第11話
文字数 1,808文字
「おい、何で時間を気にしているんだよ」
「誕生日会がそろそろ終わるかなって」
「あ? 迎えに行かなきゃならないのかよ。
クソ、集中できない状況にばかりしやがって。
なんかアイデアだせよ。CEOに顔向けできないだろ」
零香は息子が楽しみにしていた日を汚された気がして思わず怒りが口を衝いて出た。
「勝手に海上さんがCEOになっただけで、この事業は私のアイデアです・・・」
「なんだよ、お前のアイデアだけじゃ金を出すやつはいなかったじゃないか」
「そんなことはないわ。私の祖母たちの知り合いの人たちの約束をあなたが勝手に断ったんじゃない」
「うん? そうだっけ。知らんよ」
「私は止めます」
ニヤリと源蔵は笑った。
「そうすればいいさ。お前の肩書なんて無いも同然だよ。それに、お前の親族ラインにしても、墓の中か棺桶に足を突っ込んでいるだろうし、どうやって食っていけるか楽しみだな。
まあ、考えな。
嗚呼ああああああああ! ムシャクシャするぜ。
こんな気分じゃ仕事なんて進まないからどこかホテルへでも行ってやることにする。今日は帰らん、じゃあな」
そう言うと出て行ってしまった。
零香は寝室に駆け込み枕に顔を埋め泣いていたが、いつのまにか寝てしまっていたようだ。ふと気付くと携帯電話の呼び出し音が鳴っていた。菓乃の母親からであった。
「はい、蜂谷です」
「あ、お母さん、誕生日会終わったよ」
「フウちゃん? 」
「菓乃ちゃんのおばさんが掛けてくれたんだ」
「そこにいるの? 」
「う、うん・・・・、ちょっと、おじさんと話していて忙しいみたい。
それよりね、お土産ももらったよ。ケーキ屋さんの本物のパンケーキだよ。温かいうちに一緒に食べようよ。冷めてもちょっとチンすればいいくらいだよ」
「フウちゃんが食べればいいよ」
「え・・・・、ぼくら三人は今一緒に食べたよ。
でも・・・・お母さんともふたりで一緒に食べたいの」
もうクソ夫は零香の中から消えた。
「わかった。それは楽しみね。すぐ行くよ」
「うん」
零香はベッドから飛び起き、乱れているだろう髪を手櫛で整えながら車に飛び乗った。
家に帰ってくるなり風はニコニコして車から降り、母親より先に玄関に向かったが、ドアノブをすぐには回さなかった。
零香が近くに来た気配を感じてからゆっくりと力を加えていく。錠が閉まっている鈍い音がして風の小さい声が漏れた。
「良かった」
鍵が閉まっているということは父親がいないということを意味していた。
「ふたりでって、僕、言ったから・・・・」
「ごめんね。フウちゃん好き」
零香は思わずギュッとする。
「待って、待って、潰れちゃうよ。
ふわふわ が潰れてしまったら、世界の終わりなんだから」
「世界?
うふふ」
嫌なことはすべて消滅した。幸せしか母と子には似合わない。
「そうだよ、世界が救われるんだ。
あらゆる幸福を一滴も漏らさないで受け止めてくれるのさ。ふわっふわなんだよ。
それにね、舌に甘い液がふにょふにょに濡れた時の感じとか、暗い中の遠くに細い一本の糸がふりふり胸をくすぐって、ふわふわがね、抱きつくの・・・・」
舌?
ギュッ?
ふにょふにょ?
絡まる?
暗い中?
