第32話 霊媒の天使

文字数 1,874文字

翌日、スバルが出勤すると玉座の間にて魔王スケアクローが裸踊りをしていた。


よくよく見ると勇者ミウラの肖像画が置いてあり、彼の近影像にSM用の低温ローソクが幾筋もかけられている。


スバルは絶対零度の眼を以て、彼に挨拶をする。

……。

おはようございます。

おはようございます、スバル様。

今、勇者に呪をかけているところです。

奴がSの女王に躾をされるように、ね。

あなたが裸になる必要がどこにあるんですか。
私の呪いはいつもこうです。

糸一糸纏わぬ姿で踊り狂わないと、天に祈りが届かないんですよ。

さいですか。
スバルは魔王スケアクローに軽蔑の眼差しを向ながら事務室へと向かった。

いつもの通り、ドミニオンがパソコンに向かっている。

おはようございます。

ドミニオンさんはこの仕事が嫌にならないんですか。

ん、おはようございます。

別に。

平和なものでしょう。

あいつが奇行に狂うだけに留まるだけです。

こちらに害はありません。

それだけで済んでいるんですよ。

放っておくのがよいです。

それもそうか。

いちいち目くじらを立てるのは良くないな。

前の魔王は酷い物でした。

連日宴会を開き、酒池肉林の再現を強要されましたからね。

ワタルはすぐに処刑されました。

肉を木にぶら下げ、酒の池を作り、全裸の男女が駆け回る様子を見て愉しむ、という?
そうです。

ワタルの肉体に妲己が宿っていました。

アイツは本当に面倒な輩です。

ワタルはヒューマノイドパターンの一つになったんだ。

出世したねえ。

ワタルは大人気キャラです。

勇者としても優秀ですし、容姿も見目麗しく。

転生時のヒューマノイドを選べるのも不便だな。

全く、恥ずかしいったら。

あれはぼくの元止場ですよ。

知ってます。

食い物にされていますよ。

封印しよう。
スバルちゃん、英雄図鑑に自分を登録するのは辞めた方がいいね。

あらぬ言い掛かりと恨みを買うこともあるよ。

本当だよね。

英雄図鑑の自分のデータを全て抹消しよう。

全く、何をしているんですか。

余計な自己顕示欲は身を滅ぼしますよ。

ドミニオンのあの言葉はヴァーチャーの受け売りだからね。

スバルちゃんは気にすることないよ。

何か言いましたか?
さあね。

私の声は聞こえない筈だけど、ドミニオンはパーメットスコアが最高値を振り切っているから、私の話している事が何となく分かるんだね。

パーメットスコア?

ガンダムか。

水星の話は鬱過ぎて見る気がしない。

パーメットスコアですって?

イザナギの血のことですね。

よくご存知で。

いや、よく知らないが。

パーメットスコアが霊媒力の事を指すなら、あの話はかなり残酷になるぞ。

そりゃね。

エアリアルの能力は、スレッタにしか開花させられません。

それを知らないでグエルは奪いました。

あの結末は嘘ですよ。

本来なら、全員滅んで終わりです。

つまり、あのほんわかに見えるエンディングは幻想だったということね。
よくあるざまぁ展開だったんだね。
ワタルのヒューマノイドも、所詮は元止場の抜け殻ですからね。

能力の十分の一も引き出せていなかった。

そんなものです。

あなたはパーメットスコアが高いようですから、変身ブレスレットも扱えていますね。

そうかもしれない。

ぼくは昔から霊媒体質で。

阿頼耶識には易易と入れるようだね。

まさか、五蘊を制覇している、ということ?

信じられない。

そうなりますね。

末那識ももしかしたら……。

そんな、深層心理の奥の奥に侵入出来るなんて到底信じられません。
あなたはソロネの信頼を得ているでしょう。

マナを扱えています。

そこまでの神性領域に到達しているんですね。

えっ。

難しいと思っていたのに。

そんなに深い部分に、ぼくは到達していたの?

真魂の姿を自分で確認出来れば、殆ど到達しているようなものですよ。
ドミニオンさん。

あなたは一体……。

私はヴァーチャーの夫です。
こんな事を言うとドミニオンは傷つくと思うけど、スバルちゃんとドミニオンは紙一重の存在だったよ。

人類始祖だけど、スバルちゃんを始めとした子の多くに才能の全てを持っていかれた憐れな父なる存在だよ。

お父さんだって?

ぼくの父は……。

色々あって紛らわしいけど、大元の大元だという事で。
ぼくは傷付きません。

妻さえいればそれでいいんです。

ヤケになってない?
うるさいですよ!

いいったらいいんです!

ウェルナラを保ちなさい!

ウェルナラなあ。

便利な素粒子だな。

ドミニオンは不貞腐れたように回転椅子を動かし、パソコンに向かった。

スバルは狐に包まれたようになって、給湯室に向かい、茶を淹れて飲んだ。


玉座の間からは魔王スケアクローの奇声がいつまでも響き、全てが嫌になったスバルはそっと会社を出た。

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登場人物紹介

スバル

魔法使い志望。

ジュニアアイドルをしていた。

ノボル

スバルの級友

突然全てが虚しくなり、出家を決意する。

カンタ

スバルにいちゃもんをつける級友

マリナ

スバルの母

ネリア

可愛い彼女

魔王スケアクロー

スバルの上司にして魔王

ミウラ

打倒の標的にされている勇者

座天使ソロネ

スバルの守護天使

ドミニオン

会社の事務の人

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