第71話 終焉
文字数 1,619文字
頭部が爆ぜてもアズラルトの体は、再生しようとするかのように僅かながら動いていた。だが、それも長くは保つまいとファブリスはそれを横目で見ながら思う。
心臓を邪神封じの魔剣に貫かれたのだ。アズラルトは間違いなく朽ち果てるはずだった。かつての邪神がそうだったように。
あれ程までに憎んだアズラルトを殺した、あるいは殺しつつあるというのに、ファブリスには何の感慨も浮かんではこない。ファブリスの中にある物はアズラルトを殺した、殺しつつあるという事実の認識だけだった。
まあいいとファブリスは思う。
アズラルトの最後を看取る必要はないし最早、興味もないとファブリスは思う。今はエルを助けることが先だった。
アイシスの言葉通りならば、今もエルの体には邪神の力が集まっているのだろう。邪神の力が集中することによる体への負担。それがエルにとってどれ程のものなのかは分からないが、ろくな結果を生み出さないであろうことは想像できた。
さて、どうするとファブリスは改めて思った。
やはり、エルの四方を囲っているあの禍々しく見える燭台のような物を壊してみるか。見る限りでは、あの燭台がエルの身を封じていると考えてよさそうだった。ファブリスはそう決意して、エルに近づいていく。
「駄目……来ないで……逃げて……力が……巻き込んでしまう……」
エルが途切れ途切れで言った時だった。エルの体内から黒い霧のような物が現れた。それは槍のように形状を変えるとファブリスを目掛けて伸びてくる。
エルの細い悲鳴が聞こえる。槍のように長細くなった黒い霧状の物がファブリスの腹部を貫く。ファブリスの口から鮮血が流れ出る。
今日は体に穴があく日らしい。ファブリスの中でそんな皮肉な言葉が浮かんでくる。
「面白い。邪神の力でしかない分際で、排除されるのを拒むのか。力の分際で歯向かうつもりか? だが、これぐらいで俺は死なんな。生憎と俺も邪神なのでな」
「駄目……逃げて……」
「苦しいか? 待ってろ、エル。今、助けてやる。俺は俺の傍にいる者を二度と失うつもりはないのだからな」
ファブリスは体を貫かれたまま、歩みを進める。貫かれた腹部からの出血が更に激しくなる。激痛が全身を走り抜けていく。だが、ファブリスはそれらを意に介することはなかった。
体を貫かれても歩みを止めないファブリスに対して、更に左手から槍状のものが突き出されてくる。ファブリスは大剣でそれを叩き落とす。
「貴様ら邪魔だな……根絶やしだ」
ファブリスは低く呟いたのだった。
強制転移。
マーサは舌打ちを堪える。
自分の目尻に涙が滲んでいるのは気のせいなのだろうとマーサは結論づけた。
そもそもが、ちんちくりんの分際で生意気なのだ。
地獄の蓋とやらを内側から閉じるとアイシスは言っていた。
ならば、その後はどうなる?
