第61話 歪んだ感情
文字数 1,554文字
「それにしても魔族は馬鹿ね。本当に低能なのね。私が何の準備もしないで、あなたたちの前に現れるとでも思ったの?」
「貴様、黙れ! それ以上は喋るな。耳が腐る!」
マーサが我慢ならないといった感じで口を開いた。
「あら、そういえば珍しい獣人族もいたわね。でも、馬鹿といると間抜け面になるのね。あなたも馬鹿な魔族と一緒に殺されに来たのかしら?」
「貴様!」
怒声と共に一歩を踏み出したマーサをファブリスの低い声が止めた。
「止めろ、マーサ」
「マルヴィナ、以前と違って随分とお喋りになったな。ジャガルと同じだ。偉くなると、お喋りになるものなのか?」
マルヴィナが心外だといったような顔をする。
「あら、あなたは皮肉屋になったと思うけど。私が偉くなったのは、邪神を討伐したからじゃないわ。私の能力があってからこそなのよ」
「どうでもいいことじゃ。マルヴィナとやら、早く妾を案内するのじゃ」
そう割って入ってきたアイシスにマルヴィナが冷たい視線を向けた。
「あら、やっぱり生意気な餓鬼なのね。そんなに焦らなくても案内するわよ。こっちよ」
マルヴィナはファブリスたちに背を向けて歩き始めた。それに続いてファブリスも足を進めた。
再びアズラルトと対峙することになる。そう考えるだけで怒りがファブリスの中で湧き上がってくる。だが、怒りだけでは駄目なのだと同時にファブリスは思う。復讐心だけでは駄目なのだ。
必要なのはやはり狂気か。アズラルト、そして、そこのマルヴィナも狂気に侵されている。彼らの狂気が何による狂気なのか。それをファブリスは知らないし、さして興味もない。
怒りの中の狂気。アズラルトに打ち勝つのであれば、彼の中にある狂気をも凌駕する狂気。それが必要なのだとファブリスは思っていた。
マルヴィナが背後から無言でついて来るファブリスを振り返った。青色の瞳には紛れもなく狂気の光が宿っている。
「やっぱり魔族は臭いわね。だから嫌いよ」
その言葉にファブリスの隣で同じく無言で歩いていたマーサの顔が一瞬にして引き攣る。そんなマーサをファブリスは目で制した。
この場では言いたいことを言わせておけとファブリスは思っていた。いずれはアズラルト、ガルディスと共にその首を地面に落とし、踏みにじるだけなのだからとファブリスは思う。
「邪神、恐ろしいことを考えておるな」
ファブリスはそう言ってきたアイシスに顔を向けると、口角を持ち上げて笑ってみせた。そのファブリスの顔には紛れもなく狂気が宿っているのかもしれなかった。
そのようなファブリスの顔を見てアイシスは何か言いたげだったが、言葉を飲み込んだようだった。次いでアイシスはマルヴィナに視線を向けた。
「臭い臭いとうるさいのう。お主は余程、魔族が嫌いなのじゃな」
その言葉にマルヴィナは再び背後を振り返った。
「あら、魔族だけではないわ。私、人族だって嫌いよ」
「ほう……」
「知ってるかしら? マナ教は教義上、人族も魔族も平等なのよ。だから、マナ教内部の祭司は魔族も多いのよ」
そう語るマルヴィナの青い瞳は変わらずに狂気を帯びているようだった。
「魔族はね、人族に抑圧されてきたから、人族に対してとても歪んだ感情を持っているのよ。長いこと虐げられてきた種族だから、それも仕方ないことなのだけれども。そして、マナ教の内部で日々を暮らして、人族と関われば関わるほど魔族のその感情はより醜く歪んでいくのよ。とても醜くね」
「なるほど。一つの見解じゃな」
アイシスが頷くとマルヴィナは心外だといったような顔をする。
「あら、一つのじゃないわ。紛れもない、たった一つの事実よ。そんな中に人族の身寄りもない美少女が放り出されたらどうなると思うかしら?」
