第22話 加護の天使

文字数 1,668文字

スバルは勇者ミウラの通うというタカトウ高校の近くまで来ていた。


どうやって彼と接触しようか、近くのモスに入って考え込む。


ココアを啜り、肘を組んだ。

やはりルールーの姿で仲良くなるかな。
もしミウラがゲイだった場合、スバルちゃんの素のままの姿の方が効果的な場合もあるね。
冗談じゃない。

ぼくは確かに老若男女問わずモテてモテてモテまくったけど、流石に正体をバラすなんて勇気はないよ。

しかし、ヤツは彼女が三人もいるんだよね?

ゲイなんて事は……。

偽装彼女かもしれないじゃない?

注意深く観察が必要かもしれないよ。

ソロネちゃんがそういう提案をしてくるって事は、もしかしたら……。

分かった。

取り敢えず、ルールーで近付いて様子見をしよう。

スバルはココアを二杯、丁寧に飲み干すと会計を済ませ、障害者用のトイレに向かった。

トイレの中で変身し、そのまま何食わぬ顔で店の外へと出た。


高校の門前に向かった途端、下校のチャイムが鳴る。


ルールーに扮したスバルは、門前で待機することにした。

しかし、社会人になってから高校生を見ると、学生が随分子どもっぽく見えるものだな。
スバルちゃんは童顔だから、下手すると中学生に間違えられそうだよ。

とてもピ○○歳には見えないね。

ぼくは長く生き過ぎている気がする。

しかし、いつも若さを保持している。

本体はもっと美しいが。

本体のスバルちゃんは、如何にもって感じの弥勒一族の姿だよね。

親戚一同、同じような姿が溢れかえっているから、DNAの恐ろしさを実感出来るね。

似ていると言っても、よく見ると全然違うよ。

アジア人の区別が付かない白人みたいな事を言わないでくれる?

ごめんね。

でも、親戚の中でも没個性者は本当に誰が誰だか分からなくなる時があるよ。

厳しい弥勒の血を乗り越える事が求められる、神聖にして気高い遺伝子を受け継いでいるということだね。

どうやったら個性を出せるんだろう?

ぼくは埋もれたくない。

長所を伸ばすしかないね。

それぞれ御経綸がある筈なんだよ。

でも向上心とポテンシャルを持たぬ人は、蟻地獄次元にハマったまま動けなくなるの。

スバルちゃんはめっちゃ目立ってたけど、実は危なかったんだよ。

不思議な話だけどね。

そんなに厳しい次元に生まれていた事に気付かなかった。

いや、本当に。

ポテンシャルだね。

持ちすぎるくらい持つようにする。

霊素慈にあるモン・サン・ミッシェルに住居を置く事がどういう意味を持つかを実感すべきだよ。

スバルちゃんは何となく引っ越したけど、この修業を行う事が前提の、おまけの大丸だったね。

なんだって?

分かったよ。

努力するね。

本当に。

努力するから。

スバルは血の気が引くようになって、手の平の汗をギュッと握り締めた。


高校校舎から出て来る生徒たちはスバルの変身姿を見て感嘆の声を上げたが、そういった黄色い声が全く耳に届かなかった。


自分はどれだけ美しさを追求することが求められるのだろう。

自己認識の甘さを実感し、遥かなる果ての果てにある誠の美貌を磨き上げる決意を密かに固めた。

……ミウラ、出て来ないな。
彼は今、視聴覚室にて彼女の一人と性交渉を行っているよ。

あと三十分は待たないといけないかも。

なんて奴だ。

学校校舎内で性交渉だって?

全く夢みたいな事を……。

スバルちゃんだって、ネリアちゃんと散々学生デートをしたじゃない。

まだヤり足りないんだね?

そりゃそうでしょう。

期間限定の特別にも程があるシチュエーションだもんね。

また転生しようかな。

分かるよ。

その時もきっと私はスバルちゃんの加護に付いていると思うけど、プライベートは死守するね。

本当に?

永遠に加護についてくれるの?

契約が、スバルちゃんのポテンシャルが失われる迄、となっているよ。

スバルちゃんがやる気を持ち付ける限り、私はずっとスバルちゃんのそばにいるよ。

添い寝もするね。

ぼくは頑張る。

超頑張る。

永遠に頑張るね。

二人は硬く手を握り合い、打倒標的が門から出てくるのを静かに待った。


同時に、スバルは一抹の焦り、そしてソロネのとこしえの加護の可能性を知り、跳ねるような気持ちを抑えるのに精一杯だった。

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登場人物紹介

スバル

魔法使い志望。

ジュニアアイドルをしていた。

ノボル

スバルの級友

突然全てが虚しくなり、出家を決意する。

カンタ

スバルにいちゃもんをつける級友

マリナ

スバルの母

ネリア

可愛い彼女

魔王スケアクロー

スバルの上司にして魔王

ミウラ

打倒の標的にされている勇者

座天使ソロネ

スバルの守護天使

ドミニオン

会社の事務の人

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