第36話
文字数 972文字
妃美香は自分の住んでいる部屋よりも大きいエントランスを抜けて薄暗いリビングへ。テーブルや椅子などにぶつかりながらもマリコを追いかけた。先に光彩のカーテンが揺れていて、その只中でマリコは立ち止まりスイっと振り向いた。
「足元の配線。気を付けてください」
業務用冷蔵庫みたいな大きいコンピューターコンテナが置かれていることもあり、ホテルというよりも病院の集中治療室、はたまた、赤や青の光に育まれる野菜工場にも見える。
ベッドルーム感はなかった。
「じきに目を覚まされます。脳は覚醒状態で深い睡眠が出来なくなっていますので」
ベッドには華奢なマネキン人形が置かれているかに見えた。
「こちらがフウさまです。あなたとのチャット後に仮眠に入られました」
「迷惑だったら、帰りますけど」
「部屋に入れた。それはあなたが邪魔じゃないからです」
マリコは表情を変えないで言うと、作業の流れのまま背を向けフウの世話を始めていた。
短く区切る口調のせいなのか、「だからどうした」というような感じが妃美香を戸惑わせた。青みがかった夜明けの空気の色彩の如き微光の下で、膝をつき世話をする女性の敬虔な姿は、神々しく思えた。
妃美香の目が暗闇に慣れると、記憶に馴染むこぶりな幼馴染みが浮かび上がるように見えてきた。
「変わらんね。こっちの方がおばさん気分になるやんけ」
自虐的な少女のつぶやきに瞼が反応した。
「こっちこそ、死にたいよ」
生のフウの声は昔と変わっていない。
「ごめん、起こしたかい? 」
「こんな姿でごめんね」
「あやまんなよ、ウチが自虐的に言うのは可愛いけど、フウが口にしたらダメだって昔から言っているじゃないか」
「あはは」
「笑えるんじゃんか・・・・安心した。
心配させないでよ」
彼女は少し落ち着くとしなければならない告白を思い出した。
「あのさ、先に謝らなければいけないことが」
「何? 」
「ウチのせいで、フウのお母さんと菓乃が誘拐されたんじゃないかと」
思春期の男の子はニヤリと悪戯な表情を浮かべた。
「ああ、それね。心配ないよ。あの人はちょっとくらい怖い目に合えばいいのさ。裏でコソコソ動いていた罰だよ」
「罰って、お母さんでしょ」
「それはそうだ。ボクは悪い子だね」
「そのようなことは、ありません」
マリコは風の体を起こして首に滲んだ汗を厚めのウェットティッシュで拭きながら、間髪置かずに言った。
「足元の配線。気を付けてください」
業務用冷蔵庫みたいな大きいコンピューターコンテナが置かれていることもあり、ホテルというよりも病院の集中治療室、はたまた、赤や青の光に育まれる野菜工場にも見える。
ベッドルーム感はなかった。
「じきに目を覚まされます。脳は覚醒状態で深い睡眠が出来なくなっていますので」
ベッドには華奢なマネキン人形が置かれているかに見えた。
「こちらがフウさまです。あなたとのチャット後に仮眠に入られました」
「迷惑だったら、帰りますけど」
「部屋に入れた。それはあなたが邪魔じゃないからです」
マリコは表情を変えないで言うと、作業の流れのまま背を向けフウの世話を始めていた。
短く区切る口調のせいなのか、「だからどうした」というような感じが妃美香を戸惑わせた。青みがかった夜明けの空気の色彩の如き微光の下で、膝をつき世話をする女性の敬虔な姿は、神々しく思えた。
妃美香の目が暗闇に慣れると、記憶に馴染むこぶりな幼馴染みが浮かび上がるように見えてきた。
「変わらんね。こっちの方がおばさん気分になるやんけ」
自虐的な少女のつぶやきに瞼が反応した。
「こっちこそ、死にたいよ」
生のフウの声は昔と変わっていない。
「ごめん、起こしたかい? 」
「こんな姿でごめんね」
「あやまんなよ、ウチが自虐的に言うのは可愛いけど、フウが口にしたらダメだって昔から言っているじゃないか」
「あはは」
「笑えるんじゃんか・・・・安心した。
心配させないでよ」
彼女は少し落ち着くとしなければならない告白を思い出した。
「あのさ、先に謝らなければいけないことが」
「何? 」
「ウチのせいで、フウのお母さんと菓乃が誘拐されたんじゃないかと」
思春期の男の子はニヤリと悪戯な表情を浮かべた。
「ああ、それね。心配ないよ。あの人はちょっとくらい怖い目に合えばいいのさ。裏でコソコソ動いていた罰だよ」
「罰って、お母さんでしょ」
「それはそうだ。ボクは悪い子だね」
「そのようなことは、ありません」
マリコは風の体を起こして首に滲んだ汗を厚めのウェットティッシュで拭きながら、間髪置かずに言った。