「……お主のことか?」
アイシスの問いにマルヴィナは答えなかった。
「貴様、黙れ! それ以上は喋るな。耳が腐る!」
マーサが我慢ならないといった感じで口を開いた。
「あら、そういえば珍しい獣人族もいたわね。でも、馬鹿といると間抜け面になるのね。あなたも馬鹿な魔族と一緒に殺されに来たのかしら?」
「貴様!」
怒声と共に一歩を踏み出したマーサをファブリスの低い声が止めた。
「止めろ、マーサ」
「マルヴィナ、以前と違って随分とお喋りになったな。ジャガルと同じだ。偉くなると、お喋りになるものなのか?」
マルヴィナが心外だといったような顔をする。
「あら、あなたは皮肉屋になったと思うけど。私が偉くなったのは、邪神を討伐したからじゃないわ。私の能力があってからこそなのよ」
「どうでもいいことじゃ。マルヴィナとやら、早く妾を案内するのじゃ」
そう割って入ってきたアイシスにマルヴィナが冷たい視線を向けた。
「あら、やっぱり生意気な餓鬼なのね。そんなに焦らなくても案内するわよ。こっちよ」
マルヴィナはファブリスたちに背を向けて歩き始めた。それに続いてファブリスも足を進めた。
再びアズラルトと対峙することになる。そう考えるだけで怒りがファブリスの中で湧き上がってくる。だが、怒りだけでは駄目なのだと同時にファブリスは思う。復讐心だけでは駄目なのだ。
必要なのはやはり狂気か。アズラルト、そして、そこのマルヴィナも狂気に侵されている。彼らの狂気が何による狂気なのか。それをファブリスは知らないし、さして興味もない。
怒りの中の狂気。アズラルトに打ち勝つのであれば、彼の中にある狂気をも凌駕する狂気。それが必要なのだとファブリスは思っていた。
マルヴィナが背後から無言でついて来るファブリスを振り返った。青色の瞳には紛れもなく狂気の光が宿っている。
「やっぱり魔族は臭いわね。だから嫌いよ」
その言葉にファブリスの隣で同じく無言で歩いていたマーサの顔が一瞬にして引き攣る。そんなマーサをファブリスは目で制した。
この場では言いたいことを言わせておけとファブリスは思っていた。いずれはアズラルト、ガルディスと共にその首を地面に落とし、踏みにじるだけなのだからとファブリスは思う。
「邪神、恐ろしいことを考えておるな」
ファブリスはそう言ってきたアイシスに顔を向けると、口角を持ち上げて笑ってみせた。そのファブリスの顔には紛れもなく狂気が宿っているのかもしれなかった。
そのようなファブリスの顔を見てアイシスは何か言いたげだったが、言葉を飲み込んだようだった。次いでアイシスはマルヴィナに視線を向けた。
「臭い臭いとうるさいのう。お主は余程、魔族が嫌いなのじゃな」
その言葉にマルヴィナは再び背後を振り返った。
「あら、魔族だけではないわ。私、人族だって嫌いよ」
「ほう……」
「知ってるかしら? マナ教は教義上、人族も魔族も平等なのよ。だから、マナ教内部の祭司は魔族も多いのよ」
そう語るマルヴィナの青い瞳は変わらずに狂気を帯びているようだった。
「魔族はね、人族に抑圧されてきたから、人族に対してとても歪んだ感情を持っているのよ。長いこと虐げられてきた種族だから、それも仕方ないことなのだけれども。そして、マナ教の内部で日々を暮らして、人族と関われば関わるほど魔族のその感情はより醜く歪んでいくのよ。とても醜くね」
「なるほど。一つの見解じゃな」
アイシスが頷くとマルヴィナは心外だといったような顔をする。
「あら、一つのじゃないわ。紛れもない、たった一つの事実よ。そんな中に人族の身寄りもない美少女が放り出されたらどうなると思うかしら?」
「……お主のことか?」
アイシスの問いにマルヴィナは答えなかった。