第44話 古代魔族
文字数 1,586文字
「まあ、いい。ついてきたければついてこい。俺はやりたいようにやるだけだ」
「何じゃ、やはりそこの邪神は王都に行くつもりかのう」
ファブリスの言葉にアイシスが反応する。ファブリスは黙って頷いた。
「お主が王都に行くこと。あまり勧めはせぬのだがのう」
「どうしてですか?」
エルは疑問に思って口を挟んだ。アイシスはエルに顔を向けると、にっこりと笑ってみせた。
「さあてな、何じゃったかのう」
アイシスはそう言うと、次いで不思議そうな顔をする。
「ところでお主は魔族か? 何故、こんな獣人や邪神と一緒にいるのじゃ?」
改めて何故と言われるとエルにも明確な説明ができなかった。何となく救いを求めてエルはファブリスに視線を向けた。
「……勝手についてきただけだ」
……へ?
ファブリスのそんな言葉に、勝手にって何なのよとエルは思う。食事係とか何とか言って連れてきたくせに。
でも、とも同時にエルは思った。最初はともかく、何故、自分はファブリスたちと同行し続けているのだろうか。
自分に行くあてがないということはあるのだが、この危険な旅に同行し続ける理由にはならない気がする。
言い淀むエルに代わってマーサが口を開いた。
「おい、ちんちくりん、エルを虐めるな。エルは私の妹分だぞ。だから、一緒でよいのだ」
「何じゃ、そのよく分からない理由は。お化けおっぱいは頭が沸いておるのか?」
アイシスが鼻で笑う。
「何だと? このちんちくりんが!」
立ち上がろうとするマーサをファブリスが片手で制した。ファブリスの表情はいつもの通りで無表情なのだったが、いい加減にしてくれといったところなのだろう。
「ファブリス様、本当に得体の知れないちんちくりんを連れて行くのですか?」
我慢ならないといった感じでマーサはファブリスに苦言を呈した。
「好きにさせればいい。邪魔をするなら殺すだけだ」
ファブリスがまたも物騒なことを言い出したとエルは思う。物騒というか、殺す、殺すばかりで、ファブリスも少し頭が沸いているのではないかとも思う。
「ほう……今度の邪神は恐ろしいのう。怖い、怖い」
戯けるように言うアイシスにマーサが再び目を剥く。
「ちんちくりん! ファブリス様に失礼だぞ!」
「ほう、このお化けおっぱいも怖いのう。怖い、怖い」
アイシスは尚も戯けている。
そんな二人の会話を聞きながらエルは頭をがっくりと下げた。
何だか頭が痛くなってきた……。
先程から子供のような喧嘩を繰り返している水と油のような二人を前にしてエルはそう思う。
「それはそうと邪神、お主はこの娘のことを知っていて一緒におるのか?」
アイシスは手にした杖の先でマーサを巧みに牽制しながらファブリスに向かって言う。
「どういう意味だ?」
「ほう、知らぬのか。こやつ、古代魔族の血を引いておるぞ」
「古代魔族?」
「ほう、それも知らぬのか。まあ、いいじゃろう。歴史は繰り返すのか、運命なのか。もっとも、わらわは運命論者ではないのだがな」
アイシスは少しだけ笑う。
古代魔族。
エルも聞いたことがない言葉だった。でも、仮に自分がそうだったとして何だと言うのだろうか。
エルはそう思いながらも、突然に得体の知れない不安に襲われる自分に気がつく。
何なのだろう。この漠然とした不安は。
「どうした、エル? 顔色が悪いぞ」
マーサが心配そうな顔をエルに向けてきた。この気持ちを説明できそうもなくてエルは赤色の頭を左右に振った。
「お前は預言者か何かのつもりか? さっきから気に入らないな」
ファブリスの言葉にアイシスは少しだけ笑った。
「預言者? 妾は調停者じゃよ。調停者、それが妾の罪なのじゃ」
「ふん。相変わらず何を言ってるのか分からないな」
ファブリスはそう言うと、自分の腕を枕にして寝転んだ。
「明日は王都に向けて立つぞ」
そして、それだけを言うとファブリスは目を閉じてしまう。
「何じゃ、やはりそこの邪神は王都に行くつもりかのう」
ファブリスの言葉にアイシスが反応する。ファブリスは黙って頷いた。
「お主が王都に行くこと。あまり勧めはせぬのだがのう」
「どうしてですか?」
エルは疑問に思って口を挟んだ。アイシスはエルに顔を向けると、にっこりと笑ってみせた。
「さあてな、何じゃったかのう」
アイシスはそう言うと、次いで不思議そうな顔をする。
「ところでお主は魔族か? 何故、こんな獣人や邪神と一緒にいるのじゃ?」
改めて何故と言われるとエルにも明確な説明ができなかった。何となく救いを求めてエルはファブリスに視線を向けた。
「……勝手についてきただけだ」
……へ?
