第39話 崩壊の天使

文字数 2,187文字

魔王スケアクローは敗れた。


勇者ミウラは、1245672143の経験値を得た!


ミウラはレベル47に上がった!



勝ち誇った様子のミウラを確認し、神々しい青年の姿をした天使がそっと彼の前に現れる。


彼の正体はドミニオン。

そしてガブリエルでもあった。

よくぞ魔王スケアクローを討伐しました。

褒美の美容液サンプルセットです。

輝きを振り撒くガブリエルを見上げ、ミウラは薄笑いを浮かべながら差し出されたサンプルセットを受け取る。


スバルはドミニオンの変化の姿に目を見張った。

……?

ドミニオンさん?

あの姿は?

ラファエルじゃないのか?

中の人が一致するので。
え?

そんな事ってある?

あるよ。

いつもはガブリエルを名乗っているけど、ガブリエルとラファエルは実は同一視も可能だし。

チグハグな状況にも関わらず、勇者ミウラは汗を流しながらも全く動じることも疑問に思うことも無い様子でサンプルを確認し、やがて力無く頭を垂れた。
あ……!

僕はとうとう魔王を倒したんだ!

そんな……ああ……!

数子!

美容液サンプルと引き換えに、彼女を!

数子?

魔王スケアクローの転生前の姿かな?

数子さんというのは諱らしい。

魔王スケアクローの本名ね。

ミウラは過去生で浮気相手だった数子さんを少しでも愛していたみたいだね。

魔王を討伐したミウラに美容液サンプルを渡したドミニオンは、そのままスッと姿を消した。


事務室に音もなく戻り、元の見た目に戻る。

ふう。

私はガブリエルでありラファエルであり、ドミニオンでもあるのです。

この後、ミウラがこの建物から引き上げれば任務完了です。

早々に建物を引き払い、西の門を潜って帰りましょう。

あなた、リズムに乗るぜ!とか言うんですか?
リズムに?

乗りませんよ、私は。

スバルちゃん。

転生先が微妙に違うよ。

同一人物だけど、人違いだ。

しまった。

霊媒によくあるミスを!

リズム天国なら死ぬ程やりましたけどね!

ぼくはガブリエルでありガブリエルではないんです!

ラファエルとしての力も未だ未熟で!

次の修行場所に向かわねばなりません!

すっくと立ち上がったドミニオンは、再び玉座の間へと向かう。


煤となった魔王スケアクローの残骸に向かって、勇者ミウラは何やら呟いていた。

数子……。

いや、スケアクローだったな。

君はいつだって最強でひとりぼっちで、僕は君のことをとても放ってはおけなかった。

あの春の日、君はスーパーで半額シールが貼られたポークビッツを全て買い占めていたね。

カゴいっぱいになるまでポークビッツを手に取っている姿は異常過ぎたよ。

大好きだ。

あの夏の日、僕らはキャンプに出掛けて初めて結ばれたね。

トランクの扉を全開にして後部座席を倒して、何回も何回も君を抱いた。

そのシチュエーションが好き過ぎて隠し撮りして動画をネットに投稿したくらいだ。

大好きだ。

あの秋の日、君はラブホでSMの女王になるとか言ってバカみたいに散財して料金が支払いきれなくなって僕が慌てて消費者金融に駆け込んだ。

あの時の君の、残酷なまでに無垢な笑顔。

永遠に忘れないよ。

死ねよ、と本気で思った。

あの冬の日、クリスマスの前日に君が予定をドタキャンしてくるので落ち込んでいたら、君は何の罪の呵責もなくメールを送ってきたね。

「メリーウェーイ!クルシミマス!」

の文字を見た時、殺意が止まらなくなったよ。

永遠に愛しているよ、数子。

……。
ドミニオンは肩を落とし、静かに事務室へと戻った。

彼はゲッソリとした様子でパソコンの椅子に腰掛けた。

魔王と勇者は、いつも痴情のもつれで争っているんだよなぁ。

性欲なんてこの世から消え去ればいいのに。

性欲が消え去っても、諍いが無くなることはないよ。

また違う理由で人は争い始めるよ。

猛々しい世の中だ。

これが人間のサガか。

ああ、ツイスターケリュケイオンだったな。

何をしても戦いからは逃れられないし、戦争はなくならない。

勇者が立ち去るまで三人は事務室で待機を続けたが、ミウラはいつまでもその場に留まり続けた。


愛の口上を述べたり、美容液サンプルの袋を弄ったりして何やらガサゴソしていた彼が帰宅したのは、それから約三時間後であった。

やっと帰ったか。

しつこい男だ。

あれで人気商売してますからね。

裏では皆ヒソヒソしてますよ。

痛すぎる。

本人の耳に届かない事を祈るよ。
やがて荷物を纏めたドミニオンとスバルは揃って建物から立ち去った。


ドミニオンが工場跡地のような会社の建物に両手を翳すと、建物全体が金色の粒となりキレイに消え去っていく。

素粒子分解ですか?
いいえ。

ソーマの形に戻しています。

素粒子の前段階の状態に。

流石、ガブリエルだね!
ソーマ転換って?

そこまで極微領域を知っているのか……。

スバルちゃんも覚えれば出来るようになるよ。

アレキサンドリアードの感磁性を抜き取ればソーマ還元くらい簡単だから。

感磁性?

キアスムの極みかな?

ドミニオンはそれほど極めているのか。

いえ。

ゲサラマサラを起こしているだけです。

全ての感性要素を崩壊させる程の怒りのエネルギーを持っているんだね!

ドミニオンは恐ろしい破壊神でもあったね!

ドミニオン……。

やはり不思議な人だ。

スバルはポケットからスマホを取り出すと、NOVEL DAYSのサイトにアクセスした。


その中の、魔女ルカ☆魔獣リカの作品を開く。

世界律を一瞬で崩壊させるリカの存在。

ドミニオンはその力を持っているらしいと理解し、スマホの画面を閉じた。

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登場人物紹介

スバル

魔法使い志望。

ジュニアアイドルをしていた。

ノボル

スバルの級友

突然全てが虚しくなり、出家を決意する。

カンタ

スバルにいちゃもんをつける級友

マリナ

スバルの母

ネリア

可愛い彼女

魔王スケアクロー

スバルの上司にして魔王

ミウラ

打倒の標的にされている勇者

座天使ソロネ

スバルの守護天使

ドミニオン

会社の事務の人

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