第72話 似ているわね
文字数 1,662文字
「まあ、こんなものだな」
王都サイゼスピアの一画で、地獄の蓋が開かれて這い出てきた亡者の一人に止めを刺したファブリスが、エルの視界の中で面白くなさそうに呟いていた。
「つまらないわね。人族も魔族も、もっと沢山死ぬかと思っていたのに。まさか、それを助けることになるなんて。王子は死んだのだから仕方がないけど、国王は何をしているのかしらね。亡者に喰われでもしたのかしら?」
ファブリスの隣ではマナ教の教皇マルヴィナが、こちらも心の底から面白くなさそうに物騒なことを言っている。
「マルヴィナさん、何だか言うことがファブリスさんに似ているのだけど」
呟いたエルの横でマーサが頷いた。
「大体、あの壊れ女が何でここにいる?」
マーサの言葉が聞こえたのだろう。マルヴィナがマーサに視線を向けた。
「あら、間抜面をした獣人族もいるのね。それにしても、あなたはいつも裸ね。嫌ね。露出好きなのかしら?」
「はあ? 魔獣になっていたからだ。この壊れ女が!」
「教皇にそんな口を聞くだなんて、やっぱり獣人族は間抜けで頭が悪いのね。顔は整っているけれど、それだけに何だか残念な子ね」
「はあ?」
あまりの怒りのために発する言葉をなくしたのか、口をぱくぱくと開閉するマーサにファブリスが毛布を投げた。
「マーサ、いい加減にしろ」
主と仰ぐファブリスに言われたため、マーサは納得できないといった顔をしながらも黙り込む。
それにしてもとエルは思っていた。確かに地獄の蓋は閉じられた。だけれども、既に地獄から這い出でしまっていて、王都に取り残された亡者たちをファブリスが討伐することは意外だった。
常のファブリスならば、王都に住む人たちがどうなろうと興味ない。そんなことを言っていそうな気がする。
あるいは亡者たちと一緒に根絶やしだと言いながら、大剣を振り回していても不思議ではない。非常に残念だが絵面としては、そちらの方がエルの中でしっくりとくるのだ。
そんなエルの視線に気がついたのだろう。ファブリスがエルに赤色の瞳を向けた。
「亡者どもを全て排除できたわけではない。後は知らん。だが、後は生き残った連中が何とかするだろう。第一皇子が死んだだけで、国が滅んだわけではない。騎士団もマナ教も健在なのだからな」
確かにファブリスが言うように、ガルディスによって昏倒させられていた住民たちも目覚めつつあった。騎士やマナ教の司祭らしき者が、亡者と戦う姿もあちらこちらで目にすることができた。
被害は最小限に抑えられつつあると言ってよさそうだった。
「ありがとうございます、ファブリスさん。マーサもマルヴィナさんも本当にありがとうございます」
そう言って素直に赤色の頭を下げたエルにマルヴィナも鼻白んだようだった。
「あら、この子、何だか彼女に似ているわね。自分の得にもならないことに頭なんて下げて……」
マルヴィナのそんな声が聞こえてきた。
彼女って……。
エルがそう思った時だった。エルたちに近づいてくる若い女性の姿がある。不穏なものを感じたのか、ファブリスたちが身構える気配がエルに伝わってくる。
「皆、無事だったようじゃな」
若い女性は身構えるファブリスたちに構うことはなく、皆の前に立つと屈託のない笑顔を浮かべた。そして、気づいたように彼女はマルヴィナに視線を向ける。
「ほう。お主、殺されなかったようじゃのう」
彼女は意外だといった様子で少しだけ驚いた顔をしている。
背の高い女性だった。妖艶な雰囲気もあり、歳は二十代半ばぐらいに見える。背も高くてマーサと同じぐらいの身長かもしれない。
そして、特筆すべきはその胸だった。マーサの胸は毛布に今は包まれているので単純に比較できないのだが、彼女の大きさはマーサの胸を凌駕しているように思えた。
「殺されなかったようじゃのうって、その喋り方……お前、アイシスか?」
マーサが恐る恐るといった感じで尋ねる。
「そうじゃが?」
「はあ? お前、地獄の蓋とやらを内側から閉じたのでは……」
