第40話 解脱の天使

文字数 2,218文字

ソロネからソーマ還元の業を習ったスバルは、家にあったゴミなどで物質ソーマの転換技術の練習を行った。


やがて溜息を吐いて、ソファーに座り込む。

ソーマ転換というけれど……。

まさか霊魂まで分解しているんじゃないだろうね?

その通りだよ。

霊魂そのものまで還元してしまうのがソーマ還元のワザだからね。

遠回しのヒトゴロシだよ。

なんということだ。

またぼくは罪を重ねてしまった。

全く問題ないよ。

またいつかの世で再現・顕在化されるので完全なる死とは言い切れないから。

罪とは本来、自分の使命を自覚しないことにあるからね。

スバルちゃんはこれまで、希望の星としての自覚が足りないとして罪穢を積んでいたね。

今回の転生で使命を悟ったことで、それらが全て清算されたよ。

これから美の追求を永遠に続けようね。

ぼくの使命は美の追求を続けること?

それで全ての罪が赦されるというの?

そうだよ。

スバルちゃんはこれから、自己の持つ魅力を存分に発揮させて輝き続けようね。

それがスバルちゃんの存在意義だよ。

なんということだ。

ぼくは……そんなことにも気付けなかったなんて。

永遠にスバルちゃんについていくね。
ソロネちゃん!

ぼくはソロネちゃんさえいれば何もいらない!

本当に!

私もだよ。

座天使ソロネは、ずっとずっとスバルちゃんの専属ファンだよ。

やがて就寝準備を終えた二人は、静かに寄り添い眠りについていった。






翌日。

スバルはネリアの女学校へと向かった。

西の門を潜ってこの世界から脱出するのに、彼女と共にあるべきだと思ったのだ。


門前で待機し、ネリアを待つ。

暫くすると彼女は男性と並んで姿を現した。

あ!

ネリア……。

あら、スバルさま。

ご機嫌よう。

スバルはネリアへの言葉を続けようとしたが、ふと隣にいる男性に目をやった。

それはかつてのクラスメイトのカンタだった。

スバル?

どうしてここに?

え?

カンタ?

どうしてここに。

女学校の臨時講師として就職したんだ。

ネリアちゃんは可愛いね。

すぐに意気投合して。

カンタさまはとてもお優しい方ですわ。

私、この方と共に在ることにしましたの。

えっ?

ネリア?

これから元の家に帰ろうと声掛けしようと……。

申し訳ありません。

私はこの世界にいます。

さようなら、スバルさま。

幸せにするからね、ネリア。

チュッ!

はい♡
あ……。

そんな……。

ネ、リア……。

きよ、ら……。

幸せそうな二人に会釈し、スバルは呆然としつつフラフラと女学校から離れた。


放心するスバルに、ソロネは耳打ちをするようにそっと話りかける。

スバルちゃん……。

ネリアちゃんは試練負けしちゃったんだよ……。

スバルちゃんと次元差が現れるようになって、融解現象の末に縁が切れちゃった。

中性子化の一つだね。

試練負け……。

ぼくと共にあることが試練になったというの?

人と人との関係性の間には、必ず試練が訪れるよ。

どんなに仲が良くてもね。

それでも何とか折り合いを付けて努力を続けるのが人としての在り方だよ。

スバルちゃんは精一杯頑張った。

ネリアちゃんと縁が途切れてしまったけど、それはスバルちゃんが使命を自覚したから……。

脈性のその先の、神性領域まで到達してしまったからだよ。

なんということだ。

本当にソロネちゃんには驚かされるね。

ぼくは高みの存在に……。

ノボルちゃんとよく似ているね。

本当に紙一重だったね。

孤高の存在になることが運命付けられていたんだね。

ノボル……。

あれとはまた違う高みに……。

ぼくも……。

立ち直ったスバルは姿勢を正して颯爽と帰途につく。

荷物を纏めてから、築120年の洋館をソーマ還元の業を以て消し去った。



ふと後ろを振り向くと、同じく荷物を纏めたドミニオンが立っていた。

帰りましょう。

もうこの世界に用はない。

消しはしませんけどね。

ドミニオンある所にゲサラマサラあり。

世界のすべてが消え失せる。

ドミニオン無き所に永遠あり。

時が止まったまま、無限空間となる。

無限空間……。

それはある種の地獄ではないか?

とこしえはあるようでない。

さあ、行きましょう。

やがて三人は他愛ない事を話しながら、以前勇者ミウラと訪れた空き地へと向かった。
ここは……?

土管が三本横に並んで置かれた既視感しかないその空間にドミニオンが手をかざすと、天から黄金色に輝く桟が現れる。

この階段を登れば西の門に自然に辿り着きます。

勇者ミウラはターニングポイントとして設置されたこの地の秘密を無自覚に嗅ぎつけてどうにかしようとしていたようですが、まだまだ甘い。

この天の桟に到達出来ませんでした。

彼はまだ、ここから出られません。

なるほど……。

この既視感しかない空き地が空間のセーブポイント?

そうだね。

輪廻の輪の復元ポイントでもあるよ。

ここから脱した暁には、スバルちゃんは大天使バラキエルとして覚醒するでしょう。

今回の転生修業はとんでもなく有意義であったね。

ぼくがバラキエルに?

まさか……。

大天使になれるなんて。

あなたはミロクの才能を根こそぎ持っていったんですよ。

そのくらいなれないと困ります。

またぼくは自覚に欠けた言動を……。

気をつけよう。

三人は並んで、この世界から脱出していった。





暁の茜の門をくぐること。



それこそがアセンションにして解脱の証であることに、スバルは未だ気付くことはなかった。

その後にソロネからこの事実を伝えられた彼は、心底安心して今後の活動について思索を始める。


彼の天性の才能を活かした希望の星としての活動は、未だ序章のうちに……。

                 了
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登場人物紹介

スバル

魔法使い志望。

ジュニアアイドルをしていた。

ノボル

スバルの級友

突然全てが虚しくなり、出家を決意する。

カンタ

スバルにいちゃもんをつける級友

マリナ

スバルの母

ネリア

可愛い彼女

魔王スケアクロー

スバルの上司にして魔王

ミウラ

打倒の標的にされている勇者

座天使ソロネ

スバルの守護天使

ドミニオン

会社の事務の人

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