第68話 女王
文字数 1,680文字
砂塵が収まり始めたアイシスの視界には勝ち誇ったような顔をしたガルディスの姿があった。
「魔法の戦いとは、このように行うものなのだ。西方の魔女よ」
顔を僅かに持ち上げたげたままでアイシスはガルディスを睨みつける。悔しいが立ち上がることはできないようだった。
これで終わりだと言わんばかりに、魔法を放とうとガルディスが片手を持ち上げた時だった。異変を感じたのかガルディスの動作が止まる。
その姿を見てアイシスは少しだけ笑みを浮かべた。
「ほう、流石じゃな。気がついたか、魔道士よ。知っておるか? 妾は魔法王国の女王じゃぞ」
気がつけばガルディスの前後左右、そして上下には紫色に鈍く光る魔法陣が展開されていた。
「貴様、いつの間に! マルヴィナ!」
血相を変えたガルディスがマルヴィナの名を叫びながら、防御魔法を展開しようとする。同時にガルディスの周囲にある魔法陣から、黄金色に光る魔法が放出された。
閃光と爆音が周囲を満たす。それらが収まった頃、その中心にいたガルディスが青ざめた顔で姿を現した。
「流石に焦ったぞ。あの状況で魔法陣を展開していたとはな」
「魔道士、お主こそ魔法の戦いというものを知らぬようじゃな」
アイシスの言葉に不穏なものを感じたのか、ガルディスの動きが止まった。アイシスは更に言葉を続けた。
「何も魔法でお主らを凌駕する必要などないのじゃ。こちらには物理的な攻撃ができる者がいて、お主らにはいない。その時点でお主らの敗北なのじゃよ」
「馬鹿な。何を……」
ガルディスがその言葉を最後まで言うことはなかった。ガルディスの背後に上空後方から音もなく降り立った、銀色の毛並みを持った禍々しい雰囲気を周囲に放つ魔獣。
その魔獣が太く鋭い爪を持った丸太のような前足を上げ、ガルディスの背後でそれを振り下ろしたのは一瞬だった。
その衝撃でガルディスの体は前方へと吹っ飛び、地面を二回、三回と跳ねてようやく止まった。首は半ばまで切断されかかっており、それを見ただけでガルディスが一瞬にして絶命したのが分かった。
アイシスは自身に治癒魔法を施しながら立ち上がった。体がふらつくのは血を流し過ぎたためなのだろうと思う。
アイシスは視線を魔獣に身を変えたマーサに向けた。それに応えるかのようにマーサが銀色に光る体を震わせた。
次いでアイシスはマルヴィナに視線を向けた。この状況だというのにマルヴィナは、その端正な顔に薄ら笑いをいつものように浮かべている。
「教皇とやら、お主はどうするのじゃ? まだ妾たちと戦うのか?」
アイシスの言葉を聞いてマルヴィナは、更に歪んだ狂気の笑顔を大きくする。
「止めておくわ。私だけでは勝てないもの。あなたたちを殺せないもの」
アイシスの横が黄金色に発光して、マーサが人の姿へと戻る。
「今更だ。私が殺す」
マーサが一歩を踏み出す。
「獣人族、止めておけ。妾は戦わぬ者を殺すのは好かぬ」
「こいつはファブリス様の仇だ。だから、私が殺す」
「仇だと言うのなら、それこそあの邪神に任せておけ。仇ならば妾やお主が出る幕ではない。まあ、あの魔導士は勢いで殺してしまったのじゃがな」
「だけど……」
「それに、お主はいつまで全裸でいるつもりなのじゃ。何じゃ、その化け物みたいなおっぱいは。見ているこちらが恥ずかしくなる」
そのアイシスの言葉にマーサは鼻で、ふふんと笑う。
「ちんちくりんにはない物だからな。何だ、羨ましいのか?」
「な? 妾とて元々の体は、ぼん! きゅっ! ぼん! だったのじゃぞ!」
「元々のことなんて知らないね。今が、ちんちくりんってこと以外ね」
「腹が立つのう。相変わらず可愛くない獣人族じゃ。さっさとお主は邪神のところに戻れ。妾が魔法で転移させるゆえ」
「お主はって、ちんちくりんはどうするのだ? そこの女とここに残るのか?」
マーサがマルヴィナを指差す。マルヴィナは一連のアイシスとマルヴィナとの遣り取りを全く興味なさそうな顔で聞いていたようだった。