考えるまでもないのだ。
アイシスが抱えている物。それを知る術はマーサにはない。だが、それがアイシスの覚悟なのであれば、単純にマーサは頑張れと思うのだった。
そして、マーサにもアイシスと同じように抱えている物がある。今はその使命を全うするだけなのだ。
そうでなければ、次にアイシスと会う時、アイシスをちんちくりんと呼べなくなるからな。マーサはそう思うのだった。
やがてマーサの視界が鮮明になり始め、転移の終わりが告げられようとしていた。
ファブリスとエルは無事なのだろうか。勇者はどうなったのだろうか。
焦る気持ちを押さえながら、マーサは鮮明となり始めた視界の先に目を凝らす。
次こそは、この身を投げ出してでも獣人族としてファブリスの役に立つ身とならねばならない。マーサは改めて決意していた。
やがて完全にマーサの視界が開けた。
視線の先には血塗れのファブリス。
そして、その片腕にはファブリスに抱きかかえられたエルの姿があった。
「ファブリス様、エル……」
マーサは呟き、大きく安堵のため息を吐き出したのだった。
心臓を邪神封じの魔剣に貫かれたのだ。アズラルトは間違いなく朽ち果てるはずだった。かつての邪神がそうだったように。
あれ程までに憎んだアズラルトを殺した、あるいは殺しつつあるというのに、ファブリスには何の感慨も浮かんではこない。ファブリスの中にある物はアズラルトを殺した、殺しつつあるという事実の認識だけだった。
まあいいとファブリスは思う。
アズラルトの最後を看取る必要はないし最早、興味もないとファブリスは思う。今はエルを助けることが先だった。
アイシスの言葉通りならば、今もエルの体には邪神の力が集まっているのだろう。邪神の力が集中することによる体への負担。それがエルにとってどれ程のものなのかは分からないが、ろくな結果を生み出さないであろうことは想像できた。
さて、どうするとファブリスは改めて思った。
やはり、エルの四方を囲っているあの禍々しく見える燭台のような物を壊してみるか。見る限りでは、あの燭台がエルの身を封じていると考えてよさそうだった。ファブリスはそう決意して、エルに近づいていく。
「駄目……来ないで……逃げて……力が……巻き込んでしまう……」
エルが途切れ途切れで言った時だった。エルの体内から黒い霧のような物が現れた。それは槍のように形状を変えるとファブリスを目掛けて伸びてくる。
エルの細い悲鳴が聞こえる。槍のように長細くなった黒い霧状の物がファブリスの腹部を貫く。ファブリスの口から鮮血が流れ出る。
今日は体に穴があく日らしい。ファブリスの中でそんな皮肉な言葉が浮かんでくる。
「面白い。邪神の力でしかない分際で、排除されるのを拒むのか。力の分際で歯向かうつもりか? だが、これぐらいで俺は死なんな。生憎と俺も邪神なのでな」
「駄目……逃げて……」
「苦しいか? 待ってろ、エル。今、助けてやる。俺は俺の傍にいる者を二度と失うつもりはないのだからな」
ファブリスは体を貫かれたまま、歩みを進める。貫かれた腹部からの出血が更に激しくなる。激痛が全身を走り抜けていく。だが、ファブリスはそれらを意に介することはなかった。
体を貫かれても歩みを止めないファブリスに対して、更に左手から槍状のものが突き出されてくる。ファブリスは大剣でそれを叩き落とす。
「貴様ら邪魔だな……根絶やしだ」
ファブリスは低く呟いたのだった。
強制転移。
マーサは舌打ちを堪える。
自分の目尻に涙が滲んでいるのは気のせいなのだろうとマーサは結論づけた。
そもそもが、ちんちくりんの分際で生意気なのだ。
地獄の蓋とやらを内側から閉じるとアイシスは言っていた。
ならば、その後はどうなる?
考えるまでもないのだ。
アイシスが抱えている物。それを知る術はマーサにはない。だが、それがアイシスの覚悟なのであれば、単純にマーサは頑張れと思うのだった。
そして、マーサにもアイシスと同じように抱えている物がある。今はその使命を全うするだけなのだ。
そうでなければ、次にアイシスと会う時、アイシスをちんちくりんと呼べなくなるからな。マーサはそう思うのだった。
やがてマーサの視界が鮮明になり始め、転移の終わりが告げられようとしていた。
ファブリスとエルは無事なのだろうか。勇者はどうなったのだろうか。
焦る気持ちを押さえながら、マーサは鮮明となり始めた視界の先に目を凝らす。
次こそは、この身を投げ出してでも獣人族としてファブリスの役に立つ身とならねばならない。マーサは改めて決意していた。
やがて完全にマーサの視界が開けた。
視線の先には血塗れのファブリス。
そして、その片腕にはファブリスに抱きかかえられたエルの姿があった。
「ファブリス様、エル……」
マーサは呟き、大きく安堵のため息を吐き出したのだった。