第8話
文字数 1,561文字
零香は車をスイーツ店『un peu de Z』の駐車場に停めた。
「着いたよ。菓乃ちゃんへのバースデー・プレゼント忘れないようにね」
このスイーツ店は本日の主役である鈴野菓乃の家であった。
「分かってるよ」
零香は落としたプレゼントを慌てて拾う息子に小言を言いそうになったが我慢した。
「楽しんでおいで」
「はい」
風は返事をしたが外を窺うだけで降車しない。
「どうしたの? 」
「ヒミが来たの」
仁科妃美香は零香たちが来た方角とは反対から一人でこちらへ歩いてきた。
「早く、降りて一緒に行けば」
「え、うん」
零香は息子に向き直って言った。
「ヒミちゃん、なんか益々凛々しくなってきたね」
少し、ニヤつきながら彼の表情を興味深げに見ていたが、不意にウインドウを叩く音でびっくりさせられた。
「うぉっ」
ちょっと目を離したすきに、瞬間移動したかのような素早さで後部座席のウインドウに顔を押し付け、三白眼の瞳で覗き込む妃美香の仕業であった。
男の子のような短髪ながら流線のフェイスラインが美しさの予兆を香らせる。瞳に僅かな色味が増し、ニヤリと口元を動かした瞬間にドアが勢いよく開けられた。
「おばさんこんにちはフウちゃん連れていきますね。ほらそれ菓乃へのプレゼントでしょ、ウチが持とうか、さあ降りてじゃあおばさんフウちゃんはご心配なく」
一気にまくしたてられ勢いに呑まれた零香が、「あっ」だけしか返せぬ間に、無駄のない時間のライディングを見せつけて少女は、息子と共に消えてしまっていた。
「何よ、キラキラした瞬間を捕まえて素直に跳ねてるあの子の感じ。
ふっ、好きだわ。
フウちゃんは嫌がっているように見えなかったから好きなのかしら。それともやっぱり、菓乃ちゃんが好きなんかな。まあ、どちらも違う系統のカワイイだわ」
零香は一人の時に聴くミュージックリスト「ニューヨーク・パンク」を選んで車内に響かせ、来た道を戻っていく。
「ウチの天使ちゃんは二人に出会えてよかったな、本当に」
三人の子供たちは幼稚園で出会い、小学校に通うようになっても変わらずに仲良くしていた。風は早生まれということもあり体も小さいし性格的にも繊細過ぎて引っ込み思案が目立った。普通の流れで、同じ男の子からは虐められてしまっていたが、そんな時に妃美香と菓乃が守ってくれていた。妃美香がお姉さんで妹と弟を守っている関係性といえた。零香は思春期を迎えると難しいと思いつつも、いつまでもこのままであって欲しかった。
「素敵な誕生日会を楽しんで、幸せな笑顔で戻って来て欲しいわ」
そんな優しい気持ちも家に到着したとたん彼女の気分は重くなるのであった。敢えて大袈裟なため息で心に勢いを与えるようにして中へ入って行く。
「ただいま」
夫の蜂谷源蔵は紙の資料をダイニングに積んでノートパソコンを開いていたが、そもそも集中していない故に、待っていましたという感じで怒鳴って来た。
「遅いよ。お前が行く必要ないだろ。他の子も行くならその子の親に寄ってもらえばいいじゃないか。馬鹿」
「ごめんなさい」
可愛すぎる天使も外の世界では虐められ、おもちゃにされているかもしれない。子供の世界は大変なのだから、せめて、家庭だけは和やかに笑顔の絶えない日常を過ごさせたかった。理不尽な夫の仕打ちも自らがすべて受け止める覚悟であった。
この目の前のオヤジは息子が楽しみにしていた今日を侮辱しているように思えた。
「この男は誰? 」
紗耶は、この男を冷静に上から下までじっくり観察した。
「おい、何笑ってんだよ」
妻は知らない人に怒鳴られている感じが、おかしくて仕方がなかった。
「資料とってきます」
「おい、待てよ」
ニヤニヤしながら背を向け無視して離れていく。た。
「ヒヒヒアハハ。
フウみたいな天使を迎え入れられたんだから。
