第24話 悪夢
文字数 1,609文字
そんな二人を横目で見ながらファブリスは口を開いた。
「で、どうするんだ?」
ファブリスの言葉にマーサが返答をする。
「連れては行けませんね。ですが、ここで放っておくわけにもいかないかと。直に定期連絡で里の者がくるかと思います。その者と一緒に里へ行ってもらうのが妥当なのではないでしょうか」
「里って……?」
エルがマーサの言葉に疑問の声を発した。マーサがエルに緑色の瞳を向けた。
「獣人族の小さな隠れ里だよ。当然、里には獣人族しかいないけど、ここで放り出すよりかはましだからね。何、大丈夫さ。獣人族は魔族に恨みを持っていないからね」
マーサがエルにそう説明しているのを聞きながら、ファブリスは好きにすればいいと思っていた。
正直、この姉弟がどうなろうと大した興味はない。ここで放り出しても構わないぐらいなのだ。ファブリスの中にあるものとしては、ついて来られては困るぐらいの思いだろうか。
「ありがとう、マーサさん!」
エルはそう言ってマーサの両手を握って抱きついていた。そんなエルの様子を見ても、何がそんなに嬉しいのか理解できない。
好きにすればいいさ。ファブリスはもう一度そう思いながら口を開いた。
「ならば行くぞ。追手が来ても面倒だからな」
エルとマーサに視線を送ってファブリスはそう言うのだった。
別れ際にエリサとマークスは何度も、何度も手を振っていた。そして、どこからともなく現れた獣人族二人に連れられて、彼らの里に向かって旅立って行ったのだった。
獣人族が自らの主として従っているファブリスからの依頼なのだ。だから、エリサとマークスも元奴隷だったことや、もしくは魔族といった理由で無下に扱われることはないように思えた。
エリサとマークスがあの歳にもかかわらず、きっと今まで辛い思いをいくつも経験してきたのだろう。自分も奴隷の身であったからそれを想像することは難しくない。ならば、これからは少しでも幸せな思いを感じることができればいいなとエルは願うのだった。
獣人族に連れられていく二つの小さな背中を見ながらエルは涙を拭った。そんな自分に向けられた視線に気がついてエルはファブリスに顔を向けた。
「お前は変わった奴だな……」
ファブリスに言われていることが分からず、エルは小首を傾げた。
「お前も奴隷だったんだ。人に言えないような辛い思いもしてきたはず。なのに何故、他人に優しくできる。何故、世の中を恨み他人を恨まない?」
やはり今ひとつファブリスの言うことが分からない。エルが何と言っていいのか分からずに黙っていると、横のマーサが口を開いた。
「ファブリス様、エルは可哀想なことに少し頭が悪いのですから……」
ファブリスはそれで納得できたのか小さく頷いた。
……いや、それで納得されても困るんだけどもとエルは心の中で呟く。
「俺たちも行くぞ。どうでもいいことで時間を取られた」
ファブリスはそう言うと早くも歩みを進め始めた。
……どうでもいいこと。
確かにファブリスにとってはそうなのかもしれない。取るに足らないことなのだろう。でも、わざわざそんな言い方をしなくてもいいのにとエルは思う。そんなエルの様子に気がついてマーサが口元に笑みを浮かべている。
それを見てエルの両頬はますます膨れるのだった。
……夢を見ていた。
夢の中でそれが夢だと分かる夢だった。
夢の中でセリアはまだ生きている。ファブリス、ファブリスと言って自分に何度も優しく笑いかけてくれていた。ファブリスも自分に笑いかけてくれるセリアのことが嬉しくて、セリアに何度も笑いかけていた。
やがて場面が変わる。そこは薄暗く禍々しい気配で満ちていた。そして、その中心でセリアは泣いていた。なぜ泣くのかとファブリスはセリアに問いかける。しかし、セリアは答えない。ならば、せめて頼むから泣かないでくれとファブリスはセリアに何度も懇願する。それでもセリアは泣き止まない……。
