第38話 魔導兵器
文字数 1,622文字
「ガルディスか……」
ファブリスは怨嗟が多分にこもった言葉を絞り出した。ファブリスの予想に違うことはなく、空間の揺らぎがおさまるとそこから四十歳半ばぐらいの痩せた男が姿を現した。
魔道士ガルディス。恐らく魔道士としてはダナイ皇国で彼に並ぶ魔術の使い手はいないのかもしれなかった。そして邪神を倒すため、共に長い旅をしてきた仲間だったはずの男でもあった。そう。仲間だったはずの……。
「まさか、魂消しとはな。面白い物を見せてもらった。獣人族に生き残りがいることは知っていたが、魂消しを扱える者がまだ残っていたとはな。流石に驚いたぞ」
「ガルディス、貴様……」
ファブリスは奥歯を噛み締める。ファブリスの脳裏には、あの時ガルディスに見せられたものが強烈に蘇ってくる。両親と妹が村人たちの手で殺されたあの姿が。
「魂喰らいと魂消し。原理は同じようだ。ふむ。魔剣の秘密はそのあたりにあるのかもしれんな……」
ガルディスはファブリスの言葉などには興味がないようで、そう独りごちている。
そして不意にガルディスは茶色の瞳をファブリスに向けた。
「それにしてもファブリス、お前の力は邪神の物だな?」
ファブリスはその言葉に否定も肯定もしなかった。しかし、ガルディスはそんなファブリスのことなどは気にする様子もなく言葉を続けた。
「どうやってそれを身につけたのかは知らんが、邪神の力となると俺とマルヴィナだけでは少々分が悪い。なるほどな。邪神の力となれば、ジャガルがあっさりと殺された理由もよく分かるというものだ……」
ガルディスの言葉にファブリスは薄く笑った。
「ガルディス、丁度いい。お前もここで死ぬんだ」
「やれやれ、お前も怖いことを言うようになったもんだ。一緒に旅をしていた時は、どこまでも純朴な青年だったというのにな」
ガルディスはそう言うと何事かの呪文を呟きながら伸ばした両手を前に翳した。すると、ガルディスの前に一定の間隔を保ちながら空間の揺らぎが出現した。その数は五つ。
「転移魔法もこれだけの数だと流石に疲れるというものだな。やれやれだ……」
ファブリスの前に出現したのは巨大な灰色の物体だった。
「ガルディス、さっさと終わらせて。生意気で臭い魔族が私の前にいるなんて我慢ができないのだけれど」
マルヴィナが苛ついたような声を上げている。
「やれやれ、我が儘なお嬢さんだな。それでよく教皇なんぞをやっていられる。それにアズラルトは殺すなと言っていたぞ」
ガルディスが呆れたような顔をマルヴィナに向けた。
「は? あのぼんぼんが言っていたことなんて知らないわよ。捕まえようとしたけど、間違って殺しちゃったってことでいいでしょう?」
マルヴィナが事もなげに言って更に言葉を続ける。
「大体、今更でしょう? この片腕もない腐れ魔族の何が必要だっていうのかしら」
そんなガルディスたちの言葉を聞き流しながら、ファブリスは出現した灰色の物体を凝視していた。
見た目は硬い鉱物で生成された人の倍はある大きな人形といったところだった。灰色の物体を凝視しているファブリスに向かってガルディスが口を開いた。
「簡単に言えば魔導兵器だな。こいつは固いぞ。邪神の力を持ってしても、剣などは通用せん。例え魔剣であってもな。それに、こいつを造るのは苦労したんだぞ。特に動力源が肝でな」
ガルディスの言葉を受けてマルヴィナが嫌な笑みを浮かべて口を開いた。
「でも、その動力源は秘密なんだけどね」
続けてマルヴィナは嫌な笑い声を上げる。
「……興味はないな。何だっていい。お前らはここで死ぬのだからな」
ファブリスは呟くと大剣を構え直した。背後ではマーサが変わらずに銀色の毛を震わせながら低い唸り声を上げ続けている。
ファブリスの視界には、先程のマーサが発した魂消しから逃れることができたマナ教騎士団が殺到してくる姿が映っていた。
「根絶やしだ……」
