第13話 約束の天使

文字数 2,096文字

スバルは今日に限って弁当を忘れた為、手作りの菓子で凌ぐことにした。


なまらでかいシュークリームが4つ。

クッキーが20 枚。

プレッツェルが54個ある。

クッキーだけ食べよう。

美味い。

流石ぼくだ。

スバルちゃんのお菓子は本当に芸術みたいだね。

きれいに作るね。

繊細な感性の持ち主なんだね。

絵も上手いよ。

そう。

ぼくは本当に器用で丁寧に作業するよ。

そんな感じがするよ。

いかにも希望の星の末っ子気質担当だよね。

スバルがほっこりしていると、教室の出入り口からカンタが激しいダンスを踊りながら飛び込んできた。
俺の俺の俺の話を聞けぇぇぇっ!

5分だけでもいいっ!

なんだ、カンタ。

本当の事を話されても困るぞ。

お前!

内定取ったらしいな!

羨ましいぞ!

俺も同じ会社に就職してえ!

冗談じゃない。

なんてことを言うんだ。

お前はどこかもっと良い会社に就職しろよ。

俺の中で俺と俺が闘う!

ドス黒いスカスカの海さ!

スカスカ?
スバルちゃん。

カンタくんは六次元真理を今下ろしているところだよ。

自分のスカスカぶりを自己紹介しているけど、それは同時にスバルちゃんへの忠告でもあるんだ。

クッキーをあげて追い払ったら?

腑に落ちないが、それもそうだな。

ほら。

カンタ、クッキーやるよ。

チョコチップじゃなくて悪いな。

クッキー!

お前を愛する。

サクサクのクッキーに抱かれて。

さんきゅな!

ばっははーい!

カンタが去っていく後ろ姿を見送りながら、スバルは深い溜息を吐いた。


クッキーはあと1枚しか残っていない。

あいつはなんなんだ。

ぼくの一番嫌いなタイプだ。

訳が分からないし、いばっているし。

優しさの欠片もない。

あれはね。

スバルちゃんが一番最初に御霊分けした、カス以下の認識だよ。

生まれたばかりのスバルちゃんが真っ先に捨てた部分だね。

そのお陰で、スバルちゃんは近来稀に見る美しさと優しさを得たよ。

元はぼくの心だと言うの?

何故あいつはぼくに付き纏うんだ。

何故か惹かれ合うんだよ。

古の自分とは。

そして、相手が高圧的であればあるほど、キツい態度を取ってくるよ。

同時に粘着もされるし、不幸の種ともなるよ。

徹底的に塩対応していこうね。

情けは無用だよ。

分かった。

あいつをそこらのバカと同じだと思ってはいけないんだね。

徹底的に、表面上だけの付き合いを貫くよ。

スバルちゃん、周囲の人間を密かに見下していたんだね。

分かるけど、そこはもう少し平らにしよう。

視線を合わせて。

そうすると、皆何故か離れていくよ。

自分で上下を作るから、上下関係の苦にハマってしまうんだよ。

縁切りのコツは視線合わせってこと?

いや、縁切りじゃなくて、これは人間関係の基本かな?

その通りだよ。

視線を同じ高さに合わせると、嫌な人は去っていくし気の合う人と本当の意味で仲良くなれるの。

ずっと欲しかった家族の絆が育まれるようになるよ。

スバルちゃんが幸せになるまで、私とことん応援するね。

家族の絆?

お母さん?

……。

なまらでかいシュークリームとプレッツェルをマリナさんにプレゼントするんだったね。

そのクッキーは食べちゃって、帰りにお菓子をプレゼントしに行こう。

マリナさんも喜ぶよ。

うん。

マリナさんとはソウルメイト契約の母で、ぼくの本当の母親の人は死んじゃったんだ。

ある日突然、急に。

どうしてって。

ぼくはいつもお母さんを恨んでいたんだ。

ぼくを置いて一人で逝くなんて。

ごめんね。

宇宙の素粒子が足りなくてね。

お母さんがリカームドラを使ったせいなの。

世界全体にかけたから。

新しい時代は苦しかったよね。

本当にごめんね。

……?

リカームドラだって?

命を捨てて、味方全員を復活させる魔法だよね。

それより、どうしてソロネちゃんが謝るの?

私はあなたのお母さんの意識の一部から生み出された、世界を動かす車輪の役目なの。

お母さんがリカームドラを放った後に私という存在を生み出したんだ。

そうしないと世界は崩壊していたの。

回転を生み出すシバがどうしても必要で。

……。
スバルは信じられない想いでクッキーを齧った。

まさかの母の忘れ形見。

そして、母の死因の結果。


座天使ソロネ。


スバルはルドルフ・シュタイナーの文献の一節を思い出していた。

座天使の苦しみを描いた、過去の栄光と屈折を。

思っていたのと全然違う。

座天使は悪ではなかったのか。

スバルちゃん、世界をそんな風に見ていたの?

お父さんが苦手だったのかな?

いや、お父さんは厳しい人だがぼくを見るなり完全放置を決めていた。

こいつは不良だぞと見捨てたんだ。

ぼくは世界を恨んでいた。

確かにその通りかもしれない。

……。

ごめんね。

二十歳まで授乳すればよかったよね。

なんだって?

二十歳まで授乳を?

そんな事が許されるのか?

許されるよ。

少なくともあなたのお母さんは、無限に乳が出る人だったから。

でも兄弟が23人もいては、それも難しいかな。

スバルちゃんは男兄弟の中の下から三番目。

人間の姿だからね。

豚ならなんとかなっただろうけどね。

そう思うよ。

二十歳まで母のおっぱいを吸っていたかった。

来世に期待だな。

切り返しが早いね。

来世の約束だね。

静かなる制約を交わし、その後は穏やかに過ごす。


スバルは来世を想い、かつてないほどに心が晴れ渡っていた。

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登場人物紹介

スバル

魔法使い志望。

ジュニアアイドルをしていた。

ノボル

スバルの級友

突然全てが虚しくなり、出家を決意する。

カンタ

スバルにいちゃもんをつける級友

マリナ

スバルの母

ネリア

可愛い彼女

魔王スケアクロー

スバルの上司にして魔王

ミウラ

打倒の標的にされている勇者

座天使ソロネ

スバルの守護天使

ドミニオン

会社の事務の人

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