第6話 娯楽の天使

文字数 2,120文字

スバルは雑貨屋に来ていた。


ファンシーなグッズが並ぶ店には、若い女性客が大勢訪れている。

スバルちゃんは見た目が可愛いから、こういうお店にも男一人で躊躇なく入れるんだね。
そう。

強みだよ。

女装と声真似が趣味だし。

想像を絶する有能さだね。

あ、このシールは人気になるよ。

この三番目と六番目ね。

低次なる存在に大人気のチエリちゃんだ。

チエリちゃん?

このシールに描かれているのは、虹色雪うさぎだけど。

無自覚モテの最高峰だよ。

シールのデザインは大人気キャラだけど、それはあくまで仮の姿。

シールに転生している霊魂は、無条件で引っ張りだこになる存在なんだよ。

そういう子は、勿論性格も良いんだろうね?
健康な肉体に健全な魂は宿る。

というね。

ふうん。

だったらいいねが揃っているのか。

そう。

でも、CANだしDOだよ。

することが出来るの。

ハッピープライスだし、お互いにパラダイスだよ。

大層なことだ。
スバルは指定されたシールと好みのデザインのシールを60組ほど購入し、店を出た。


シールを買うと、胸がワクワクする。

ぬいぐるみもいいけど、あみぐるみもいい。

彼は、ファンシーの全てを極めていた。

それは配る用のシールだよね?

100均で揃えず、割高の雑貨屋で買い揃えるなんて、本当にスバルちゃんは菩薩のようだね。

見栄っ張りなんだ。

これ、100均じゃない?とか言われたくないんだよ。

二人は談笑しながら自然食品の店へと向かった。


閑散とした店内を、静かに見て回る。

添加物が多い。
名ばかりの無添加だね。

あ。これは。

これは新しい、大当たりの小麦粉だよ。

岐阜県産無肥料無農薬の小麦粉か。

確かに大当たりだけど、叡智次元の扉を開くのにキツくないか?

これでクッキーを焼いて配るといいよ。

みんなが幸せになれる筈だよ。

クッキーか。

ステンドグラスクッキーを焼きたいな。

余った飴は無いね。

全部食べちゃったね。

人にあげる用ということにして、アンゼリカクッキーにするか。

ぼくは食べない。

赤106号の摂取は控えたい。

しかし見た目は可愛いからな。

合成着色料でないと、あの鮮やかな赤は出ないもんね。

帰りに買って行く?

緑もあるときれいだね。

ここまでぼくと話が合うのはソロネちゃんが初めてだよ。

そうしよう。

絞り出しクッキーにしようね。

自然食品の店で買い物を済ますと、二人は品揃えの多さしか取り柄がないような、割高のスーパーに向かった。


高級感溢れる製菓材料を買い漁り、ついでに弁当なども購入する。

このアンゼリカ、高級だけど売れないんだね。

埃を被っている。

どんなにハタキで表面を掃除しても、限界があるよね。

しかしこういう店がないと、いざという時に困るんだ。

見て。

鰻弁当だよ。

具がこんなにはみ出ている。

これは原価割れしているよ。

高いけどね。

たまにこういう、大当たりに会えるよね。

スバルは暫く悩んだ後で、特に具が大きい鰻弁当を購入した。


会計を済ませ、自宅へと向かう。

本当に心優しいねえ、スバルちゃんは。

このお弁当は17時になると割引シールが貼られるのに、わざわざ定価で買うんだもの。

お店の事をよく考えているね。

ぼくはキアスムの扉を開いた。

カンタのおかげでね。

お店の人は、心を込めて鰻弁当を作った。

少しでも還元したいよね。

飲み込みが早いね、スバルちゃん。

天才肌とはこういう事を言うんだね。

ぼくは凡才さ。
盆栽を極めるのは難しいよ。

地味に見えて。

半グレの勉強が功を奏したようだ。

ぼくはあらゆる次元を渡り歩く事になるだろう。

まさに、希望の星の器だね。
ソロネとの会話は気分が良かった。

彼女は媚を売るでもなく、真実のみを口にするようだ。

そして、それはスバルの自己肯定感を高める事に一役買っていた。


帰途に着くと、二人は手を洗ってからクッキー作りを始めた。


グラスフェッドバターと有精卵と根菜糖を使った、贅沢なクッキーとなった。

生地にアーモンドプードルをたっぷりと混ぜ込み、ラップに包んで丸めて冷蔵庫に寝かせる。

バニラエッセンスとバニラオイル、バニラシードのどれを使う?
今回はオイルにしよう。

香りが飛ばないように。

シードを使うと、今回はしつこくなりそうだ。

冷蔵庫で生地を寝かせている間に、スバルは買ってきた弁当を食べることにした。


溢れんばかりの鰻が乗った、最高の弁当であった。

流石に料亭の味とまではいかないけど、頑張っているね。
そうだね。

タレが違う。

味の母まで使っているよ。

味覚が鋭いね。

そのうち、醤油作りまで始めそうだね。

たまりはハードルが高くてね。

味噌までしかできない。

醤油を発見した人は一体、どんな意図で……。

ズボラだよ。

白梅と同じで、ズボラから偶然生み出された高級食材だよ。

そこまで放置の精神をぼくは出せないな。
食事を終えた後、テーブルを片付けてから冷蔵庫から生地を取り出した。

暫く常温に置き、そのままスバルは風呂に入った。


入浴から出た後で、スバルはクッキー作りを再開する。

バニラの匂いが染み付いちゃうよ。
それを狙っているんだ。

ぼくは甘い匂いの男になりたい。

完璧なまでに美しいアンゼリカクッキーを焼き、きれいにラッピングをしてから二人は寝床に入った。


スバルのそばで、ソロネが優しく添い寝をする。

二人は幸せに包まれ、笑顔をたたえて眠りについた。

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登場人物紹介

スバル

魔法使い志望。

ジュニアアイドルをしていた。

ノボル

スバルの級友

突然全てが虚しくなり、出家を決意する。

カンタ

スバルにいちゃもんをつける級友

マリナ

スバルの母

ネリア

可愛い彼女

魔王スケアクロー

スバルの上司にして魔王

ミウラ

打倒の標的にされている勇者

座天使ソロネ

スバルの守護天使

ドミニオン

会社の事務の人

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