第24話
文字数 1,944文字
零香は未熟なる覚醒下でまどろむ少女に舌を出して道化てみせる。
「ふぅ、あんたのせいで黒歴史を思い出しちまった。女狐呼ばわりされてた記憶なんか、今まで忘れていたのに。
まあ、そもそも、やましい事実はなかったんだから。あんたのお父さんには、パンケーキのレシピを教えてもらうために会っただけなんよ」
紗耶が娘の記憶を呼び覚まそうと質問した。
「ねえ覚えてる? 誕生日に私が作ったパンケーキ。みんなにも手伝ってもらって」
「うん、うん、あれ最高傑作だった。思い出してきた」
そして少し顔が曇った。
「お父さんは嫌がっていたっけ。
お母さんがパンケーキを作ると不機嫌になって。あんなに美味しいパンケーキの生地をいつもぼろくそ言って。本当に嫌いだった・・・・。
そう、あの日も。覚えている。
・・・・怖かった」
「そう、そこ」
零香が素早く反応した。
「そこなのよね、真実は。
息子がお土産で持ち帰ったパンケーキなんだけど、お店で出しているケーキだと思っていた。そのことを話した元の夫にレシピを聞いて来いと言われて、あんたのお父さんにお願いしに行った。そうしたら、彼は自分が作ったような素振りで、レシピをネタに呼び出してきて、いざ、行くと一回では教えないとか言ってさ。
でも、息子と何気にお誕生日会のことを話していた時に、あのパンケーキは紗耶さんが作ったモノだって知ってね、直ぐに紗耶さんに連絡したわ」
紗耶は零香の疑いを強くはらすかのような口調で娘に話す。
「だから、変な噂のような人じゃないの。それに、お父さんが亡くなった後、いろいろ金銭的にも、世間との距離を取って平穏な日常を取り戻す助けもしてくれた。味方でしかないわ」
「じゃあ、お父さんを誘拐したのは誰? 」
零香は頭をポリポリ掻く。
「まあ、それがね」
菓乃は整理しながら気になることを思い浮かべて。
「そこまでの流れや、罪滅ぼしとして単純に私たちを助けてくれるのは分かりました。でも私の記憶まで消す必要はあったのですか。
リスクも少なくはない行為を勝手に強いられて、尊厳を侵害させられたことを受け入れるしかないんですか? 」
「なんか、あんた、その思考の癖いいわね。私は好きよ。
紗耶さんが言ってたわ。あなたのケーキ作りには閃きと算数がうまく機能して、ちゃんとスイーツに満たされる幸福の詩を感じるって。
フフフ。兎に角、実際はあなたたちこそがある意味標的たる存在であった。それを、あなたのお父さんを誘拐した連中に知られたら、同じことになるって思った。だから、唯一、真実を知っている私の責任として、不安要素になりうるモノは塵の一つでも消そうと考えた。
現代社会ではデータ化されているものも多いから、逆に存在を潜らせることは簡単だし。仕事柄、プログラムもこなすしイージーなもんよ」
「何をなさっているんですか? 」
「脳神経医学とコンピューター工学をチョロチョロしてる人よ。
うふふ、プログラミングなんて、神と言われる程に天才でね。社会的存在をフェイクする程度なんてぺっぺぺっぺって、お茶の子さいさいなのよね」
「名前も勝手に麻衣にしたんですか? 」
紗耶が遮るように言う。
「それは、お母さんが頼んだの、ごめん。
あの時期、あなたはショック性の記憶喪失を患っていた。その姿を見ている時に、一旦リセットすれば全てがゼロからスタートできるかもしれないって考えたの。
あと正直なところ、菓乃って父さんが付けた名前だったから呼びたくないって言うか。
でも、もう大丈夫。ちゃんと取り返すのに、今こそがいいタイミングだと思うし」
「そうなんだ・・・・」
「でね、うっさい日本から息子と離れて、アメリカに行ったらダーリンと出会って、世界で大活躍中、やったああ。
終わりって感じ? 」
乱暴に零香は割り込んで話を締めてしまった。
「終わり?
馬鹿過ぎませんか」
少女の落ち着いたツッコミを零香はくらった。
「オイ!
