第42話 残酷
文字数 1,571文字
マーサの方は既に大方のマナ教騎士団を蹴散らしてしまっているようだった。この状況であれば、今更ファブリスの手助けなどは必要ないように思える。
視線の先では先程の幼女が魔導兵器を調べているようだった。ファブリスはそこへ足を向ける。
ファブリスが近づくと幼女が厳しい顔つきで振り返った。
「ほれ、そこを開けるのじゃ」
幼女は邪神の胸にあたる部分を杖で指し示していた。ファブリスと視線が交差しても幼女は厳しい顔つきを変えようとはしない。
幼女の言葉に従って、ファブリスは魔導兵器の繋ぎ目らしき部位に大剣の切先を突き立てた。先程はあれ程までに固かったはずが、今は大剣の切先が何の抵抗もなく入っていく。
動作を停止すると同時に何かしらの魔法効果も失われたということなのだろうか。ファブリスは大剣を半ばまで突き入れると、梃子の原理で魔道兵器の胸板らしきものを一気に浮かせて取り外した。
胸板が取り外された魔道兵器の中には予想外のものがあった。
マークスといったか。この奴隷の子供は……。
「やれやれ、本当に酷いことをするものじゃな。人族は昔から惨いことをするからのう……」
幼女の言葉を背中で聞きながら、ファブリスは横たわっている魔道兵器の胸板を次々と外していった。
やはり、姉のエリサの姿もあった。後の三人はあの時、エリサとマークスを獣人族の村へ連れていこうとしていた獣人たちだった。
「ファブリスさん、これって……」
気がつくとエルがファブリスの横で凍り付いたかのように絶句して固まっていた。
エルの言葉には取り合わずにファブリスは幼女に視線を向けた。
「こいつは?」
「おそらく生命力のようなものを吸い取っておるのであろうな。いわば動力源じゃよ」
「吸い取っているって……まだ生きているの?」
エルの言葉に幼女は黙って頷いた。
「だったら助けないと!」
エルは短く叫ぶように言うと、魔導兵器に取り込まれているマークスたちに駆け寄ろうとする。
「無駄じゃ。完全に同化しておるでな。可哀想だが、妾でもどうにもならん」
幼女の言葉に駆け寄ろうとしていたエルは絶望の表情を浮かべる。その時、マークスの体が僅かに動いた。外見からではマークスに意識があるのか、ないのかは分からない。しかし、マークスは顔を僅かに動かしてエルの方へと向けた。
「マークス!」
エルが駆け寄って、魔道兵器内で半ば埋まっているような状態のマークスを懸命に引っ張り出そうと試みる。しかし、マークスの体は完全に魔道兵器内部と一体化しているのか、幼女が言うように分離させることは不可能なようだった。
ファブリスが近づいていくとエルが赤色の瞳に涙を浮かべて振り返った。
ファブリスは無言で大剣を引き抜いた。ファブリスの意を悟ったのか、エルの顔から血の気が瞬時にして引いていくのがファブリスにも分かった。
……自分が今から行おうとしていること。
……可哀想だから?
自問してみたがファブリスにも答えは分からなかった。ただ、このままにしておいてはいけないとの思いがファブリスの中にあった。
駄目! 止めて!