自分の生死にかかわるかもしれないことだというのに、やはり、それすらも興味がないということらしかった。
「魔法の戦いとは、このように行うものなのだ。西方の魔女よ」
顔を僅かに持ち上げたげたままでアイシスはガルディスを睨みつける。悔しいが立ち上がることはできないようだった。
これで終わりだと言わんばかりに、魔法を放とうとガルディスが片手を持ち上げた時だった。異変を感じたのかガルディスの動作が止まる。
その姿を見てアイシスは少しだけ笑みを浮かべた。
「ほう、流石じゃな。気がついたか、魔道士よ。知っておるか? 妾は魔法王国の女王じゃぞ」
気がつけばガルディスの前後左右、そして上下には紫色に鈍く光る魔法陣が展開されていた。
「貴様、いつの間に! マルヴィナ!」
血相を変えたガルディスがマルヴィナの名を叫びながら、防御魔法を展開しようとする。同時にガルディスの周囲にある魔法陣から、黄金色に光る魔法が放出された。
閃光と爆音が周囲を満たす。それらが収まった頃、その中心にいたガルディスが青ざめた顔で姿を現した。
「流石に焦ったぞ。あの状況で魔法陣を展開していたとはな」
「魔道士、お主こそ魔法の戦いというものを知らぬようじゃな」
アイシスの言葉に不穏なものを感じたのか、ガルディスの動きが止まった。アイシスは更に言葉を続けた。
「何も魔法でお主らを凌駕する必要などないのじゃ。こちらには物理的な攻撃ができる者がいて、お主らにはいない。その時点でお主らの敗北なのじゃよ」
「馬鹿な。何を……」
ガルディスがその言葉を最後まで言うことはなかった。ガルディスの背後に上空後方から音もなく降り立った、銀色の毛並みを持った禍々しい雰囲気を周囲に放つ魔獣。
その魔獣が太く鋭い爪を持った丸太のような前足を上げ、ガルディスの背後でそれを振り下ろしたのは一瞬だった。
その衝撃でガルディスの体は前方へと吹っ飛び、地面を二回、三回と跳ねてようやく止まった。首は半ばまで切断されかかっており、それを見ただけでガルディスが一瞬にして絶命したのが分かった。
アイシスは自身に治癒魔法を施しながら立ち上がった。体がふらつくのは血を流し過ぎたためなのだろうと思う。
アイシスは視線を魔獣に身を変えたマーサに向けた。それに応えるかのようにマーサが銀色に光る体を震わせた。
次いでアイシスはマルヴィナに視線を向けた。この状況だというのにマルヴィナは、その端正な顔に薄ら笑いをいつものように浮かべている。
「教皇とやら、お主はどうするのじゃ? まだ妾たちと戦うのか?」
アイシスの言葉を聞いてマルヴィナは、更に歪んだ狂気の笑顔を大きくする。
「止めておくわ。私だけでは勝てないもの。あなたたちを殺せないもの」
アイシスの横が黄金色に発光して、マーサが人の姿へと戻る。
「今更だ。私が殺す」
マーサが一歩を踏み出す。
「獣人族、止めておけ。妾は戦わぬ者を殺すのは好かぬ」
「こいつはファブリス様の仇だ。だから、私が殺す」
「仇だと言うのなら、それこそあの邪神に任せておけ。仇ならば妾やお主が出る幕ではない。まあ、あの魔導士は勢いで殺してしまったのじゃがな」
「だけど……」
「それに、お主はいつまで全裸でいるつもりなのじゃ。何じゃ、その化け物みたいなおっぱいは。見ているこちらが恥ずかしくなる」
そのアイシスの言葉にマーサは鼻で、ふふんと笑う。
「ちんちくりんにはない物だからな。何だ、羨ましいのか?」
「な? 妾とて元々の体は、ぼん! きゅっ! ぼん! だったのじゃぞ!」
「元々のことなんて知らないね。今が、ちんちくりんってこと以外ね」
「腹が立つのう。相変わらず可愛くない獣人族じゃ。さっさとお主は邪神のところに戻れ。妾が魔法で転移させるゆえ」
「お主はって、ちんちくりんはどうするのだ? そこの女とここに残るのか?」
マーサがマルヴィナを指差す。マルヴィナは一連のアイシスとマルヴィナとの遣り取りを全く興味なさそうな顔で聞いていたようだった。
自分の生死にかかわるかもしれないことだというのに、やはり、それすらも興味がないということらしかった。