不敵な笑みを浮かべてファブリスはもう一度低く呟いた。
ファブリスは怨嗟が多分にこもった言葉を絞り出した。ファブリスの予想に違うことはなく、空間の揺らぎがおさまるとそこから四十歳半ばぐらいの痩せた男が姿を現した。
魔道士ガルディス。恐らく魔道士としてはダナイ皇国で彼に並ぶ魔術の使い手はいないのかもしれなかった。そして邪神を倒すため、共に長い旅をしてきた仲間だったはずの男でもあった。そう。仲間だったはずの……。
「まさか、魂消しとはな。面白い物を見せてもらった。獣人族に生き残りがいることは知っていたが、魂消しを扱える者がまだ残っていたとはな。流石に驚いたぞ」
「ガルディス、貴様……」
ファブリスは奥歯を噛み締める。ファブリスの脳裏には、あの時ガルディスに見せられたものが強烈に蘇ってくる。両親と妹が村人たちの手で殺されたあの姿が。
「魂喰らいと魂消し。原理は同じようだ。ふむ。魔剣の秘密はそのあたりにあるのかもしれんな……」
ガルディスはファブリスの言葉などには興味がないようで、そう独りごちている。
そして不意にガルディスは茶色の瞳をファブリスに向けた。
「それにしてもファブリス、お前の力は邪神の物だな?」
ファブリスはその言葉に否定も肯定もしなかった。しかし、ガルディスはそんなファブリスのことなどは気にする様子もなく言葉を続けた。
「どうやってそれを身につけたのかは知らんが、邪神の力となると俺とマルヴィナだけでは少々分が悪い。なるほどな。邪神の力となれば、ジャガルがあっさりと殺された理由もよく分かるというものだ……」
ガルディスの言葉にファブリスは薄く笑った。
「ガルディス、丁度いい。お前もここで死ぬんだ」
「やれやれ、お前も怖いことを言うようになったもんだ。一緒に旅をしていた時は、どこまでも純朴な青年だったというのにな」
ガルディスはそう言うと何事かの呪文を呟きながら伸ばした両手を前に翳した。すると、ガルディスの前に一定の間隔を保ちながら空間の揺らぎが出現した。その数は五つ。
「転移魔法もこれだけの数だと流石に疲れるというものだな。やれやれだ……」
ファブリスの前に出現したのは巨大な灰色の物体だった。
「ガルディス、さっさと終わらせて。生意気で臭い魔族が私の前にいるなんて我慢ができないのだけれど」
マルヴィナが苛ついたような声を上げている。
「やれやれ、我が儘なお嬢さんだな。それでよく教皇なんぞをやっていられる。それにアズラルトは殺すなと言っていたぞ」
ガルディスが呆れたような顔をマルヴィナに向けた。
「は? あのぼんぼんが言っていたことなんて知らないわよ。捕まえようとしたけど、間違って殺しちゃったってことでいいでしょう?」
マルヴィナが事もなげに言って更に言葉を続ける。
「大体、今更でしょう? この片腕もない腐れ魔族の何が必要だっていうのかしら」
そんなガルディスたちの言葉を聞き流しながら、ファブリスは出現した灰色の物体を凝視していた。
見た目は硬い鉱物で生成された人の倍はある大きな人形といったところだった。灰色の物体を凝視しているファブリスに向かってガルディスが口を開いた。
「簡単に言えば魔導兵器だな。こいつは固いぞ。邪神の力を持ってしても、剣などは通用せん。例え魔剣であってもな。それに、こいつを造るのは苦労したんだぞ。特に動力源が肝でな」
ガルディスの言葉を受けてマルヴィナが嫌な笑みを浮かべて口を開いた。
「でも、その動力源は秘密なんだけどね」
続けてマルヴィナは嫌な笑い声を上げる。
「……興味はないな。何だっていい。お前らはここで死ぬのだからな」
ファブリスは呟くと大剣を構え直した。背後ではマーサが変わらずに銀色の毛を震わせながら低い唸り声を上げ続けている。
ファブリスの視界には、先程のマーサが発した魂消しから逃れることができたマナ教騎士団が殺到してくる姿が映っていた。
「根絶やしだ……」
不敵な笑みを浮かべてファブリスはもう一度低く呟いた。