と共に戦斧を握った太い片腕が宙を舞っていた。ジャガルは何が起こったか分からないといった顔で肘から先が消失してしまった自分の右腕を唖然と見詰めている。
「……マーサ」
ファブリスが低い声でマーサを促した。
兵士たちは一連の出来事に剣を構えるのも忘れて唖然と見ていた。邪神を討伐したはずの最強と言ってよい戦士が、為す術もなく自分たちの前で片腕を切り落とされたのだ。唖然として動けなくなるのは無理もないのだろう。
マーサが唸り声を上げながら、そのような状況の兵士たちに襲いかかった。
一方的な虐殺に長い時間はかからなかった。
次の時、兵士たちの流れ出た鮮血で染まった大地に立っていたのはファブリスとマーサ。そして、片膝をついて右腕から溢れ出す鮮血を必死で止めようとしているジャガルだけだった。
「てめえ、何をしやがった。どこでこんな力を……」
ファブリスが大剣の切先をジャガルの喉元に突きつけると、ジャガルは以降の言葉を飲み込んだ。
「どうした。お前は邪神を倒した強い戦士様なんじゃないのか。これで終わりか?」
揶揄を含んだファブリスの言葉に、大剣の切っ先を突きつけられたジャガルの喉元がひくひくと痙攣しているのが見てとれた。
「待て、待ってくれ。ファブリス! アズラルトだ。アズラルトたちが全部仕組んだことだ。あいつらが絵を描いたことなんだ。俺は何も分からずに命じられただけだ」
「残念だな、ジャガル。その命乞いの仕方が、あのこすっからいゴムザと同じだ」
その言葉にジャガルの顔が屈辱からか大きく歪み始めた。ファブリスはそのまま大剣の切先をジャガルの喉元に押し当てた。たちまちジャガルの喉元から鮮血が溢れ出る。
マーサの丸太のような前足はガルディスの体に触れることができないままで、マーサは地面に着地する。程なくして着地したマーサの胸から鮮血が流れ出た。
「舐めるな、獣人族。俺は勇者と一緒に邪神を討伐した戦士なんだぜ? 獣人族ごときが俺の相手をできるはずがない」
それを見てファブリスが一歩前へと進み出た。
「こいつは俺が相手をする。お前は兵士どもを殺せ」
「……てめえ、相手をするだと。殺せだと。大きな口を叩くもんだ。ここを切り抜けられるつもりか?」
ガルディスが皮肉で満ちた嘲笑をその顔に貼りつかせた。その嘲笑に合わせるかのように二人の兵士がファブリスに斬りかかっていく。
ファブリスの大剣が一閃、二閃する。一人目は袈裟がけに両断され、二人目は胸部付近で周囲に鮮血を撒き散らしながら両断された。
「……てめえ、どういう仕掛けだ? 魔法か?」
瞬時にただの肉塊となった兵士を前にしてジャガルが掠れた声で呟いた。ジャガルがそう言うのも無理はないとエルは思う。一刀でしかも片手で人を両断できるなど、およそ人の技ではない。あるとすれば、それは人外の技だ。
「邪神を討伐した戦士様は、暫く会わない内にお喋りになったようだな。邪神討伐の功績でお偉い貴族様になったそうじゃないか。お偉くなるとお喋りになるものなのか?」
「てめえ、何の復讐だか知ったこっちゃねえが……セリアのことか? そう言えば、ありゃいい女だったな。てめえの使い古しだったがよ。皆にぶち込まれて、ひいひい言ってたぜ」
余裕を見せるつもりかジャガルが下卑た笑みを浮かべる。大剣を握るファブリスの手が小刻みに震えている。
「……ジャガル、お前はここで死ね」
「舐めるな! てめえ如きが!」
そう吠えながら一気に距離を詰めたジャガルが上段から巨大な戦斧を振り下ろした。ジャガルの戦斧がファブリスを捕らえたかに見えた瞬間だった。
鮮血と共に戦斧を握った太い片腕が宙を舞っていた。ジャガルは何が起こったか分からないといった顔で肘から先が消失してしまった自分の右腕を唖然と見詰めている。
「……マーサ」
ファブリスが低い声でマーサを促した。
兵士たちは一連の出来事に剣を構えるのも忘れて唖然と見ていた。邪神を討伐したはずの最強と言ってよい戦士が、為す術もなく自分たちの前で片腕を切り落とされたのだ。唖然として動けなくなるのは無理もないのだろう。
マーサが唸り声を上げながら、そのような状況の兵士たちに襲いかかった。
一方的な虐殺に長い時間はかからなかった。
次の時、兵士たちの流れ出た鮮血で染まった大地に立っていたのはファブリスとマーサ。そして、片膝をついて右腕から溢れ出す鮮血を必死で止めようとしているジャガルだけだった。
「てめえ、何をしやがった。どこでこんな力を……」
ファブリスが大剣の切先をジャガルの喉元に突きつけると、ジャガルは以降の言葉を飲み込んだ。
「どうした。お前は邪神を倒した強い戦士様なんじゃないのか。これで終わりか?」
揶揄を含んだファブリスの言葉に、大剣の切っ先を突きつけられたジャガルの喉元がひくひくと痙攣しているのが見てとれた。
「待て、待ってくれ。ファブリス! アズラルトだ。アズラルトたちが全部仕組んだことだ。あいつらが絵を描いたことなんだ。俺は何も分からずに命じられただけだ」
「残念だな、ジャガル。その命乞いの仕方が、あのこすっからいゴムザと同じだ」
その言葉にジャガルの顔が屈辱からか大きく歪み始めた。ファブリスはそのまま大剣の切先をジャガルの喉元に押し当てた。たちまちジャガルの喉元から鮮血が溢れ出る。