ファブリスのそんな言葉に、勝手にって何なのよとエルは思う。食事係とか何とか言って連れてきたくせに。
でも、とも同時にエルは思った。最初はともかく、何故、自分はファブリスたちと同行し続けているのだろうか。
自分に行くあてがないということはあるのだが、この危険な旅に同行し続ける理由にはならない気がする。
言い淀むエルに代わってマーサが口を開いた。
「おい、ちんちくりん、エルを虐めるな。エルは私の妹分だぞ。だから、一緒でよいのだ」
「何じゃ、そのよく分からない理由は。お化けおっぱいは頭が沸いておるのか?」
アイシスが鼻で笑う。
「何だと? このちんちくりんが!」
立ち上がろうとするマーサをファブリスが片手で制した。ファブリスの表情はいつもの通りで無表情なのだったが、いい加減にしてくれといったところなのだろう。
「ファブリス様、本当に得体の知れないちんちくりんを連れて行くのですか?」
我慢ならないといった感じでマーサはファブリスに苦言を呈した。
「好きにさせればいい。邪魔をするなら殺すだけだ」
ファブリスがまたも物騒なことを言い出したとエルは思う。物騒というか、殺す、殺すばかりで、ファブリスも少し頭が沸いているのではないかとも思う。
「ほう……今度の邪神は恐ろしいのう。怖い、怖い」
戯けるように言うアイシスにマーサが再び目を剥く。
「ちんちくりん! ファブリス様に失礼だぞ!」
「ほう、このお化けおっぱいも怖いのう。怖い、怖い」
アイシスは尚も戯けている。
そんな二人の会話を聞きながらエルは頭をがっくりと下げた。
何だか頭が痛くなってきた……。
先程から子供のような喧嘩を繰り返している水と油のような二人を前にしてエルはそう思う。
「それはそうと邪神、お主はこの娘のことを知っていて一緒におるのか?」
アイシスは手にした杖の先でマーサを巧みに牽制しながらファブリスに向かって言う。
「どういう意味だ?」
「ほう、知らぬのか。こやつ、古代魔族の血を引いておるぞ」
「古代魔族?」
「ほう、それも知らぬのか。まあ、いいじゃろう。歴史は繰り返すのか、運命なのか。もっとも、わらわは運命論者ではないのだがな」
アイシスは少しだけ笑う。
古代魔族。
エルも聞いたことがない言葉だった。でも、仮に自分がそうだったとして何だと言うのだろうか。
エルはそう思いながらも、突然に得体の知れない不安に襲われる自分に気がつく。
何なのだろう。この漠然とした不安は。
「どうした、エル? 顔色が悪いぞ」
マーサが心配そうな顔をエルに向けてきた。この気持ちを説明できそうもなくてエルは赤色の頭を左右に振った。
「お前は預言者か何かのつもりか? さっきから気に入らないな」
ファブリスの言葉にアイシスは少しだけ笑った。
「預言者? 妾は調停者じゃよ。調停者、それが妾の罪なのじゃ」
「ふん。相変わらず何を言ってるのか分からないな」
ファブリスはそう言うと、自分の腕を枕にして寝転んだ。
「明日は王都に向けて立つぞ」
そして、それだけを言うとファブリスは目を閉じてしまう。