アイシスと称する女性はマーサの言葉に大きく頷いた。
王都サイゼスピアの一画で、地獄の蓋が開かれて這い出てきた亡者の一人に止めを刺したファブリスが、エルの視界の中で面白くなさそうに呟いていた。
「つまらないわね。人族も魔族も、もっと沢山死ぬかと思っていたのに。まさか、それを助けることになるなんて。王子は死んだのだから仕方がないけど、国王は何をしているのかしらね。亡者に喰われでもしたのかしら?」
ファブリスの隣ではマナ教の教皇マルヴィナが、こちらも心の底から面白くなさそうに物騒なことを言っている。
「マルヴィナさん、何だか言うことがファブリスさんに似ているのだけど」
呟いたエルの横でマーサが頷いた。
「大体、あの壊れ女が何でここにいる?」
マーサの言葉が聞こえたのだろう。マルヴィナがマーサに視線を向けた。
「あら、間抜面をした獣人族もいるのね。それにしても、あなたはいつも裸ね。嫌ね。露出好きなのかしら?」
「はあ? 魔獣になっていたからだ。この壊れ女が!」
「教皇にそんな口を聞くだなんて、やっぱり獣人族は間抜けで頭が悪いのね。顔は整っているけれど、それだけに何だか残念な子ね」
「はあ?」
あまりの怒りのために発する言葉をなくしたのか、口をぱくぱくと開閉するマーサにファブリスが毛布を投げた。
「マーサ、いい加減にしろ」
主と仰ぐファブリスに言われたため、マーサは納得できないといった顔をしながらも黙り込む。
それにしてもとエルは思っていた。確かに地獄の蓋は閉じられた。だけれども、既に地獄から這い出でしまっていて、王都に取り残された亡者たちをファブリスが討伐することは意外だった。
常のファブリスならば、王都に住む人たちがどうなろうと興味ない。そんなことを言っていそうな気がする。
あるいは亡者たちと一緒に根絶やしだと言いながら、大剣を振り回していても不思議ではない。非常に残念だが絵面としては、そちらの方がエルの中でしっくりとくるのだ。
そんなエルの視線に気がついたのだろう。ファブリスがエルに赤色の瞳を向けた。
「亡者どもを全て排除できたわけではない。後は知らん。だが、後は生き残った連中が何とかするだろう。第一皇子が死んだだけで、国が滅んだわけではない。騎士団もマナ教も健在なのだからな」
確かにファブリスが言うように、ガルディスによって昏倒させられていた住民たちも目覚めつつあった。騎士やマナ教の司祭らしき者が、亡者と戦う姿もあちらこちらで目にすることができた。
被害は最小限に抑えられつつあると言ってよさそうだった。
「ありがとうございます、ファブリスさん。マーサもマルヴィナさんも本当にありがとうございます」
そう言って素直に赤色の頭を下げたエルにマルヴィナも鼻白んだようだった。
「あら、この子、何だか彼女に似ているわね。自分の得にもならないことに頭なんて下げて……」
マルヴィナのそんな声が聞こえてきた。
彼女って……。
エルがそう思った時だった。エルたちに近づいてくる若い女性の姿がある。不穏なものを感じたのか、ファブリスたちが身構える気配がエルに伝わってくる。
「皆、無事だったようじゃな」
若い女性は身構えるファブリスたちに構うことはなく、皆の前に立つと屈託のない笑顔を浮かべた。そして、気づいたように彼女はマルヴィナに視線を向ける。
「ほう。お主、殺されなかったようじゃのう」
彼女は意外だといった様子で少しだけ驚いた顔をしている。
背の高い女性だった。妖艶な雰囲気もあり、歳は二十代半ばぐらいに見える。背も高くてマーサと同じぐらいの身長かもしれない。
そして、特筆すべきはその胸だった。マーサの胸は毛布に今は包まれているので単純に比較できないのだが、彼女の大きさはマーサの胸を凌駕しているように思えた。
「殺されなかったようじゃのうって、その喋り方……お前、アイシスか?」
マーサが恐る恐るといった感じで尋ねる。
「そうじゃが?」
「はあ? お前、地獄の蓋とやらを内側から閉じたのでは……」
アイシスと称する女性はマーサの言葉に大きく頷いた。