第15話 大都市ライザック
文字数 1,555文字
ダナイ皇国の中でも有数の大都市として知られているライザック。都市としての規模もそうなのだが、都市内の活気においてもその賑わいには目を見張るものがあった。
「うわあ、凄い人だよ。ほら、マーサ!」
そんな感嘆の言葉と共にエルは大きな赤い瞳を丸くする。
「さすが有名なライザックだな。人の数が違う。私もここまで大きな都市に来たのは初めてだからな」
マーサにしてもエルに負けじといった感じで、左右に忙しく緑色の瞳を向けていた。
「ねえ、マーサ、あそこの通りにはあんなにたくさんのお店があるよ」
「おお、凄いな。ほら、あれを見てみろ。どの店も似たような物を売ってるぞ。そんなに同じ物が売れるものなのか?」
「そうだよね。不思議だよね。大体、私の村なんてお店そのものがなかったもの」
「そ、それは酷い貧乏村だな……」
「あ、貧乏村だなんて酷いんだ。辺境にある魔族の村なんてそんなものなんだよ。ね、ファブリスさん」
エルはそう言ってファブリスに視線を向けた。ファブリスはエルのそんな言葉を無表情で受け流す。
途端にエルは両頬を膨らますと、隣で歩いているマーサにその顔を向けた。
「ファブリスさんの愛想のなさは何なのかな? 無愛想にもほどがあるわよ。顔の筋肉がないのかな。これじゃあ普通の会話もできないわよ」
そんな憤りを見せるエルにマーサは苦笑する。
「我らの主にそんな言い方をしないでくれ。獣人族の皆に怒られるぞ。それにファブリス様にもあれでよいところが沢山あるのだ」
マーサにそう諌められてエルは更に両頬を膨らませた。
ファブリスさんのいいところ……。
エルは考えてみたが、残念なことにすぐには思いつかない。強いて言えば、マーサには意外と優しそうだといったところだろうか。
それ以外で言うと無表情で、誰彼構わずに片手で大きな剣を振り回している印象しかない。
返答に窮した様子のエルにマーサは溜息をついた。
「まあいいさ。直にエルも分かる時がくる。それより宿を探そうか。少しの間、ここに留まることになるのだからな」
ファブリスさんのいいところ。
それを考え込んでしまったエルにマーサはそう言うのだった。
ライザックに長く留まるつもりはない。旅の準備ができたらすぐに出発するぞ。
宿に着くとファブリスはそう言って、次の旅に備えて買い出しに行ってくるようエルに命じたのだった。
次の旅ね……。
道を行く人の数も多く、賑わう街中を歩きながらエルはそんなファブリスの言葉を心の中で呟いていた。
ということは、このライザックでは騒動を起こすつもりはないのだろうか。
確かに人族や魔族すべてを恨んでいるからといって、手当たり次第に剣を振り回す意図はファブリスにもないようだった。
そうだとすると、ファブリスにとっての本来の目的は何なのだろうか。あの時、ファブリスがゴムザとしていた会話を思い出すと、邪神を討伐した勇者一行にファブリスは恨みを抱いていたようだったけれどもとエルは思う。
確か邪神を討伐した勇者はこの国、ダナイ皇国の第一皇子、アズラルト皇子だった。まさか皇子を相手にファブリスは、何らかの恨みを晴らそうとしているのだろうか。
マーサが言う邪神の力がどういうものなのかは知らないけれども、その邪神の力とやらで一国の皇子をどうにかできるものなのだろうか。
それに、そもそも邪神の力とは何なのかしらとエルは思う。
……巨大化するとか?
……火を吹くとか?
……それとも目から怪しげな光線でも出るのかしら?
あの無愛想なファブリスが巨大化して、目から怪しげな光線を発しながら火を吹いて暴れ回る姿を想像すると、エルの中で不思議なおかしさが込み上げてくる。
そんなことを考えながら通りを歩いていたエルは、甘い匂いに誘われて右手の屋台に視線を向けた。
「うわあ、凄い人だよ。ほら、マーサ!」
そんな感嘆の言葉と共にエルは大きな赤い瞳を丸くする。
「さすが有名なライザックだな。人の数が違う。私もここまで大きな都市に来たのは初めてだからな」
マーサにしてもエルに負けじといった感じで、左右に忙しく緑色の瞳を向けていた。
「ねえ、マーサ、あそこの通りにはあんなにたくさんのお店があるよ」
「おお、凄いな。ほら、あれを見てみろ。どの店も似たような物を売ってるぞ。そんなに同じ物が売れるものなのか?」
「そうだよね。不思議だよね。大体、私の村なんてお店そのものがなかったもの」
「そ、それは酷い貧乏村だな……」
「あ、貧乏村だなんて酷いんだ。辺境にある魔族の村なんてそんなものなんだよ。ね、ファブリスさん」
エルはそう言ってファブリスに視線を向けた。ファブリスはエルのそんな言葉を無表情で受け流す。
途端にエルは両頬を膨らますと、隣で歩いているマーサにその顔を向けた。
「ファブリスさんの愛想のなさは何なのかな? 無愛想にもほどがあるわよ。顔の筋肉がないのかな。これじゃあ普通の会話もできないわよ」
そんな憤りを見せるエルにマーサは苦笑する。
「我らの主にそんな言い方をしないでくれ。獣人族の皆に怒られるぞ。それにファブリス様にもあれでよいところが沢山あるのだ」
マーサにそう諌められてエルは更に両頬を膨らませた。
ファブリスさんのいいところ……。
エルは考えてみたが、残念なことにすぐには思いつかない。強いて言えば、マーサには意外と優しそうだといったところだろうか。
それ以外で言うと無表情で、誰彼構わずに片手で大きな剣を振り回している印象しかない。
返答に窮した様子のエルにマーサは溜息をついた。
「まあいいさ。直にエルも分かる時がくる。それより宿を探そうか。少しの間、ここに留まることになるのだからな」
ファブリスさんのいいところ。
それを考え込んでしまったエルにマーサはそう言うのだった。
ライザックに長く留まるつもりはない。旅の準備ができたらすぐに出発するぞ。
宿に着くとファブリスはそう言って、次の旅に備えて買い出しに行ってくるようエルに命じたのだった。
次の旅ね……。
道を行く人の数も多く、賑わう街中を歩きながらエルはそんなファブリスの言葉を心の中で呟いていた。
ということは、このライザックでは騒動を起こすつもりはないのだろうか。
確かに人族や魔族すべてを恨んでいるからといって、手当たり次第に剣を振り回す意図はファブリスにもないようだった。
そうだとすると、ファブリスにとっての本来の目的は何なのだろうか。あの時、ファブリスがゴムザとしていた会話を思い出すと、邪神を討伐した勇者一行にファブリスは恨みを抱いていたようだったけれどもとエルは思う。
確か邪神を討伐した勇者はこの国、ダナイ皇国の第一皇子、アズラルト皇子だった。まさか皇子を相手にファブリスは、何らかの恨みを晴らそうとしているのだろうか。
マーサが言う邪神の力がどういうものなのかは知らないけれども、その邪神の力とやらで一国の皇子をどうにかできるものなのだろうか。
それに、そもそも邪神の力とは何なのかしらとエルは思う。
……巨大化するとか?
……火を吹くとか?
……それとも目から怪しげな光線でも出るのかしら?
あの無愛想なファブリスが巨大化して、目から怪しげな光線を発しながら火を吹いて暴れ回る姿を想像すると、エルの中で不思議なおかしさが込み上げてくる。
そんなことを考えながら通りを歩いていたエルは、甘い匂いに誘われて右手の屋台に視線を向けた。