第34話 残酷な天使

文字数 2,214文字

スバルはベッドの上でソロネと寝転びながら業務の事を考えていた。


勇者を誘導し、魔王を倒させる仕事。

しかし、勇者ミウラはスバルとはとても懇意になれない性格であった事が判明した為、彼を考えるだけで辟易した。

もう仕事したくない。

どうしたらいいんだろう。

円満に退職するには。

ミウラに会いたくないんだね。

分かるよ。

彼は男の子ランクの中でも上層の皮を被った下層だよね。

腐った関係性しか築けない輩だね。

それもそうだし、あの魔王スケアクローにも心底ガッカリさせられる。

飲んでないのにあのキャラはないだろうよ。

シラフと思えないって?

理性飛ばしたらあんなもんでしょ。

理性?

あの姿だと理性が翔ぶの?

常時、ヤクをキメたり泥酔しているようなものだよ。

それが魔族というヒューマノイドの思考パターンだね。

え?

魔族って常に酔っ払っているような脳をしているの?

本音剥き出しになるってこと?

そういうことになるね。

クスリをキメたり、酒を浴びるように飲んでも冷静な人は冷静だよ。

アルコールは神経麻痺を起こして、麻薬は大脳新皮質を蝕むけどね。

シンナーなどは小脳の働きを弱めるよ。

そうだったのか。

では、ぼくがエディブルで多幸感に包まれたのは……。

もしかしたら、お母さんの気配を感じ取ったのかもしれないね。

スバルちゃんはパーメットスコアが高いから、脳のタガが外れるとすぐに霊媒をしちゃうんだね。

霊媒が始まると、お母さんの魂の一部がいつもスバルちゃんを抱き締めていたね。

今は私がいるから、お母さんの魂は私に全てを託しているけれど。

なんということだ。

では、ぼくが今エディブルを食べても何も起きないってこと?

食べてみる?

魔法で作れるよ。

そんな技能を持っていたの?

一つ頂戴。

強めなやつを。

ソロネが指をクルクルと回すと、テーブルの上にレース飾りのようなフチの小皿と、赤と緑と黄色のプレッツェルような形のグミが現れた。

霊視すると、大麻成分がなんと80%も含まれている。

それは既にエディブルと呼べるものではなかった。

スバルは恐る恐る赤い大麻菓子を手に取ると、そっと口に入れて噛み締めた。

美味い。

苺だ。

次の瞬間、スバルは意識を失いそのまま目を閉じた。




気が付くと、スバルは空の上にいた。

ソロネが近くで優しく笑いかけている。

どうしたの、これは!
トんじゃって、幽体離脱をしているよ。

私がスバルちゃんの身体の生命維持をするから、このままミウラの所へ飛ぼうか?

仕事、片付けちゃおう。

エディブルで幽体離脱だって?

まさか、こんな事が。

今、ぼくは幽霊なんだね。

迷惑な話だが、仕事をするか。

スバルは溜息を吐きながらミウラの気配がする方へと飛んでいく。

ソロネはスバルの後に続いた。

幽体離脱が迷惑な話って、どういうことかな?
いや、だって面倒臭いだろう。

ぼくはクスリで酔えない。

その事実に失望したよ。

快楽が欲しいのかな?

それは、限界があるよ。

絶対的な快楽は、共鳴を起こさないと到達できないよ。

共鳴?

霊子細胞振動のこと?

それならネリアと何度も起こしている。

あれ以上の快楽はないの?

ないよ。

脳神経受容体の抵抗波数には限界が設けられているからね。

死んだって快楽は得られない。

しかし、共鳴で充分だと思わない?

あれだって相当だよ。

相当以上だけどね。

まさか、そんな事が。

また一つ、夢が消えた。

大人の階段を登ったシンデレラだ。

少女だったの?

ガラスの靴は危険だよ。

スバルちゃんは、もっと自分の足のサイズとそれに合う靴を探すべきだと思う。

靴ジプシーか。

分かるよ。

しっくりくる靴は、オーダーメイドでもなかなか出会えないんだよね。

ぼくの足のサイズは27cmだ。

しかし甲高で。

それは苦労するよね。

私は21cmだよ。

やっぱり甲高で。

小さい足だね。

いつもは裸足?

サンダル?

サンダルフォンも兼ねているから、サンダルだよ。
サンダルフォンだって?

ソロネちゃんは何者だ。

エリヤ、つまり弥栄の分身だよ。

ウラノスの裏側にある存在の端くれだね。

……壮大な話になっているけど、座天使ソロネと思えば普通かもね。

量子回転そのものなんでしょ?

チャクラも兼ねているから、ほぼ世界無双だよ。

スバルちゃんの相棒を名乗るなら、このくらいでないと務まらないよ。

なるほど。

ぼくはそんなに強大な存在であると?

そうなるね。

全ての回転を超越したうえで、紫の最高峰を名乗ることが求められているから。

最高峰、か。

いつの間にぼくはそんなことになっていたんだな。

やがて、二人はミウラの元へ辿り着いた。


彼は彼女の一人と、学校の空き教室で性行為に勤しんでいた。


スバルは眉を顰めながら彼らの情事を観察する。

白昼堂々、授業をサボってこんなところで。

しかしなんだあのへっぴり腰は。

下手くそじゃないのか。

彼は16歳だからね。

経験不足という視点で見ると、しかたないんじゃないかな。

いや、中身はかなりいっている筈だぞ。

極め続ければ初めてでもかなり上手い筈だ。

こいつには向上心というものがない。

あのね……。

比較対象がおかしいよ。

一般人はこんなものだよ。

そういうものなのか。

血筋というものが、まさかこんなところに?

残酷な真理だね。
ミウラは狂ったように性行為を続けており、めぼしい情報を得るどころではないと判断した二人は帰宅することにした。


自宅に帰って元の体に戻ったスバルは、ゲッソリとしながら起き上がる。

全く興奮とスリルがなかった。

ピクリとも動かないのを確認しながら、ゆっくりと起き出して珈琲を淹れることにした。

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登場人物紹介

スバル

魔法使い志望。

ジュニアアイドルをしていた。

ノボル

スバルの級友

突然全てが虚しくなり、出家を決意する。

カンタ

スバルにいちゃもんをつける級友

マリナ

スバルの母

ネリア

可愛い彼女

魔王スケアクロー

スバルの上司にして魔王

ミウラ

打倒の標的にされている勇者

座天使ソロネ

スバルの守護天使

ドミニオン

会社の事務の人

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