第19話
文字数 1,950文字
妃美香はシューティングゲームをやりつくした後に、異世界でありながらもナチュラルな現実没入感を得られるRPG『ムーン・スキン』に出会った。吸血族と人間族、さらにどちらにもなれない亜種のクロス族がそれぞれの正義で世界を創造していく内容であった。
プレイヤーはデフォルト時、『ノベンバー・ソウル・ランド』ユーザー識別と紐づけされた共通のSBP(Soul Body Point)により立ち入れる区域が制限される。しかし、各エリアで得たポイントは全てのエリア共有ポイントになる為、ゲームエリア以外のライフエリアにおいてもスライド適用され優遇される。この特典を活用している流れで妃美香は『ノベンバー・ソウル・ランド』に慣れ親しむ中で、プレイヤーという意識から物理的なライフライン以外はメタバースですべてが享受され、仮想現実世界で「自分」を普通に生きている感じにハマった。
更に彼女の心を掴んだ決定打は、味覚を再現化するプラットフォームが実装されたことであった。
脳インプラント・ヘッドセットを装着して、『NSL』においてデータ化された最高級のスイーツ体験は衝撃をもって受け止められた。
「『ノベンバー・ソウル・ランド』は遂に、肉体の恍惚のデジタルエクスタシーの果てに、魂がそのままサイバーの中で生を錯覚して人間の概念を破滅させる化け物になった」
などと論ずる評論家も現れるし、こじれた夢想家たちは更に恍惚して、『ノベンバー・ソウル・ランド』の象徴であるKZこそが宇宙的数学の啓示体であるとして崇め奉るするのであった。
妃美香は難しい考察とは関係なく、現実世界で心無い言葉を浴びせかけられた日常の虚しさをリセットしてくれる世界は天国でしかなかった。
更に今回のスイーツキャンペーンは、性癖ど真ん中であるパンケーキを推しに紹介できる幸運を与えてくれた。ヘドロの如き日常が砂金となって舞ってくれたかのように。
「あ、神さま・・・・そこにいたのですね。
ありがとう世界中の、否、宇宙の神様も全部天才・・・・デッス」
『純喫茶第九』にいた女の子のパンケーキは神様からのプレゼントにしか思えなかった。
噂によると今回の特典は、あらゆる区画ブロックを自由に動けるフリーパスではないかと言われていた。肉体的生存維持に関する物理的な社会インフラ以外、デジタルとして置き換えた文化的な営みがオープンワールドで足りてしまうほどのプラチナパスポートである。
体的交感も更に一般社会においてもインフラ化されれば新たなリアルが既成事実化され人間の概念が当たり前になる。国も人種も思想も肉体による視点が消えた新世界の未来は来る。
「嗚呼ああウチは信じている。
あの子のパンケーキをKZならば理解してくれるに違いない・・・・絶対に。
神様、サンキュウです」
1日目のライブを終えて家に帰っても、妃美香は楽しみと残念なお知らせの予感を行ったり来たりしながら、すぐに確かめる決心がつかなかった。
「うっ。また、どうでもいい妄想をしている。
ライブ前に作ったポーションを送信してからまだ半日の半分も経っていないではないですか。一次はAI選考だとしても、上位候補になれば、遠隔による生身の人間がひとつひとつ吟味するだろうから時間もかかりますよ。
KZの中の人が何人いるか分からないけど、最終選考とかで中の一番偉い人に見つかるなんて、ずっと先のことやん、絶対。普通に考えれば発表まで数ヶ月はかかる。
あーあ、現実は辛いわー。つまんないの。
お風呂に入ろう」
最初に髪の毛、次に体を丁寧に洗い終え、湯船に片足を入れて急に我に返ったように
「まあ、取り敢えず半身浴の間は暇だし、エゴサついでにちょいと確認してもいいんじゃね? 」
などと、ぶつぶつ言いながら濡れたまま浴室を飛び出して、テーブルに置いてきたスマホを取りに戻って、ぎゅっとスマホを握りしめて浴槽までダッシュで走っていく。
「寒い寒い、風邪ひいてしまうわ。ふう。暖かい・・・・うん?
あ⁈ 」
思わず手を滑らせて浴槽の中にスマホを落としてしまった。
「ああ、ヤバイヤバイ。防水だけど完全ドボンは死ぬ」
慌てて取り上げて液晶画面を再度確認する。やっぱり、上部に通知が表示されていた。
― 『ノベンバー・ソウル・ランドのKZ』さんより通知があります。
『最重要補完解放のお知らせ』 ―
「え、マジ、うん?