意味不明な言葉の交じる息子のユーモアセンスこそ零香の闇の世界を救ってくれる。
「待って待って焦らないで。
ハハハハハ。
分かったわ、さあ食べよう。どうするチンする? 」
「菓乃ちゃんのお母さんが、家に帰ってすぐ食べるなら、20秒ぐらいで大丈夫かもって」
「OK。じゃあ、フウちゃん、先に手を洗って着替えてらっしゃい。準備しておくから」
風は洗面所に走って行った。
零香はキッチンで手を洗って皿を2枚出した。そして、二つのカップに牛乳を注ぎレンジにかけて温めた。
牛乳をレンジから取り出しテーブルに置いた頃、風が戻ってきた。
「お、来たな。牛乳を温めたよ。
今、フウちゃんに言われた通りに20秒でケーキを温めてるよ」
箱にデザインされたお店の名前、「un pe de Z」の文字を見ながら、
「お店のなら美味しいのが当たり前ね」
そう言ったが、風は少し間を開けて返事をした。
「・・・・う、うん」
完了のお知らせメロディーも丁度流れたこともあり、零香は風の態度を気に留めることなく受け流していた。
「早く早く」
「どうぞ」
「お母さんが先に一口食べて。すごいんだから。
そうだよ、お母さんの数字にして、ずっとずっと永遠においしいになればよいのに」
息子のやけに真剣な顔に戸惑いながらもパクリと口に入れた。
「誕生日会がそろそろ終わるかなって」
「あ? 迎えに行かなきゃならないのかよ。
クソ、集中できない状況にばかりしやがって。
なんかアイデアだせよ。CEOに顔向けできないだろ」
零香は息子が楽しみにしていた日を汚された気がして思わず怒りが口を衝いて出た。
「勝手に海上さんがCEOになっただけで、この事業は私のアイデアです・・・」
「なんだよ、お前のアイデアだけじゃ金を出すやつはいなかったじゃないか」
「そんなことはないわ。私の祖母たちの知り合いの人たちの約束をあなたが勝手に断ったんじゃない」
「うん? そうだっけ。知らんよ」
「私は止めます」
ニヤリと源蔵は笑った。
「そうすればいいさ。お前の肩書なんて無いも同然だよ。それに、お前の親族ラインにしても、墓の中か棺桶に足を突っ込んでいるだろうし、どうやって食っていけるか楽しみだな。
まあ、考えな。
嗚呼ああああああああ! ムシャクシャするぜ。
こんな気分じゃ仕事なんて進まないからどこかホテルへでも行ってやることにする。今日は帰らん、じゃあな」
そう言うと出て行ってしまった。
零香は寝室に駆け込み枕に顔を埋め泣いていたが、いつのまにか寝てしまっていたようだ。ふと気付くと携帯電話の呼び出し音が鳴っていた。菓乃の母親からであった。
「はい、蜂谷です」
「あ、お母さん、誕生日会終わったよ」
「フウちゃん? 」
「菓乃ちゃんのおばさんが掛けてくれたんだ」
「そこにいるの? 」
「う、うん・・・・、ちょっと、おじさんと話していて忙しいみたい。
それよりね、お土産ももらったよ。ケーキ屋さんの本物のパンケーキだよ。温かいうちに一緒に食べようよ。冷めてもちょっとチンすればいいくらいだよ」
「フウちゃんが食べればいいよ」
「え・・・・、ぼくら三人は今一緒に食べたよ。
でも・・・・お母さんともふたりで一緒に食べたいの」
もうクソ夫は零香の中から消えた。
「わかった。それは楽しみね。すぐ行くよ」
「うん」
零香はベッドから飛び起き、乱れているだろう髪を手櫛で整えながら車に飛び乗った。
家に帰ってくるなり風はニコニコして車から降り、母親より先に玄関に向かったが、ドアノブをすぐには回さなかった。
零香が近くに来た気配を感じてからゆっくりと力を加えていく。錠が閉まっている鈍い音がして風の小さい声が漏れた。
「良かった」
鍵が閉まっているということは父親がいないということを意味していた。
「ふたりでって、僕、言ったから・・・・」
「ごめんね。フウちゃん好き」
零香は思わずギュッとする。
「待って、待って、潰れちゃうよ。
ふわふわ が潰れてしまったら、世界の終わりなんだから」
「世界?
うふふ」
嫌なことはすべて消滅した。幸せしか母と子には似合わない。
「そうだよ、世界が救われるんだ。
あらゆる幸福を一滴も漏らさないで受け止めてくれるのさ。ふわっふわなんだよ。
それにね、舌に甘い液がふにょふにょに濡れた時の感じとか、暗い中の遠くに細い一本の糸がふりふり胸をくすぐって、ふわふわがね、抱きつくの・・・・」
舌?
ギュッ?
ふにょふにょ?
絡まる?
暗い中?
意味不明な言葉の交じる息子のユーモアセンスこそ零香の闇の世界を救ってくれる。
「待って待って焦らないで。
ハハハハハ。
分かったわ、さあ食べよう。どうするチンする? 」
「菓乃ちゃんのお母さんが、家に帰ってすぐ食べるなら、20秒ぐらいで大丈夫かもって」
「OK。じゃあ、フウちゃん、先に手を洗って着替えてらっしゃい。準備しておくから」
風は洗面所に走って行った。
零香はキッチンで手を洗って皿を2枚出した。そして、二つのカップに牛乳を注ぎレンジにかけて温めた。
牛乳をレンジから取り出しテーブルに置いた頃、風が戻ってきた。
「お、来たな。牛乳を温めたよ。
今、フウちゃんに言われた通りに20秒でケーキを温めてるよ」
箱にデザインされたお店の名前、「un pe de Z」の文字を見ながら、
「お店のなら美味しいのが当たり前ね」
そう言ったが、風は少し間を開けて返事をした。
「・・・・う、うん」
完了のお知らせメロディーも丁度流れたこともあり、零香は風の態度を気に留めることなく受け流していた。
「早く早く」
「どうぞ」
「お母さんが先に一口食べて。すごいんだから。
そうだよ、お母さんの数字にして、ずっとずっと永遠においしいになればよいのに」
息子のやけに真剣な顔に戸惑いながらもパクリと口に入れた。