第58話 邪神の力
文字数 1,692文字
「アイシス、俺が邪神だろうがそうでなかろうが、どうだっていい。そもそも邪神の力とは何だ?」
ファブリスの言葉にアイシスはゆっくりと頷いた。
「よい質問じゃ。邪神の力は遥か昔、エルたち古代魔族に与えられた物なのじゃよ」
「与えられた? 誰にだ?」
「とある神じゃよ。古代魔族を作りし神じゃ」
「神? 俄に信じられない話だね」
マーサがアイシスに呟くように言葉を返した。
「何じゃ? お主たちが存在する以上、それを作った神がいるというものじゃ。神に作られたのでなければ、お主たちはどのように生まれた。お主は古代魔族が筍のようにある日、地面から急に生えてきたとでも言うつもりか?」
「そうは言わないけど……」
アイシスに言い返されてマーサが言い淀む。
「信じる、信じないはどうでもいい。それで、どうした?」
ファブリスが更にアイシスの言葉を促した。
「とある神が古代魔族を作った。それを真似て他の神々が魔族や人族を作ったのじゃ。獣人族も同様じゃな。そして、他の神々に後から作られた者たち。そのような彼らを古代魔族が従わせることができるように、とある神が古代魔族に与えた力なのじゃよ。言うなれば神の慈悲というやつじゃな。もっとも、先に作られた者がどれだけ偉いのか。妾はそれを言いたくなるがな」
マーサが言うように俄には信じられない話だった。仮にアイシスの言葉が本当だとする。では何故、これまでの邪神と呼ばれた者たちは魔族、人族関係なくそれを滅ぼそうとしたのか。魔族の中には古代魔族とやらも含まれていたはず。
そう。間違いなく今までの邪神は、ファブリスが知る限り魔族も人族も滅ぼそうとしたのだ。従わせるのではなく。
「ちんちくりん、前に邪神の力は古代魔族から生まれ、魔族が受け継ぐ物と言っていなかったか?」
その言葉にアイシスは大きく頷いた。
「そうじゃ、よく覚えていたのう。古代魔族に与えられ、生まれた邪神の力は魔族が引き継ぐことになったのじゃ」
「何かおかしくないか? 力は古代魔族のものだったのだろう?」
「そうじゃ。本来はな。その理を曲げてしまったのがこの妾じゃ。そして、それが妾の罪なのじゃよ」
「アイシス、今はお前の罪などはどうでもいい。その魔族が受け継ぐ力、邪神の力とエルがどう関係する? 具体的にアズラルトはエルに何をさせるつもりだ?」
アイシスはファブリスが口にした疑問に小首を傾げてみせた。
「分からぬ」
「貴様……」
喉元まで殺すぞという言葉が出かかった。
「残念ながら妾とて全てを知っているわけではないのだ。今の話とて、他者から聞いた話もある。だから、全てが真実との保障はない。だが……」
アイシスが言い淀む。
「だが……何だ?」
「恐らく勇者は邪神の力をエルに集めるつもりじゃ。そして集めた力を取り出す。それが触媒の役目なのじゃからな」
「エルはどうなる?」
「そのための触媒であり、生贄なのじゃからな。エルは死ぬじゃろうな」
アイシスは、あっさりと断言した。
「そんなことはさせないよ!」
マーサが声を張り上げた。
「落ち着け、獣人族。ここでお主が息巻いても何も解決せぬわ」
「だが、そんな悠長に構えている時間があるのか?」
ファブリスは疑問を口にした。
「今、邪神の力を誰よりも多く持つ者はお主なのじゃ。エルを触媒とする舞台を整えたならば、勇者は必ずお主の前に再び現れるはずじゃ」
「舞台とは?」
「どうじゃろうな。妾にも分からぬ。ただ、邪神の力の根源は悲哀じゃ。恐らくはそれを大量に発生させて、邪神の力の本質でもあるお主の力を中心としてエルの中に取り込もうとするはず」
「悲哀……どうやってだ?」
「そこまでは妾にも分からぬよ」
「だが、アズラルトは人族だ。仮に邪神の力を集められたとして、その力をどうする? 己の物として人族が、アズラルトが邪神の力を使えるのか?」
ファブリスの言葉にアイシスは明るい栗色の頭を左右に振る。
「それも分からぬ。勇者が邪神の力を己の物としようとしているのか。それとも、何か他に目的があるのか」
「分からないことだらけだね」