なんだそれ、どういう事っすか」
すぐにアプリをタッチする。妃美香は興奮して足を滑らせてズルっと尻もちをついて、そのまま滑って半分おぼれた。
「うごごごご・・・・。
やばいやばい、招待コードが来てる。早く出なきゃ」
妃美香は飲み込んだお湯が鼻から出てきて、むせながらも飛び出し、タオルで身体を拭きながらバタバタしてベッドまで突進するのであった。
数秒間で半身浴は終った。
プレイヤーはデフォルト時、『ノベンバー・ソウル・ランド』ユーザー識別と紐づけされた共通のSBP(Soul Body Point)により立ち入れる区域が制限される。しかし、各エリアで得たポイントは全てのエリア共有ポイントになる為、ゲームエリア以外のライフエリアにおいてもスライド適用され優遇される。この特典を活用している流れで妃美香は『ノベンバー・ソウル・ランド』に慣れ親しむ中で、プレイヤーという意識から物理的なライフライン以外はメタバースですべてが享受され、仮想現実世界で「自分」を普通に生きている感じにハマった。
更に彼女の心を掴んだ決定打は、味覚を再現化するプラットフォームが実装されたことであった。
脳インプラント・ヘッドセットを装着して、『NSL』においてデータ化された最高級のスイーツ体験は衝撃をもって受け止められた。
「『ノベンバー・ソウル・ランド』は遂に、肉体の恍惚のデジタルエクスタシーの果てに、魂がそのままサイバーの中で生を錯覚して人間の概念を破滅させる化け物になった」
などと論ずる評論家も現れるし、こじれた夢想家たちは更に恍惚して、『ノベンバー・ソウル・ランド』の象徴であるKZこそが宇宙的数学の啓示体であるとして崇め奉るするのであった。
妃美香は難しい考察とは関係なく、現実世界で心無い言葉を浴びせかけられた日常の虚しさをリセットしてくれる世界は天国でしかなかった。
更に今回のスイーツキャンペーンは、性癖ど真ん中であるパンケーキを推しに紹介できる幸運を与えてくれた。ヘドロの如き日常が砂金となって舞ってくれたかのように。
「あ、神さま・・・・そこにいたのですね。
ありがとう世界中の、否、宇宙の神様も全部天才・・・・デッス」
『純喫茶第九』にいた女の子のパンケーキは神様からのプレゼントにしか思えなかった。
噂によると今回の特典は、あらゆる区画ブロックを自由に動けるフリーパスではないかと言われていた。肉体的生存維持に関する物理的な社会インフラ以外、デジタルとして置き換えた文化的な営みがオープンワールドで足りてしまうほどのプラチナパスポートである。
体的交感も更に一般社会においてもインフラ化されれば新たなリアルが既成事実化され人間の概念が当たり前になる。国も人種も思想も肉体による視点が消えた新世界の未来は来る。
「嗚呼ああウチは信じている。
あの子のパンケーキをKZならば理解してくれるに違いない・・・・絶対に。
神様、サンキュウです」
1日目のライブを終えて家に帰っても、妃美香は楽しみと残念なお知らせの予感を行ったり来たりしながら、すぐに確かめる決心がつかなかった。
「うっ。また、どうでもいい妄想をしている。
ライブ前に作ったポーションを送信してからまだ半日の半分も経っていないではないですか。一次はAI選考だとしても、上位候補になれば、遠隔による生身の人間がひとつひとつ吟味するだろうから時間もかかりますよ。
KZの中の人が何人いるか分からないけど、最終選考とかで中の一番偉い人に見つかるなんて、ずっと先のことやん、絶対。普通に考えれば発表まで数ヶ月はかかる。
あーあ、現実は辛いわー。つまんないの。
お風呂に入ろう」
最初に髪の毛、次に体を丁寧に洗い終え、湯船に片足を入れて急に我に返ったように
「まあ、取り敢えず半身浴の間は暇だし、エゴサついでにちょいと確認してもいいんじゃね? 」
などと、ぶつぶつ言いながら濡れたまま浴室を飛び出して、テーブルに置いてきたスマホを取りに戻って、ぎゅっとスマホを握りしめて浴槽までダッシュで走っていく。
「寒い寒い、風邪ひいてしまうわ。ふう。暖かい・・・・うん?
あ⁈ 」
思わず手を滑らせて浴槽の中にスマホを落としてしまった。
「ああ、ヤバイヤバイ。防水だけど完全ドボンは死ぬ」
慌てて取り上げて液晶画面を再度確認する。やっぱり、上部に通知が表示されていた。
― 『ノベンバー・ソウル・ランドのKZ』さんより通知があります。
『最重要補完解放のお知らせ』 ―
「え、マジ、うん?
なんだそれ、どういう事っすか」
すぐにアプリをタッチする。妃美香は興奮して足を滑らせてズルっと尻もちをついて、そのまま滑って半分おぼれた。
「うごごごご・・・・。
やばいやばい、招待コードが来てる。早く出なきゃ」
妃美香は飲み込んだお湯が鼻から出てきて、むせながらも飛び出し、タオルで身体を拭きながらバタバタしてベッドまで突進するのであった。
数秒間で半身浴は終った。