「で、どうするんだ?」
ファブリスの言葉にマーサが返答をする。
「連れては行けませんね。ですが、ここで放っておくわけにもいかないかと。直に定期連絡で里の者がくるかと思います。その者と一緒に里へ行ってもらうのが妥当なのではないでしょうか」
「里って……?」
エルがマーサの言葉に疑問の声を発した。マーサがエルに緑色の瞳を向けた。
「獣人族の小さな隠れ里だよ。当然、里には獣人族しかいないけど、ここで放り出すよりかはましだからね。何、大丈夫さ。獣人族は魔族に恨みを持っていないからね」
マーサがエルにそう説明しているのを聞きながら、ファブリスは好きにすればいいと思っていた。
正直、この姉弟がどうなろうと大した興味はない。ここで放り出しても構わないぐらいなのだ。ファブリスの中にあるものとしては、ついて来られては困るぐらいの思いだろうか。
「ありがとう、マーサさん!」
エルはそう言ってマーサの両手を握って抱きついていた。そんなエルの様子を見ても、何がそんなに嬉しいのか理解できない。
好きにすればいいさ。ファブリスはもう一度そう思いながら口を開いた。
「ならば行くぞ。追手が来ても面倒だからな」
エルとマーサに視線を送ってファブリスはそう言うのだった。
別れ際にエリサとマークスは何度も、何度も手を振っていた。そして、どこからともなく現れた獣人族二人に連れられて、彼らの里に向かって旅立って行ったのだった。
獣人族が自らの主として従っているファブリスからの依頼なのだ。だから、エリサとマークスも元奴隷だったことや、もしくは魔族といった理由で無下に扱われることはないように思えた。
エリサとマークスがあの歳にもかかわらず、きっと今まで辛い思いをいくつも経験してきたのだろう。自分も奴隷の身であったからそれを想像することは難しくない。ならば、これからは少しでも幸せな思いを感じることができればいいなとエルは願うのだった。
獣人族に連れられていく二つの小さな背中を見ながらエルは涙を拭った。そんな自分に向けられた視線に気がついてエルはファブリスに顔を向けた。
「お前は変わった奴だな……」
ファブリスに言われていることが分からず、エルは小首を傾げた。
「お前も奴隷だったんだ。人に言えないような辛い思いもしてきたはず。なのに何故、他人に優しくできる。何故、世の中を恨み他人を恨まない?」
やはり今ひとつファブリスの言うことが分からない。エルが何と言っていいのか分からずに黙っていると、横のマーサが口を開いた。
「ファブリス様、エルは可哀想なことに少し頭が悪いのですから……」
ファブリスはそれで納得できたのか小さく頷いた。
……いや、それで納得されても困るんだけどもとエルは心の中で呟く。
「俺たちも行くぞ。どうでもいいことで時間を取られた」
ファブリスはそう言うと早くも歩みを進め始めた。
……どうでもいいこと。
確かにファブリスにとってはそうなのかもしれない。取るに足らないことなのだろう。でも、わざわざそんな言い方をしなくてもいいのにとエルは思う。そんなエルの様子に気がついてマーサが口元に笑みを浮かべている。
それを見てエルの両頬はますます膨れるのだった。
……夢を見ていた。
夢の中でそれが夢だと分かる夢だった。
夢の中でセリアはまだ生きている。ファブリス、ファブリスと言って自分に何度も優しく笑いかけてくれていた。ファブリスも自分に笑いかけてくれるセリアのことが嬉しくて、セリアに何度も笑いかけていた。
やがて場面が変わる。そこは薄暗く禍々しい気配で満ちていた。そして、その中心でセリアは泣いていた。なぜ泣くのかとファブリスはセリアに問いかける。しかし、セリアは答えない。ならば、せめて頼むから泣かないでくれとファブリスはセリアに何度も懇願する。それでもセリアは泣き止まない……。