そんなエルの叫び声を聞いた気がする。
次の瞬間には大剣の先端をマークスの喉元へファブリスは突き刺していた。
背後でエルの絶叫が聞こえる。
やれやれ、残酷だが、致し方ないかのう。
幼女のそんな言葉を背後で聞いた気がする。
次は……。
ファブリスはそう思い踵を返そうとした時、その足にエルが纏わりついてきた。
「駄目。止めて。お願いだから止めて下さい!」
叫びながら必死にファブリスの足に纏わりつくエルをマーサが背後から無言で抱きしめる。
やがてエルは力なく両腕をファブリスの足から離した。
「このままでは可哀そうだよ。もう楽にしてあげないとね……」
エルを背後から抱きしめながらマーサが呟く小さな声が聞こえた。
視線の先では先程の幼女が魔導兵器を調べているようだった。ファブリスはそこへ足を向ける。
ファブリスが近づくと幼女が厳しい顔つきで振り返った。
「ほれ、そこを開けるのじゃ」
幼女は邪神の胸にあたる部分を杖で指し示していた。ファブリスと視線が交差しても幼女は厳しい顔つきを変えようとはしない。
幼女の言葉に従って、ファブリスは魔導兵器の繋ぎ目らしき部位に大剣の切先を突き立てた。先程はあれ程までに固かったはずが、今は大剣の切先が何の抵抗もなく入っていく。
動作を停止すると同時に何かしらの魔法効果も失われたということなのだろうか。ファブリスは大剣を半ばまで突き入れると、梃子の原理で魔道兵器の胸板らしきものを一気に浮かせて取り外した。
胸板が取り外された魔道兵器の中には予想外のものがあった。
マークスといったか。この奴隷の子供は……。
「やれやれ、本当に酷いことをするものじゃな。人族は昔から惨いことをするからのう……」
幼女の言葉を背中で聞きながら、ファブリスは横たわっている魔道兵器の胸板を次々と外していった。
やはり、姉のエリサの姿もあった。後の三人はあの時、エリサとマークスを獣人族の村へ連れていこうとしていた獣人たちだった。
「ファブリスさん、これって……」
気がつくとエルがファブリスの横で凍り付いたかのように絶句して固まっていた。
エルの言葉には取り合わずにファブリスは幼女に視線を向けた。
「こいつは?」
「おそらく生命力のようなものを吸い取っておるのであろうな。いわば動力源じゃよ」
「吸い取っているって……まだ生きているの?」
エルの言葉に幼女は黙って頷いた。
「だったら助けないと!」
エルは短く叫ぶように言うと、魔導兵器に取り込まれているマークスたちに駆け寄ろうとする。
「無駄じゃ。完全に同化しておるでな。可哀想だが、妾でもどうにもならん」
幼女の言葉に駆け寄ろうとしていたエルは絶望の表情を浮かべる。その時、マークスの体が僅かに動いた。外見からではマークスに意識があるのか、ないのかは分からない。しかし、マークスは顔を僅かに動かしてエルの方へと向けた。
「マークス!」
エルが駆け寄って、魔道兵器内で半ば埋まっているような状態のマークスを懸命に引っ張り出そうと試みる。しかし、マークスの体は完全に魔道兵器内部と一体化しているのか、幼女が言うように分離させることは不可能なようだった。
ファブリスが近づいていくとエルが赤色の瞳に涙を浮かべて振り返った。
ファブリスは無言で大剣を引き抜いた。ファブリスの意を悟ったのか、エルの顔から血の気が瞬時にして引いていくのがファブリスにも分かった。
……自分が今から行おうとしていること。
……可哀想だから?
自問してみたがファブリスにも答えは分からなかった。ただ、このままにしておいてはいけないとの思いがファブリスの中にあった。
駄目! 止めて!
そんなエルの叫び声を聞いた気がする。
次の瞬間には大剣の先端をマークスの喉元へファブリスは突き刺していた。
背後でエルの絶叫が聞こえる。
やれやれ、残酷だが、致し方ないかのう。
幼女のそんな言葉を背後で聞いた気がする。
次は……。
ファブリスはそう思い踵を返そうとした時、その足にエルが纏わりついてきた。
「駄目。止めて。お願いだから止めて下さい!」
叫びながら必死にファブリスの足に纏わりつくエルをマーサが背後から無言で抱きしめる。
やがてエルは力なく両腕をファブリスの足から離した。
「このままでは可哀そうだよ。もう楽にしてあげないとね……」
エルを背後から抱きしめながらマーサが呟く小さな声が聞こえた。