第60話

文字数 1,794文字

 KZはハットに手をやり、美しいエッジ角度を探りながら質問をした。
「ユーザーはどうやってカードを手に入れていくの? ビギナー過ぎて申し訳ないけど教えて」
「いいさ。先ずだね、会員になると個人のオリジナルRカードが配布される。次にSNSとか銀行口座までの連携によってSRカードまでは容易く上がる。そこに、日々の経験やユーザー間のマッチング時に友好レベルをアップして相手のアポカからスキルを増やしたりするのさ。そうすることで、アポカリプスカードを強化していく。
でも、その貰った相手に不義理をしたり、愚かな低俗欲求のコードを発症させてしまうと、利用できたスキルが消えたり、ペナルティが増える。たまり過ぎたらカード自体が没収されんだなあああ」
「面白いね。関心しちゃった」
「なめんなよ。あと、未熟な行動が重なるとネガティブスキルが加わり、デバフカードに切り替わる。そうなったら、教養課程のイベントを経て修行しなくてはならない。大変だあああ」
「君はねじれた性格だけどデバフカードじゃないんだ」
「なんだ、ここでジョークはいらんぞ。バーカバーカあああ」
「フフフ、ちなみに君のSSRアポカは強いの? 」
「何を言っとる。ワチキのカードはRでさえ簡単に手に入らんの。シュットのSRカードを持っていたらモテモテモテテで、SSRなんて都市伝説ううう」
「そんなに? 」
「ヒヒヒ、噓びょーん。フン、で与えられしは君だけ。SRカードでさえ数万人に一人くらいの保菅比率さ。誇っていいぞおおぅ」
「そうなんだ。アポカのランクって、SSRが一番上でいいの? 」
「違うな。下から、R,SR,SSR(スーパースペシャルレア)、UR(アルティメットレア)、LR(レジェンドレア)だ」
「うん? 何でニコニコしとん。嬉しいぞ、ヒヒヒ。これこそ、零香ママンの子供の絆が強く結ばれた証拠どす」
KZはこの兄弟の距離感が心地よくなっていたのだろう。
「フフフ、嫌いじゃないみたい」
「素直じゃねえな。これからもっと詰めるからな。ギヒヒヒ。続けるぞ。
『きもちラボ』の垣根を越えて全てのネット環境下において、気持ちのやり取りをすることでクソ欲まみれ人間の民度を上げていくアプローチ。個人からの妬み嫉みをコントロール出来れば、国のエゴの暴走を抑えられるんだあああ」
「ボクの世界とは異なった哲学だな。興味深いね」
「うん? 気取った言い方だなあああ」
「さっきから気になっていたけど虹色の渦の正体は、たくさんのアポカの交感によるきらめきなんだね」
「手に取って見ろ。日本だけじゃない、世界中の人たちのアポカリプスカードだぜ。一枚一枚は淡い色なのに、これだけが集まるとこんなにも深みのある虹色になるんじゃあああ。
ちなみにSSRは金色、URはピンクダイヤの輝き、LRクラスはレインボウカードなんだぜ。まだその時期ではないから存在してないがな。一番に見せてやる。それよりも、現時点では最高位クラスのワチキのアポカを感じてごらんよううう」
「【五彩の子守うた】っていうカード名なんだね。光の言葉を構成する要素か」
「零香ママンが居なかったら今のワチキはいねえんだな。
生んでくれた母さんはワチキの口にタロットカードを突っ込んで死んじまった。音でコミュニケーションが取れなかったワチキに零香ママンは色で言葉を操るプログラムコードを授けてくれたんだ。マリア様なんよ・・・・ううう」
「そうなんだ。その頃、ボクはファンキーなおばあちゃんに預けられていたから、逆にお母さんとの記憶はないんだ。・・・・ボクらのひりつく記憶の色やメロディは共通点が多いのかも。
でも、敵みたいに登場している状況だけどね」
「なんでなんで何でえええ。
欲まみれのずるぅうい大人どもと一緒にすんなやあああ」
「父さんに聞いた印象と大分違ったな。『きもちラボ』の為に後先考えないでパティシエを乱獲させているんだって」
「フン、騙されてやんのおおお」
「でもさ、最近の、シー・ウエイブは競争の激しいアジアで抜け出して世界レベルになってる。『SLIDER』の特性から無茶しているのは想像に難くないし。源蔵は海上の親子が欲まみれの悪だって」
「この安心に満ちた世界では君の姿はより色鮮やかだぜ。清流に舞うような虹色のきらめきが欲に染まった色彩に見えるのかよ・・・・」
力なくしおらしくなったメアの姿にKZは真実を感じ取った。
「見えないね」
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