第37話
文字数 1,309文字
柑橘系の香りが妃美香の鼻腔をくすぐる。
「ありがとう。彼女と『ノベンバー・ソウル・ランド』に行くから準備してくれるかな。そうだ、母さんから連絡は? 」
「携帯電話の電波が届かない所にいるようです」
「じゃあ、父さんとまだ居るってことだな。いろいろ思い出話でもあるんだろう。仲良くなってもらえればいいのだけど」
マリコは無反応のままで、脳インプラントシステムの起動チェックに集中するだけであった。
「お友達のログインはカスタマー・アバターで行いますか? 」
「否、ヒミのIDに融合コネクトを組み込んで装備をお願い」
「承知しました」
マリコがベッドから離れたのを確認すると、少年はようやく幼なじみをじっくりと観察できた。
「変わらんね」
「何よ、急に。フウこそ、鬼越えで変らん」
「でも、本物のアイドルを肉眼で見ることが出来て嬉しいよ。最近は行きたい場所にもいけないし」
「馬鹿にしてるだろ。興味ないやん、絶対」
「そんなことないさ。少なくともこのアイドルはちょっと異端じゃん」
「うるさい。なあ、そんなにじっくり見んなって」
「肉眼では最初で最後かな。この記憶が未来でミラクルを生み出す種になるかしら・・・・。
愛おしくもあるな」
フウの言い回しの端々は妃美香を訝しがらせる。
「最初で最後って何よ。次のライブに来るんでしょ」
「うん・・・・ねえ。こんな姿では身動きが出来なくてもどかしすぎるから、世界を向こうに変えない? 」
「そのリアルな顔をちゃんと見たいのに」
「この塊の姿じゃあ、昔みたいに子供扱いされるから。
せっかくの再会だからさ、本当は僕だって肉眼でヒミを見たいさ」
「調子良すぎ。ちゃんと見たいのは、菓乃でしょ」
「否、うちの家族は彼女からすれば父親の仇だろうし・・・・」
「でも、フウのお母さんと一緒にいるところ見たけど、そんな感じはしなかった。
くっついて、心許している感じだったよ」
「少女たらしだからな」
「それで、やきもち焼いてるの」
「あ、忘れてた、妃美香もそんなタイプだった」
「え? な、な、何を。
イ、痛ッ」
その時、動揺する妃美香にマリコはヘッドセットをかぶせた。
「さすれば消えます。あなたのアバターネームは? 」
「Himi.G.L.」
妃美香は言われるままに、強引に押し込まれた辺りを摩るのであった。
「アイ・スキャン完了。限定解除コード組み込み完了。コード統合完了」
マリコはシステム確認を終わらせて、フウにもヘッドセットをつける準備を始めた。彼にはそれ以外の色とりどりのコードに繋がれたアタッチメントを身体に装着し始めた。
「痛くありませんか」
妃美香への扱いとは違っていた。
「もう、色々感じなくなっている」
「この体にぬくもりがある限り、お世話を続けます。元に戻った時、最高の状態でお迎えできるように」
「ありがとう」
「どこのサイバー世界であっても、いつでもおそばにいます。ご安心を」
マリコはヘッドセットの下で乱れたフウの髪の毛を、銀色の竜のついた櫛でとかし、最後は優しく指でなでた。
「わたくしも準備します」
「うん」
妃美香は最後の別れのようにもみえる不思議な景色に戸惑うのと、最初すこし憧れた感情を持ったマリコに対してなにか得体の知れぬ畏怖を覚えた。
「ありがとう。彼女と『ノベンバー・ソウル・ランド』に行くから準備してくれるかな。そうだ、母さんから連絡は? 」
「携帯電話の電波が届かない所にいるようです」
「じゃあ、父さんとまだ居るってことだな。いろいろ思い出話でもあるんだろう。仲良くなってもらえればいいのだけど」
マリコは無反応のままで、脳インプラントシステムの起動チェックに集中するだけであった。
「お友達のログインはカスタマー・アバターで行いますか? 」
「否、ヒミのIDに融合コネクトを組み込んで装備をお願い」
「承知しました」
マリコがベッドから離れたのを確認すると、少年はようやく幼なじみをじっくりと観察できた。
「変わらんね」
「何よ、急に。フウこそ、鬼越えで変らん」
「でも、本物のアイドルを肉眼で見ることが出来て嬉しいよ。最近は行きたい場所にもいけないし」
「馬鹿にしてるだろ。興味ないやん、絶対」
「そんなことないさ。少なくともこのアイドルはちょっと異端じゃん」
「うるさい。なあ、そんなにじっくり見んなって」
「肉眼では最初で最後かな。この記憶が未来でミラクルを生み出す種になるかしら・・・・。
愛おしくもあるな」
フウの言い回しの端々は妃美香を訝しがらせる。
「最初で最後って何よ。次のライブに来るんでしょ」
「うん・・・・ねえ。こんな姿では身動きが出来なくてもどかしすぎるから、世界を向こうに変えない? 」
「そのリアルな顔をちゃんと見たいのに」
「この塊の姿じゃあ、昔みたいに子供扱いされるから。
せっかくの再会だからさ、本当は僕だって肉眼でヒミを見たいさ」
「調子良すぎ。ちゃんと見たいのは、菓乃でしょ」
「否、うちの家族は彼女からすれば父親の仇だろうし・・・・」
「でも、フウのお母さんと一緒にいるところ見たけど、そんな感じはしなかった。
くっついて、心許している感じだったよ」
「少女たらしだからな」
「それで、やきもち焼いてるの」
「あ、忘れてた、妃美香もそんなタイプだった」
「え? な、な、何を。
イ、痛ッ」
その時、動揺する妃美香にマリコはヘッドセットをかぶせた。
「さすれば消えます。あなたのアバターネームは? 」
「Himi.G.L.」
妃美香は言われるままに、強引に押し込まれた辺りを摩るのであった。
「アイ・スキャン完了。限定解除コード組み込み完了。コード統合完了」
マリコはシステム確認を終わらせて、フウにもヘッドセットをつける準備を始めた。彼にはそれ以外の色とりどりのコードに繋がれたアタッチメントを身体に装着し始めた。
「痛くありませんか」
妃美香への扱いとは違っていた。
「もう、色々感じなくなっている」
「この体にぬくもりがある限り、お世話を続けます。元に戻った時、最高の状態でお迎えできるように」
「ありがとう」
「どこのサイバー世界であっても、いつでもおそばにいます。ご安心を」
マリコはヘッドセットの下で乱れたフウの髪の毛を、銀色の竜のついた櫛でとかし、最後は優しく指でなでた。
「わたくしも準備します」
「うん」
妃美香は最後の別れのようにもみえる不思議な景色に戸惑うのと、最初すこし憧れた感情を持ったマリコに対してなにか得体の知れぬ畏怖を覚えた。