端折ったけど、そんなところなんだよ。ハハハハハ」
「え、でもまだ、犯人についての核心には」
「この状況だと徐々にあんたの目の前で答え合わせが出来ていくだろうから、慌てなさんな。
もうっ、欲しがり屋さんなんだから」
「もう、ふざけないでください。でもその何とも言えないインチキっぽさも、カッコイイと思わせるのが凄い。いろいろワクワクする世界で活躍してそう」
「何よ、あんた、落としたり上げたり。フフフ好きだけどね。
そうね、最近は息子とワクワクが詰まったオープンワールドを運営しているわ。『ノベンバー・ソウル・ランド』って、知っているかしら? 」
菓乃は一気に目が覚めたような表情で反応した。
「ええ、知り合いが、否、私の推しが沼ッているそうです」
「推し? 沼? なんじゃ? 」
菓乃はニヤリではあったが、ようやく素直な可愛らしい表情を浮かべた。
「ふぅ、あんたのせいで黒歴史を思い出しちまった。女狐呼ばわりされてた記憶なんか、今まで忘れていたのに。
まあ、そもそも、やましい事実はなかったんだから。あんたのお父さんには、パンケーキのレシピを教えてもらうために会っただけなんよ」
紗耶が娘の記憶を呼び覚まそうと質問した。
「ねえ覚えてる? 誕生日に私が作ったパンケーキ。みんなにも手伝ってもらって」
「うん、うん、あれ最高傑作だった。思い出してきた」
そして少し顔が曇った。
「お父さんは嫌がっていたっけ。
お母さんがパンケーキを作ると不機嫌になって。あんなに美味しいパンケーキの生地をいつもぼろくそ言って。本当に嫌いだった・・・・。
そう、あの日も。覚えている。
・・・・怖かった」
「そう、そこ」
零香が素早く反応した。
「そこなのよね、真実は。
息子がお土産で持ち帰ったパンケーキなんだけど、お店で出しているケーキだと思っていた。そのことを話した元の夫にレシピを聞いて来いと言われて、あんたのお父さんにお願いしに行った。そうしたら、彼は自分が作ったような素振りで、レシピをネタに呼び出してきて、いざ、行くと一回では教えないとか言ってさ。
でも、息子と何気にお誕生日会のことを話していた時に、あのパンケーキは紗耶さんが作ったモノだって知ってね、直ぐに紗耶さんに連絡したわ」
紗耶は零香の疑いを強くはらすかのような口調で娘に話す。
「だから、変な噂のような人じゃないの。それに、お父さんが亡くなった後、いろいろ金銭的にも、世間との距離を取って平穏な日常を取り戻す助けもしてくれた。味方でしかないわ」
「じゃあ、お父さんを誘拐したのは誰? 」
零香は頭をポリポリ掻く。
「まあ、それがね」
菓乃は整理しながら気になることを思い浮かべて。
「そこまでの流れや、罪滅ぼしとして単純に私たちを助けてくれるのは分かりました。でも私の記憶まで消す必要はあったのですか。
リスクも少なくはない行為を勝手に強いられて、尊厳を侵害させられたことを受け入れるしかないんですか? 」
「なんか、あんた、その思考の癖いいわね。私は好きよ。
紗耶さんが言ってたわ。あなたのケーキ作りには閃きと算数がうまく機能して、ちゃんとスイーツに満たされる幸福の詩を感じるって。
フフフ。兎に角、実際はあなたたちこそがある意味標的たる存在であった。それを、あなたのお父さんを誘拐した連中に知られたら、同じことになるって思った。だから、唯一、真実を知っている私の責任として、不安要素になりうるモノは塵の一つでも消そうと考えた。
現代社会ではデータ化されているものも多いから、逆に存在を潜らせることは簡単だし。仕事柄、プログラムもこなすしイージーなもんよ」
「何をなさっているんですか? 」
「脳神経医学とコンピューター工学をチョロチョロしてる人よ。
うふふ、プログラミングなんて、神と言われる程に天才でね。社会的存在をフェイクする程度なんてぺっぺぺっぺって、お茶の子さいさいなのよね」
「名前も勝手に麻衣にしたんですか? 」
紗耶が遮るように言う。
「それは、お母さんが頼んだの、ごめん。
あの時期、あなたはショック性の記憶喪失を患っていた。その姿を見ている時に、一旦リセットすれば全てがゼロからスタートできるかもしれないって考えたの。
あと正直なところ、菓乃って父さんが付けた名前だったから呼びたくないって言うか。
でも、もう大丈夫。ちゃんと取り返すのに、今こそがいいタイミングだと思うし」
「そうなんだ・・・・」
「でね、うっさい日本から息子と離れて、アメリカに行ったらダーリンと出会って、世界で大活躍中、やったああ。
終わりって感じ? 」
乱暴に零香は割り込んで話を締めてしまった。
「終わり?
馬鹿過ぎませんか」
少女の落ち着いたツッコミを零香はくらった。
「オイ!
端折ったけど、そんなところなんだよ。ハハハハハ」
「え、でもまだ、犯人についての核心には」
「この状況だと徐々にあんたの目の前で答え合わせが出来ていくだろうから、慌てなさんな。
もうっ、欲しがり屋さんなんだから」
「もう、ふざけないでください。でもその何とも言えないインチキっぽさも、カッコイイと思わせるのが凄い。いろいろワクワクする世界で活躍してそう」
「何よ、あんた、落としたり上げたり。フフフ好きだけどね。
そうね、最近は息子とワクワクが詰まったオープンワールドを運営しているわ。『ノベンバー・ソウル・ランド』って、知っているかしら? 」
菓乃は一気に目が覚めたような表情で反応した。
「ええ、知り合いが、否、私の推しが沼ッているそうです」
「推し? 沼? なんじゃ? 」
菓乃はニヤリではあったが、ようやく素直な可愛らしい表情を浮かべた。