第58話
文字数 1,082文字
零香は秀人のニューロン信号を感情複製AIによってディープラーニングさせて、生まれたコードを再び彼の脳へと循環させる試みを開始した。
非道な実験とも言えたが、ガラス細工のようにきれいな子が、邪な人間の中で生き延びる能力を導きしたい零香の切なる願い故の行動であった。
「このタブレットパソコンをプレゼントするわ。この中には君と共に覚醒したAIの卵がインストールされている。この子といっぱい遊んでね。君を助けてくれるから。
言葉なんてしゃべれなくてもプログラムを操ることが出来れば世界が君に寄り添ってくる。生活するには十分な収入にもつながるからね」
少年は早速アプリを起動させて声を洩らした。
「ばぁぁママぁぁ・・・・」
「エッ?
私の言葉を少し受け入れてくれた。うれしい」
秀人はその夜、タブレットを大事そうにずっと抱えたまま眠りについた。しかし、翌朝にその姿はなかった。零香が寝ているうちに海上によって連れていかれたのだった。
怒りを抑えきれず詰め寄る妻に対して夫はこともなげに、「親戚に預けたみたい」と言った。
その後、零香は一度も彼に会っていないし、追われる日常の中ではタブレットにインストールした「SLIDER」のベースプログラムのことも含め、記憶の隅に押し退けられてしまった。
暗いホテルの部屋でヘッドセットをマリコから渡され、記憶が甦るこの時まで。
「そう来たか、ウフフフ」
零香は暗いスイートルームで笑いを洩らした。
「あの子の存在がフウとの生体的コードと共鳴してもおかしくはないな。むしろ、引き合うから、セキュリティーも緩くなるさ。すっかり忘れていたよ、ごめんね」
味覚、旨さ、体験に秀人の色的音感と裏表のプログラムのファーストリングがガシャンと重く零香の脳内に響く。
「彼がNSLに現れるゴーストの正体・・・・私の行動が生み出したって訳ね」
マリコが待ちきれずヘッドセットを押し込んだ。
「時間がないのです。無限ループに彷徨させてるつもりですか。
あと。その悪そうな表情。
笑えます」
「何よそれ。感傷的になっていたのよ、失礼ね。
フン、早くアーカイブをプレイして頂戴」
「メアが乗っ取られる地点へのロードクリップ完了です。10倍速でデータ送出しますので解像度は下がりますが、実時間の十分の一程度で終わりますので、あちらの少女の調理が終わる頃には戻れるでしょう」
零香はちらっと見て
「あの子、最高のパティシエよ、あなたも食べなさいね」
「楽しみですね」
表情は変わらなかったが、まともに受け答えをしてきたこと自体が零香には意外であった。
「そうね」
菓乃の準備する香りを楽しみにしながらダイブしていった。
非道な実験とも言えたが、ガラス細工のようにきれいな子が、邪な人間の中で生き延びる能力を導きしたい零香の切なる願い故の行動であった。
「このタブレットパソコンをプレゼントするわ。この中には君と共に覚醒したAIの卵がインストールされている。この子といっぱい遊んでね。君を助けてくれるから。
言葉なんてしゃべれなくてもプログラムを操ることが出来れば世界が君に寄り添ってくる。生活するには十分な収入にもつながるからね」
少年は早速アプリを起動させて声を洩らした。
「ばぁぁママぁぁ・・・・」
「エッ?
私の言葉を少し受け入れてくれた。うれしい」
秀人はその夜、タブレットを大事そうにずっと抱えたまま眠りについた。しかし、翌朝にその姿はなかった。零香が寝ているうちに海上によって連れていかれたのだった。
怒りを抑えきれず詰め寄る妻に対して夫はこともなげに、「親戚に預けたみたい」と言った。
その後、零香は一度も彼に会っていないし、追われる日常の中ではタブレットにインストールした「SLIDER」のベースプログラムのことも含め、記憶の隅に押し退けられてしまった。
暗いホテルの部屋でヘッドセットをマリコから渡され、記憶が甦るこの時まで。
「そう来たか、ウフフフ」
零香は暗いスイートルームで笑いを洩らした。
「あの子の存在がフウとの生体的コードと共鳴してもおかしくはないな。むしろ、引き合うから、セキュリティーも緩くなるさ。すっかり忘れていたよ、ごめんね」
味覚、旨さ、体験に秀人の色的音感と裏表のプログラムのファーストリングがガシャンと重く零香の脳内に響く。
「彼がNSLに現れるゴーストの正体・・・・私の行動が生み出したって訳ね」
マリコが待ちきれずヘッドセットを押し込んだ。
「時間がないのです。無限ループに彷徨させてるつもりですか。
あと。その悪そうな表情。
笑えます」
「何よそれ。感傷的になっていたのよ、失礼ね。
フン、早くアーカイブをプレイして頂戴」
「メアが乗っ取られる地点へのロードクリップ完了です。10倍速でデータ送出しますので解像度は下がりますが、実時間の十分の一程度で終わりますので、あちらの少女の調理が終わる頃には戻れるでしょう」
零香はちらっと見て
「あの子、最高のパティシエよ、あなたも食べなさいね」
「楽しみですね」
表情は変わらなかったが、まともに受け答えをしてきたこと自体が零香には意外であった。
「そうね」
菓乃の準備する香りを楽しみにしながらダイブしていった。