第26話
文字数 2,483文字
「あれ、ヒミちゃん何食べてるのかな?
あ、昨日、あの子に戴いたパンケーキでしょ」
「うんそう、ライブ後の御褒美に一口だけ食べたいから、大事に取っておいたのさ」
マリアは妃美香の口元に鼻を近づけて匂いを嗅いだ。
「うわー、いい香り。あのパンケーキ食べたくなっちゃったよ。よく我慢して取っておけたわね」
「いや、昨日は例のゲーム関連のやつで忙しくてさ」
「『ノベンバー・ソウル・ランド』だね。覚えたわよ。そこまでヒミちゃんを熱中させるなんて、興味がわいてきたな」
「フッ、いらっしゃいませ。歓迎するぜ。ゲームというよりもテーマパーク的なものだからマリアが好きそうな沼も必ず見つかる。
そうそう、ちょっとこれを見てくれ」
妃美香はスマホをバックから取り出す。NSLのアプリを起動するとオープニングムービーをマリアに見せた。
「わあ、本当にリアルな街だね。暮らしたら楽しそう」
「お目が高いちゃんとここに暮らせんのよ。映画だってアニメだって現実の世界と同じ感じでそれよりも魂が満たされる実感は神の降臨でそれでだな」
妃美香は感情が高まり過ぎて思わず人差し指でグリグリせずにはいられなかった。
「ぎゅあ、痛い。なぜに鼻先を押すの。やめなさい」
「こんな風に豚バナにする方もさせられた方も今みたいな感触と恥ずかしさをそのまま感じられるんよ。想像を超えて来るから体験してもらわないとね」
「待って待って、早口になってる。ちゃんとブレスを入れて」
マリアはティッシュで鼻をかみながら落ち着くように手の動きで示した。
「お、おう、分かった。でね、リーダー。アイドルの、育成ワールドも、あって、好きなように、推せるのですよ。チェキ会も、ある。うちらも、アバター、作って、そこで、デビューさせて、欲しいって、頼んでみよう、かね」
「何? 今度は息入れ過ぎで分かり辛いよ」
あまり見せない情緒的言動をする妃美香に対してマリアは真顔で尋ねた。
「でもヒミちゃん。なんか怪しい人間に騙されていない? 」
両肩を掴んでじっと見つめてくるので、妃美香は体をゆすって振り解こうと後ずさりする。
「いやいや、大丈夫だって。KZっていうシンボルのキャラクターがいるんだけど、ボイチャしてる中の人が幼なじみみたいなんだよね」
「本当に? 実際に会ったの?
幼なじみってことは未成年じゃない。そんな人がヒミちゃんの願いを聞いて、どうこう出来るなんて噓に決まっている。悪いおじさんに騙されているのよ。まさか、アイドル活動しているとか言ってないでしょうね」
「え、言ったよ。【メイプル・ビーズ】は知らなかった。
それにだよ、70年代パンク・ロックしか興味ない子だった」
「ほら!
おじさんじゃない! 」
「違う違う! 本当だって、純粋な少年だよ・・・・多分。
いやいやいや、大丈夫だって」
妃美香は世界中で三人しか知らない、あの時の誕生日会の押し入れの暗闇を思い出して顔が赤くなっていくのを感じた。
「今度、ライブに呼び出しなさいよ。私がちゃんと見定めてあげるから」
「今は体調が悪いからあまり外に出れないけど、いつかは見たいって」
「ほ~ら、怪しい」
面倒くさくなって妃美香は言い返した。
「もう、うるさいうるさい、母親か」
「そうよ」
このままこの問答を続けてもダメだと思って、そこは素直に受け止めることにした。
「ちゃんと、紹介します」
「はい、いい子ね」
「でも彼は地下アイドルって怪しいことを逆に心配して、変な契約から抜け出せないなら何とでもしてくれるって言ってくれてたから。
彼からしたらマリアも怖いお局様に見えるかも」
「え、何?
