第25話
文字数 1,657文字
「ヲタク界隈の言い回し?。
沼というのは・・・・熱狂的にドはまりして麻痺してループして逃げられない感じ?
でしょうか、分かりますかね」
「う、うん?
勉強するわ。日本語進化しとるね。いいことよ。ガンガン踏み外せばいいのよ。ただでさえこの国は縮み始めとるから。正論つまらん」
「あ、はい・・・・?
それで、なんで急に現れたんですか? 」
「最近ニュースでまた騒がしいだろ、パティシエの失踪事件」
「はい。この事件は父と・・・・関係があるのですか」
「まあね」
「犯人をご存じなのですか?
ならば、すぐに警察へ行ってお話をして」
「まあ、そんなに簡単じゃないというか。国家権力が絡んでいるからね。
後さ、まったく無関係とは胸を張って言えんのよね。むしろ同じ穴の狢(むじな)ってやつ」
菓乃はそれ以上に踏み込まず現状に目を向けた。
「確かにここ最近の発生率は尋常じゃないです・・・・ね」
零香は救われたように、僅かながら晴れやかさを取り戻して頷く。
「ありがとう。あまり詳しくは話せんのだけれど。なんか、あちらさんもスタート時点の勘違いに気付いたようでね。それもあって、数日前に、息子と日本に帰って来たのさ。
そして、今日の夕方、さっき言ったオープンワールドの『ノベンバー・ソウル・ランド』のキャンペーンに、ウチのボクちゃんの感情を刺激するレアな波長をもったコードが届いていたのだけれど。あなたの話を聞いたら、奴らの手がふたりに近づくのは時間の問題かなって確信したわ」
「ふたり? 」
「その子にも明日会いに行く予定だけどね。いろいろ教えてもらいたいし」
「待ってください三人って、私とヒミちゃんと息子さんって・・・・」
「どう?
少しずつ思い出してきたかな。全てが変わったあの日とか」
菓乃の頭の中の小さかった白い点が塊になって弾けて三人の姿が浮かび現れる。
私たちはパンケーキを三つ
お皿にそれぞれ置いて
頬張った瞬間に満ちた天国
お父さんがやって来てお母さんを怒鳴っている
「こんなふわふわなパンケーキなんて食わすんじゃない
俺が作ってきたケーキよりも先に食べさせやがって」
お皿を持って走った
笑って
手を握って
クローゼットに入った
暗闇の中
「おーい、お前たちの為に作って来たんだ
早く来なさい
おいで
来い
パンケーキは全部捨ろ
さあおいで
本物のバースデーケーキがあるぞ
何処に行ったんだ
早く来なさい」
三人は震えていた
声が聞こえなくなってもしばらくじっとしていたけど
少しずつ心臓の鼓動も穏やかなリズムになって
誰からとでもなく同時に
「食べよう」
声を発した
そうあの口にほおばったすべての幸せが救い。
そしてキスをされた
真っ暗な中
「フウちゃん・・・・」
失神して後ろに崩れていく菓乃を、がっちりと零香は抱きしめた。
「ゆっくり寝て、記憶を整えようね。
あ、ねえ紗耶さん。この子、可愛いから、チュウしていい? 」
「え?
ここは日本ですよ」
「やだよー、ほっぺに決まってるじゃない。
そんなこと言われたら、唇?
いやいや、なんか嫌な予感がするからしないわ」
零香はグッとしこを踏むかのよう腰を入れて菓乃を抱えて
「この子の部屋はどこかしら、ゆっくり寝かせてあげましょう」
菓乃をベッドに寝かせてふたりはリビングに戻ると、数秒の間は気まずさを感じた。少し冷静さを取り戻し始めた紗耶は、空気を換える気遣いのつもりで言葉を絞り出す。
「お元気そうで」
「アハハハハ、何それ。元気になったわよ。
でも、少しあなたたちを見てしまうと、いろいろまだ反省が足りない気がしてくるわ」
零香は紗耶が出してきたパンケーキを口に入れた。
「あー、思い出すな、暗黒時代を。
アハハハハ。
だけど、あなたのパンケーキは嫌なことも、大事な記憶として包んでくれるほどの旨さなのよね」
「これは、あの子が昨日作ったものです」
「お、すげえ。ちゃんと、伝えてるんだ。うらやましい。
うちの子・・・・モーニングセットのパンケーキも喜んでいたけど、食べさせたいなこれ。高級ホテルもかなわんよ。
ボクちゃん、もう寝たかな」
零香は今朝の息子の顔を思い出しながら母の顔で微笑んだ。
沼というのは・・・・熱狂的にドはまりして麻痺してループして逃げられない感じ?
