第11話 慈愛の天使

文字数 2,012文字

部屋の中に最強の暖房を入れ、スバルはTシャツになるとキッチンへと向かった。


部屋の中は大変な暑さになっている。

シュークリームのシューは暑い部屋でないと膨らまないからね。

本当はサウナで作りたいくらいだ。

これなら、大きくてフワフワのシューが焼けるね。

生クリームを泡立てるのを手伝いたいけど、実体がないからホイッパーを握れないよ。

ごめんね。

大丈夫。

生クリームを泡立てるのは慣れてるし、ぼくは凄く上手に角を立てられる。

今日はバニラビーンズを使うか。

最高のなまらでかいシュークリームが出来るね!

ガスオーブンもあるし、最強の環境だね。

ぼくは本当はパティシエになりたかったんだ。

趣味程度に留めて置くことにしたけどね。

スバルは手際良くシュークリームやクッキー、プレッツェルなどを作り、やがてオーブン待ちの生地がズラリとキッチン台に並ぶ。


出来上がりを待つ間に湯豆腐を作り、ポン酢でさっぱり頂くことにした。

味ポンは好きだが、自作のポン酢も好きなんだ。

本当にシャッキリするよ。

酸味が好きなんだね。

健康的だね、スバルちゃん。

すだちもこだわっているね。

すだちには特にこだわって、なんと自家製だよ。

庭にすだちの木があるんだ。

才能の片鱗が垣間見れるようだね。

流石スバルちゃんだよ。

可愛い四天王になるだけあるね。

ぼくは末っ子気質だと思う。

昔から天才肌だと自分で思っていたが、ここまでベタ褒めしてくれるのはソロネちゃんが初めてだ。

ぼくはソロネちゃんに会えて嬉しい。

私もスバルちゃんは可愛くて大好きだよ。

ずっと見てたよ。

スバルちゃんが山越え谷越え海越えて。

知性の片鱗をあちこちに撒き散らしても、誰一人として気付かなくて。

スバルちゃんが密かに涙をこぼす日も。

もっと早く会いたかったが、それだときっとぼくはここまで才能が開花しなかったな。

今を喜ぼう。

乾杯。

スバルはジンジャーエールで乾杯すると、熱々の湯豆腐を食べ始めた。


湯豆腐を食べながらガスオーブンの様子を見て、行き来を繰り返しながらお菓子を作り上げていく。

立派な、なまらでかいシュークリームが出来たね。

売り物以上だよ。

本当に上手だね。

アラザンクッキー、なんて可愛いんだろう。

アラザンを無理矢理全部使えるように大量のクッキーを焼いたが、これを全てネリアにあげたら驚かれるかな。

全部大事に食べるよ、ネリアちゃんは。

スバルちゃんから貰ったものは全部丁寧に扱って、とても大切にしているよ。

ネリアちゃんは本当にスバルちゃんのことを愛しているよ。

そうだね。

ぼくもネリアを愛している。

ソロネちゃんよりも、きっと。

そうでなければ困るよ。

ネリアちゃんも泣くよ。

そう、か。

好きな人はいっぱいいても良いよね。

勿論だよ。

私の場合は博愛に近いから、ネリアちゃんよりも想いの強さには負けると思う。

でも、私はそれで幸せだよ。

スバルちゃんが幸せになることが私の幸せだよ。

ぼくはこれから、こんなにも幸せな環境で生きていくことになるのか?

なんてことだ。

本当にぼくは今迄何を見てきたんだ。

これまでは情報集めの最中だったんだよ。

カルマを溜めて、今後大成するように頑張ってきたの。

後悔なんてしないよ。

大丈夫だよ。

次元を上げていこうね。

大量に焼き上がったお菓子を冷ましてからラッピングをし、二人は就寝準備をして床についた。


横で添い寝をするソロネを見ながら、スバルは溜息を吐いた。

マリナさんにもお菓子をプレゼントするべきだよね。
そうだね。

マリナさんは、派手な強気ギャルに見えて純情だよ。

傷付きやすいし、本当は泣き虫なんだ。

でも突っぱねちゃうからね。

さりげない優しさ道を極めていくべきだよ。

みんなの幸せの為に。

やはり純情だよね。

心の底では清いことはぼくも分かっている。

さりげない優しさ道だね。

どうやって極めよう。

待つんだよ。 

受け身でいるの。

クリティカル狙いで、幸福を届けるの。

好きなものをとことん調べて、ベストタイミングで渡そう。

優しい言葉を、ベターなタイミングで話そう。

なんて難しいことを。

しかし分かるよ。

ぼくも案外気難しいからね。

なんだろう、何を読めばいいのかな。

空間における、イドの糸の緊張と弛緩だよ。

あとは量子のタイミングだね。

スバルちゃんは16次元に到達しているし、20次元も回れるから学べばすぐだよ。

……アカシックレコードに書いてあったな。

ベルクソンだって?

ああ、キアスムだね。

これを極めるしかないんだね。

スバルちゃんならきっと出来るよ。

希望の星の座は、本来誰にも就けなかったの。

どうしてかな。

スバルちゃんにその才能が受け継がれていったよ。

不思議だね。

ソロネちゃんは何者なの。

そんなに宇宙に詳しい人なんていないよ。

私は座天使ソロネだよ。

車輪の天使。

ヘルマン・ヘッセかい?

車輪の下。

そういうお話もあったね。

しかしあの話は、次元が高いようで低いよ。

音痴の人の話だから。

なるほど。

量子だね。

ぼくも頑張る。

やがて話疲れた頃に、スバルは静かに眠りについた。
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登場人物紹介

スバル

魔法使い志望。

ジュニアアイドルをしていた。

ノボル

スバルの級友

突然全てが虚しくなり、出家を決意する。

カンタ

スバルにいちゃもんをつける級友

マリナ

スバルの母

ネリア

可愛い彼女

魔王スケアクロー

スバルの上司にして魔王

ミウラ

打倒の標的にされている勇者

座天使ソロネ

スバルの守護天使

ドミニオン

会社の事務の人

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