ヒミちゃん、ごめん、今、何か言った? 」
ヤバイと悟った妃美香はすぐに話題を切り替えようと、とりあえず話を続けた。
「あそうそう、チェキ会に興味津々だったから参加させよう。まずリーダーのチェキ券を買わせるから・・・・痛い」
アマネが後ろから抱きしめきて首筋を甘噛みしている。
「クールなアンドロイドみたいなのに肉欲ってか。あん? 」
笑いながらからかい、更にキスまで試みてくる。
「やめろ。キモイ」
「ええ、ひどい。ビューティー担当のこのわたくしに言います? 」
首を微かに動かしてちらっと冷めた目で一瞥して妃美香は言う。
「どこから、そういうことになるんだ。幼なじみの話だし、とにかく神聖なKZに対しても失礼な奴。土下座して、ひれ伏せ」
「ええ? だって顔赤いし。ひどい」
「アマネちゃんずるい、何をヒミちゃんと遊んでるの」
リンはそう言いながら、抱きしめられて動きが取れずに、ぶらぶらさせている妃美香の両手首を握ってゆらしはじめた。
「なんか、KZがどうとかって、コヤツに因縁付けられているんだよ」
「最上級神キャラですね。アマネちゃんおくれてるな」
三つ巴の戯れ言プロレスにリーダーはメンバーの仲良さを見て息を漏らすように言った。
「もう本当に、私たちって愛ね」
「マリア、お前もふざけんな! 」
アマネに羽交い絞めにされてもがく妃美香に対してマリアはマザーテレサの微笑みを湛え、
「照れなくていいのよ」
そう言って三人の肩を抱き寄せた。
楽屋に入ってきた石倉マネージャーが直ぐに声をかけた。
「お、新しい円陣か。いいこといいこと」
妃美香はうめくように
「殺す」
そう声を出すもすぐにアマネに阻まれた。
「照れるなよ」
そう言われながら両頬をつぶすよう摘ままれて、もうすべて観念した。
「本当に今日のライブは最高だったよ。そのせいかな、物販は大盛況だぞ。チェキ券も枯れまくってる。チェキ会の準備も出来たからそろそろ行こうかな」
「はーい」
マネージャーに対して三人が息の合った返事をして物販スペースへ向かった。
「いけね。約束、約束」
だが妃美香だけはフロアに向かわずにバッグをゴソゴソ探り始めていた。
「おーい、ヒミ早くしろ」
マネージャーの声を聞きながら、イヤホンを耳に押し込むと髪の毛で耳を隠す。
「OK。今、行くから。
・・・・うーんと、よし見えないな」
鏡で耳が完全に隠れたことを確認して、スマホの『NSL』アプリを起動する。
「あ、お待たせ。これから物販が始まるから、一緒に行くよ」
小さな声で話し始めた。
あ、昨日、あの子に戴いたパンケーキでしょ」
「うんそう、ライブ後の御褒美に一口だけ食べたいから、大事に取っておいたのさ」
マリアは妃美香の口元に鼻を近づけて匂いを嗅いだ。
「うわー、いい香り。あのパンケーキ食べたくなっちゃったよ。よく我慢して取っておけたわね」
「いや、昨日は例のゲーム関連のやつで忙しくてさ」
「『ノベンバー・ソウル・ランド』だね。覚えたわよ。そこまでヒミちゃんを熱中させるなんて、興味がわいてきたな」
「フッ、いらっしゃいませ。歓迎するぜ。ゲームというよりもテーマパーク的なものだからマリアが好きそうな沼も必ず見つかる。
そうそう、ちょっとこれを見てくれ」
妃美香はスマホをバックから取り出す。NSLのアプリを起動するとオープニングムービーをマリアに見せた。
「わあ、本当にリアルな街だね。暮らしたら楽しそう」
「お目が高いちゃんとここに暮らせんのよ。映画だってアニメだって現実の世界と同じ感じでそれよりも魂が満たされる実感は神の降臨でそれでだな」
妃美香は感情が高まり過ぎて思わず人差し指でグリグリせずにはいられなかった。
「ぎゅあ、痛い。なぜに鼻先を押すの。やめなさい」
「こんな風に豚バナにする方もさせられた方も今みたいな感触と恥ずかしさをそのまま感じられるんよ。想像を超えて来るから体験してもらわないとね」
「待って待って、早口になってる。ちゃんとブレスを入れて」
マリアはティッシュで鼻をかみながら落ち着くように手の動きで示した。
「お、おう、分かった。でね、リーダー。アイドルの、育成ワールドも、あって、好きなように、推せるのですよ。チェキ会も、ある。うちらも、アバター、作って、そこで、デビューさせて、欲しいって、頼んでみよう、かね」
「何? 今度は息入れ過ぎで分かり辛いよ」
あまり見せない情緒的言動をする妃美香に対してマリアは真顔で尋ねた。
「でもヒミちゃん。なんか怪しい人間に騙されていない? 」
両肩を掴んでじっと見つめてくるので、妃美香は体をゆすって振り解こうと後ずさりする。
「いやいや、大丈夫だって。KZっていうシンボルのキャラクターがいるんだけど、ボイチャしてる中の人が幼なじみみたいなんだよね」
「本当に? 実際に会ったの?