でしょうか、分かりますかね」
「う、うん?
勉強するわ。日本語進化しとるね。いいことよ。ガンガン踏み外せばいいのよ。ただでさえこの国は縮み始めとるから。正論つまらん」
「あ、はい・・・・?
それで、なんで急に現れたんですか? 」
「最近ニュースでまた騒がしいだろ、パティシエの失踪事件」
「はい。この事件は父と・・・・関係があるのですか」
「まあね」
「犯人をご存じなのですか?
ならば、すぐに警察へ行ってお話をして」
「まあ、そんなに簡単じゃないというか。国家権力が絡んでいるからね。
後さ、まったく無関係とは胸を張って言えんのよね。むしろ同じ穴の狢(むじな)ってやつ」
菓乃はそれ以上に踏み込まず現状に目を向けた。
「確かにここ最近の発生率は尋常じゃないです・・・・ね」
零香は救われたように、僅かながら晴れやかさを取り戻して頷く。
「ありがとう。あまり詳しくは話せんのだけれど。なんか、あちらさんもスタート時点の勘違いに気付いたようでね。それもあって、数日前に、息子と日本に帰って来たのさ。
そして、今日の夕方、さっき言ったオープンワールドの『ノベンバー・ソウル・ランド』のキャンペーンに、ウチのボクちゃんの感情を刺激するレアな波長をもったコードが届いていたのだけれど。あなたの話を聞いたら、奴らの手がふたりに近づくのは時間の問題かなって確信したわ」
「ふたり? 」
「その子にも明日会いに行く予定だけどね。いろいろ教えてもらいたいし」
「待ってください三人って、私とヒミちゃんと息子さんって・・・・」
「どう?
少しずつ思い出してきたかな。全てが変わったあの日とか」
菓乃の頭の中の小さかった白い点が塊になって弾けて三人の姿が浮かび現れる。
私たちはパンケーキを三つ
お皿にそれぞれ置いて
頬張った瞬間に満ちた天国
お父さんがやって来てお母さんを怒鳴っている
「こんなふわふわなパンケーキなんて食わすんじゃない
俺が作ってきたケーキよりも先に食べさせやがって」
お皿を持って走った
笑って
手を握って
クローゼットに入った
暗闇の中
「おーい、お前たちの為に作って来たんだ
早く来なさい
おいで
来い
パンケーキは全部捨ろ
さあおいで
本物のバースデーケーキがあるぞ
何処に行ったんだ
早く来なさい」
三人は震えていた
声が聞こえなくなってもしばらくじっとしていたけど
少しずつ心臓の鼓動も穏やかなリズムになって
誰からとでもなく同時に
「食べよう」
声を発した
そうあの口にほおばったすべての幸せが救い。
そしてキスをされた
真っ暗な中
「フウちゃん・・・・」
失神して後ろに崩れていく菓乃を、がっちりと零香は抱きしめた。
「ゆっくり寝て、記憶を整えようね。
あ、ねえ紗耶さん。この子、可愛いから、チュウしていい? 」
「え?
ここは日本ですよ」
「やだよー、ほっぺに決まってるじゃない。
そんなこと言われたら、唇?
いやいや、なんか嫌な予感がするからしないわ」
零香はグッとしこを踏むかのよう腰を入れて菓乃を抱えて
「この子の部屋はどこかしら、ゆっくり寝かせてあげましょう」
菓乃をベッドに寝かせてふたりはリビングに戻ると、数秒の間は気まずさを感じた。少し冷静さを取り戻し始めた紗耶は、空気を換える気遣いのつもりで言葉を絞り出す。
「お元気そうで」
「アハハハハ、何それ。元気になったわよ。
でも、少しあなたたちを見てしまうと、いろいろまだ反省が足りない気がしてくるわ」
零香は紗耶が出してきたパンケーキを口に入れた。
「あー、思い出すな、暗黒時代を。
アハハハハ。
だけど、あなたのパンケーキは嫌なことも、大事な記憶として包んでくれるほどの旨さなのよね」
「これは、あの子が昨日作ったものです」
「お、すげえ。ちゃんと、伝えてるんだ。うらやましい。
うちの子・・・・モーニングセットのパンケーキも喜んでいたけど、食べさせたいなこれ。高級ホテルもかなわんよ。
ボクちゃん、もう寝たかな」
零香は今朝の息子の顔を思い出しながら母の顔で微笑んだ。