マーサはそう言ったが、そこにはいつものような揶揄する響きはなかった。
ファブリスの言葉にアイシスはゆっくりと頷いた。
「よい質問じゃ。邪神の力は遥か昔、エルたち古代魔族に与えられた物なのじゃよ」
「与えられた? 誰にだ?」
「とある神じゃよ。古代魔族を作りし神じゃ」
「神? 俄に信じられない話だね」
マーサがアイシスに呟くように言葉を返した。
「何じゃ? お主たちが存在する以上、それを作った神がいるというものじゃ。神に作られたのでなければ、お主たちはどのように生まれた。お主は古代魔族が筍のようにある日、地面から急に生えてきたとでも言うつもりか?」
「そうは言わないけど……」
アイシスに言い返されてマーサが言い淀む。
「信じる、信じないはどうでもいい。それで、どうした?」
ファブリスが更にアイシスの言葉を促した。
「とある神が古代魔族を作った。それを真似て他の神々が魔族や人族を作ったのじゃ。獣人族も同様じゃな。そして、他の神々に後から作られた者たち。そのような彼らを古代魔族が従わせることができるように、とある神が古代魔族に与えた力なのじゃよ。言うなれば神の慈悲というやつじゃな。もっとも、先に作られた者がどれだけ偉いのか。妾はそれを言いたくなるがな」
マーサが言うように俄には信じられない話だった。仮にアイシスの言葉が本当だとする。では何故、これまでの邪神と呼ばれた者たちは魔族、人族関係なくそれを滅ぼそうとしたのか。魔族の中には古代魔族とやらも含まれていたはず。
そう。間違いなく今までの邪神は、ファブリスが知る限り魔族も人族も滅ぼそうとしたのだ。従わせるのではなく。
「ちんちくりん、前に邪神の力は古代魔族から生まれ、魔族が受け継ぐ物と言っていなかったか?」
その言葉にアイシスは大きく頷いた。
「そうじゃ、よく覚えていたのう。古代魔族に与えられ、生まれた邪神の力は魔族が引き継ぐことになったのじゃ」
「何かおかしくないか? 力は古代魔族のものだったのだろう?」
「そうじゃ。本来はな。その理を曲げてしまったのがこの妾じゃ。そして、それが妾の罪なのじゃよ」
「アイシス、今はお前の罪などはどうでもいい。その魔族が受け継ぐ力、邪神の力とエルがどう関係する? 具体的にアズラルトはエルに何をさせるつもりだ?」
アイシスはファブリスが口にした疑問に小首を傾げてみせた。
「分からぬ」
「貴様……」
喉元まで殺すぞという言葉が出かかった。
「残念ながら妾とて全てを知っているわけではないのだ。今の話とて、他者から聞いた話もある。だから、全てが真実との保障はない。だが……」
アイシスが言い淀む。
「だが……何だ?」
「恐らく勇者は邪神の力をエルに集めるつもりじゃ。そして集めた力を取り出す。それが触媒の役目なのじゃからな」
「エルはどうなる?」
「そのための触媒であり、生贄なのじゃからな。エルは死ぬじゃろうな」
アイシスは、あっさりと断言した。
「そんなことはさせないよ!」
マーサが声を張り上げた。
「落ち着け、獣人族。ここでお主が息巻いても何も解決せぬわ」
「だが、そんな悠長に構えている時間があるのか?」
ファブリスは疑問を口にした。
「今、邪神の力を誰よりも多く持つ者はお主なのじゃ。エルを触媒とする舞台を整えたならば、勇者は必ずお主の前に再び現れるはずじゃ」
「舞台とは?」
「どうじゃろうな。妾にも分からぬ。ただ、邪神の力の根源は悲哀じゃ。恐らくはそれを大量に発生させて、邪神の力の本質でもあるお主の力を中心としてエルの中に取り込もうとするはず」
「悲哀……どうやってだ?」
「そこまでは妾にも分からぬよ」
「だが、アズラルトは人族だ。仮に邪神の力を集められたとして、その力をどうする? 己の物として人族が、アズラルトが邪神の力を使えるのか?」
ファブリスの言葉にアイシスは明るい栗色の頭を左右に振る。
「それも分からぬ。勇者が邪神の力を己の物としようとしているのか。それとも、何か他に目的があるのか」
「分からないことだらけだね」
マーサはそう言ったが、そこにはいつものような揶揄する響きはなかった。