幼なじみってことは未成年じゃない。そんな人がヒミちゃんの願いを聞いて、どうこう出来るなんて噓に決まっている。悪いおじさんに騙されているのよ。まさか、アイドル活動しているとか言ってないでしょうね」
「え、言ったよ。【メイプル・ビーズ】は知らなかった。
それにだよ、70年代パンク・ロックしか興味ない子だった」
「ほら!
おじさんじゃない! 」
「違う違う! 本当だって、純粋な少年だよ・・・・多分。
いやいやいや、大丈夫だって」
妃美香は世界中で三人しか知らない、あの時の誕生日会の押し入れの暗闇を思い出して顔が赤くなっていくのを感じた。
「今度、ライブに呼び出しなさいよ。私がちゃんと見定めてあげるから」
「今は体調が悪いからあまり外に出れないけど、いつかは見たいって」
「ほ~ら、怪しい」
面倒くさくなって妃美香は言い返した。
「もう、うるさいうるさい、母親か」
「そうよ」
このままこの問答を続けてもダメだと思って、そこは素直に受け止めることにした。
「ちゃんと、紹介します」
「はい、いい子ね」
「でも彼は地下アイドルって怪しいことを逆に心配して、変な契約から抜け出せないなら何とでもしてくれるって言ってくれてたから。
彼からしたらマリアも怖いお局様に見えるかも」
「え、何?
ヒミちゃん、ごめん、今、何か言った? 」
ヤバイと悟った妃美香はすぐに話題を切り替えようと、とりあえず話を続けた。
「あそうそう、チェキ会に興味津々だったから参加させよう。まずリーダーのチェキ券を買わせるから・・・・痛い」
アマネが後ろから抱きしめきて首筋を甘噛みしている。
「クールなアンドロイドみたいなのに肉欲ってか。あん? 」
笑いながらからかい、更にキスまで試みてくる。
「やめろ。キモイ」
「ええ、ひどい。ビューティー担当のこのわたくしに言います? 」
首を微かに動かしてちらっと冷めた目で一瞥して妃美香は言う。
「どこから、そういうことになるんだ。幼なじみの話だし、とにかく神聖なKZに対しても失礼な奴。土下座して、ひれ伏せ」
「ええ? だって顔赤いし。ひどい」
「アマネちゃんずるい、何をヒミちゃんと遊んでるの」
リンはそう言いながら、抱きしめられて動きが取れずに、ぶらぶらさせている妃美香の両手首を握ってゆらしはじめた。
「なんか、KZがどうとかって、コヤツに因縁付けられているんだよ」
「最上級神キャラですね。アマネちゃんおくれてるな」
三つ巴の戯れ言プロレスにリーダーはメンバーの仲良さを見て息を漏らすように言った。
「もう本当に、私たちって愛ね」
「マリア、お前もふざけんな! 」
アマネに羽交い絞めにされてもがく妃美香に対してマリアはマザーテレサの微笑みを湛え、
「照れなくていいのよ」
そう言って三人の肩を抱き寄せた。
楽屋に入ってきた石倉マネージャーが直ぐに声をかけた。
「お、新しい円陣か。いいこといいこと」
妃美香はうめくように
「殺す」
そう声を出すもすぐにアマネに阻まれた。
「照れるなよ」
そう言われながら両頬をつぶすよう摘ままれて、もうすべて観念した。
「本当に今日のライブは最高だったよ。そのせいかな、物販は大盛況だぞ。チェキ券も枯れまくってる。チェキ会の準備も出来たからそろそろ行こうかな」
「はーい」
マネージャーに対して三人が息の合った返事をして物販スペースへ向かった。
「いけね。約束、約束」
だが妃美香だけはフロアに向かわずにバッグをゴソゴソ探り始めていた。
「おーい、ヒミ早くしろ」
マネージャーの声を聞きながら、イヤホンを耳に押し込むと髪の毛で耳を隠す。
「OK。今、行くから。
・・・・うーんと、よし見えないな」
鏡で耳が完全に隠れたことを確認して、スマホの『NSL』アプリを起動する。
「あ、お待たせ。これから物販が始まるから、一緒に行くよ」
小さな声で話し始めた。