・・・・あんなでも運命の人ってのが笑えるわ」
「着いたよ。菓乃ちゃんへのバースデー・プレゼント忘れないようにね」
このスイーツ店は本日の主役である鈴野菓乃の家であった。
「分かってるよ」
零香は落としたプレゼントを慌てて拾う息子に小言を言いそうになったが我慢した。
「楽しんでおいで」
「はい」
風は返事をしたが外を窺うだけで降車しない。
「どうしたの? 」
「ヒミが来たの」
仁科妃美香は零香たちが来た方角とは反対から一人でこちらへ歩いてきた。
「早く、降りて一緒に行けば」
「え、うん」
零香は息子に向き直って言った。
「ヒミちゃん、なんか益々凛々しくなってきたね」
少し、ニヤつきながら彼の表情を興味深げに見ていたが、不意にウインドウを叩く音でびっくりさせられた。
「うぉっ」
ちょっと目を離したすきに、瞬間移動したかのような素早さで後部座席のウインドウに顔を押し付け、三白眼の瞳で覗き込む妃美香の仕業であった。
男の子のような短髪ながら流線のフェイスラインが美しさの予兆を香らせる。瞳に僅かな色味が増し、ニヤリと口元を動かした瞬間にドアが勢いよく開けられた。
「おばさんこんにちはフウちゃん連れていきますね。ほらそれ菓乃へのプレゼントでしょ、ウチが持とうか、さあ降りてじゃあおばさんフウちゃんはご心配なく」
一気にまくしたてられ勢いに呑まれた零香が、「あっ」だけしか返せぬ間に、無駄のない時間のライディングを見せつけて少女は、息子と共に消えてしまっていた。
「何よ、キラキラした瞬間を捕まえて素直に跳ねてるあの子の感じ。
ふっ、好きだわ。
フウちゃんは嫌がっているように見えなかったから好きなのかしら。それともやっぱり、菓乃ちゃんが好きなんかな。まあ、どちらも違う系統のカワイイだわ」
零香は一人の時に聴くミュージックリスト「ニューヨーク・パンク」を選んで車内に響かせ、来た道を戻っていく。
「ウチの天使ちゃんは二人に出会えてよかったな、本当に」
三人の子供たちは幼稚園で出会い、小学校に通うようになっても変わらずに仲良くしていた。風は早生まれということもあり体も小さいし性格的にも繊細過ぎて引っ込み思案が目立った。普通の流れで、同じ男の子からは虐められてしまっていたが、そんな時に妃美香と菓乃が守ってくれていた。妃美香がお姉さんで妹と弟を守っている関係性といえた。零香は思春期を迎えると難しいと思いつつも、いつまでもこのままであって欲しかった。
「素敵な誕生日会を楽しんで、幸せな笑顔で戻って来て欲しいわ」
そんな優しい気持ちも家に到着したとたん彼女の気分は重くなるのであった。敢えて大袈裟なため息で心に勢いを与えるようにして中へ入って行く。
「ただいま」
夫の蜂谷源蔵は紙の資料をダイニングに積んでノートパソコンを開いていたが、そもそも集中していない故に、待っていましたという感じで怒鳴って来た。
「遅いよ。お前が行く必要ないだろ。他の子も行くならその子の親に寄ってもらえばいいじゃないか。馬鹿」
「ごめんなさい」
可愛すぎる天使も外の世界では虐められ、おもちゃにされているかもしれない。子供の世界は大変なのだから、せめて、家庭だけは和やかに笑顔の絶えない日常を過ごさせたかった。理不尽な夫の仕打ちも自らがすべて受け止める覚悟であった。
この目の前のオヤジは息子が楽しみにしていた今日を侮辱しているように思えた。
「この男は誰? 」
紗耶は、この男を冷静に上から下までじっくり観察した。
「おい、何笑ってんだよ」
妻は知らない人に怒鳴られている感じが、おかしくて仕方がなかった。
「資料とってきます」
「おい、待てよ」
ニヤニヤしながら背を向け無視して離れていく。た。
「ヒヒヒアハハ。
フウみたいな天使を迎え入れられたんだから。
・・・・あんなでも運命の人ってのが笑えるわ」