第10話 分析の天使

文字数 2,044文字

品揃えの豊富さしか取り柄がない、少し値段が高めのスーパーに来た二人は、製菓材料コーナーに足を運んだ。
アラザンか。

いいな。

ジャリジャリの食感が好きだよ。

見た目も可愛くなるね。

私もアラザンは好きだよ。

スバルは頷き、アラザンを3袋程カゴに放り込んだ。

他にもトッピング材料を入れていく。

そんなに沢山使うの?

今回のシュークリーム作りでは、使っても内容袋三つの内、一つしか消費しないと思うよ。

しかしアラザンは好きだ。

他のお菓子にも使おう。

やはりクッキーも作るべきだ。

最高級の北海道産小麦粉を、全ての在庫を購入する事にし、カートに積み込んだ。


気の済むまで製菓材料を購入した後で、生肉コーナーを回る。

この肉は美味しいよ。

グルタミン酸が豊富だね。

人工的に添加しているな。
そうだね。

保存料のケルビンKとグルタミン酸を混ぜた液体をスプレーしているね。

独特の匂いが凄いもんね。

如何にも肉って感じがするけど、在りそうでない味がすると思う。
それは初耳だな。

どういう事かな?

美味しくないよ、この肉は。

頭痛がするだろう。

ケルビンKと肉の組織が腐敗を起こしている。

なるほど。

悪玉菌の原因だね。

肉を食べて腸が悪くなると言う人は、熟成のフリをした腐敗した肉を食べて言ってるんだね。

でもこの肉は高価だから、そういう人はブルジョワだよね。

やはり生協の肉が良いだろう。

デパート系列は高級感を狙う余り、逆にブランドを落とすような事をしている。

今夜は魚にしよう。

鮮魚コーナーの魚も似たようなものだよ。

保存の為に薬を使っているよ。

スーパーに入った途端に感じる薬臭さの原因だね。

そうだね。

やはりタンパクな味の肉や魚に限るよ。

今夜は湯豆腐にしよう。

白菜と水菜と焼き豆腐をカゴに入れ、会計に向かった。


レジはポイントカードを探してもたつく客のせいで、長蛇の列ができていた。

もっとスムーズに会計出来ないものかと思うが、認知能力が落ちていると仕方ないな。
計算すると、今並んでいるレジが一番早く辿り着けるよ。

並んでいる人が一人少ない隣だと、その倍待つことになるね。

レジ打ちの人の腕に全てがかかっているよ。

やはりレジ打ちで決まる、か。

ぼくも時折そう考えることがあった。

つい空いている方に行ってしまうけどね。

店員の名札にアルバイトと書いてあるのを見て、失望したりはよくあるよ。

みんなよく見ているよね。

分かっているみたい。

凄い勘だね。

いや、でも有望なバイトには補助が付きやすいと思う。

駄目な人は放置されるね。

大器晩成型の可能性もあるけどね。

でもそれはかなり稀なケースで、駄目な人はすぐに辞めるから店員の勘も相当だよね。

雑談をしている内に会計の番が回ってきた。


スバルはポイントカードを出し、その後でクレジットカードに手を伸ばすが一瞬の躊躇の後に再びカードを出した。


クレジットで会計を済ませ、颯爽と商品を段ボールに詰めて店を出る。

7万も買ったから今回はカードにしたけど、本当は現金の方が店も喜ぶよね。
手数料の関係だね。

少額をクレジット払いにするのは最悪だよね。

臨機応変かな。

今回はカードで正解だね。

混んでいたから。

ぼくは常に百万を持っているからどちらでもいけるけど、やはり考える時はあるよ。

昔、自営で商売をしている時に現金払いの客が神に見えたからね。

そこまでキアスムを理解しているんだね。

スバルちゃんはもっといろんな経験をした方がいいかもね。

とっても賢いから、全てを極める事も可能になるよ。

それは言い過ぎだろうけど、これがキアスムとは思わなかったよ。

相手を慮る思いやりだなんて。

キアスムという響きから、すぐには何かを理解出来ないから、霊力か何かだと勘違いしちゃうね。

状況の相互理解のことだよ。

スバルちゃんは優しいから、すぐに身につくね。

ぼくはそんなに優しいつもりはないよ。

いつも周囲に合わせて、損な役回りばかりだけど。

能力に対して正当な評価が得られない事が多過ぎたね。

半グレ領域ではあるあるだよ。

下層の勉強はもう充分でしょう。

そろそろ高みを目指しても良い頃だよ。

ソロネちゃん……。

ありがとう。

ぼく、自信をなくしていたんだね。

スバルは目頭を押さえながら、ゆっくり歩いていく。

やがて自宅の前に到着すると、お向かいにある建物を見上げた。

小さく看板が出ている。

魔法の竿(株)だと。

気付かなかった。

小さな工場みたいな見た目だが、どんな会社だ。

代表取締役社長・魔王ワタルとあるよ。
聞いたことある。

なんか、チャランポランな感じの小さな魔王だよ。

ケチな商売をしているらしい。

そりゃ、ノボルも失望するな。

言うねえ。

取り敢えず入社式は来月だから、それまでに準備をしておこうね。

私服OKとか言いながら強制スーツの会社みたいだよ。

スーツなら100着持っているから大丈夫だ。

黒いのがいいかな?

ここは、ブラックグレーのアラメが良いと思うよ。

一番無難なやつだね。

それもそうだな。

早いとこ、なまらでかいシュークリームを作ろう。

他にもお菓子を。

二人は談笑しながら、築120年の洋館に戻っていった。
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登場人物紹介

スバル

魔法使い志望。

ジュニアアイドルをしていた。

ノボル

スバルの級友

突然全てが虚しくなり、出家を決意する。

カンタ

スバルにいちゃもんをつける級友

マリナ

スバルの母

ネリア

可愛い彼女

魔王スケアクロー

スバルの上司にして魔王

ミウラ

打倒の標的にされている勇者

座天使ソロネ

スバルの守護天使

ドミニオン

会社の事務の人

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