第1話 秘密の天使

文字数 1,891文字

ハンダール帝国。


そこは、剣と魔法の世界。

ハンダール王都から西に300km程向かった先に、マルテラスという小さな街があった。



マルテラスにある唯一の魔法学校。

マルテラス魔法学校。

時折大出世をする逸材を生み出すとして、密かに国内にその名が知られていた。


今日も終業の鐘が鳴る。

やーい。

お前んち、おっばけやーしきー!

突然どうしたんだ、カンタ。

俺ァお前んちを見たんだ。

すんげーボロ家だな。

お化けと一緒に住んでいるんだろう。

ボロ家かな?

確かに築120年は経っているが、見た目はそれほど古くはないだろう。

マルテラス魔法学校には、3つの科があった。


普通科。

魔法科。

工業科。


物語は、普通科最上級の教室から始まる。

スバル。

お前は凄く出来損ないだと、俺は思っている。

深く深く思っている。

お前は突然、何を言い出すんだ。

言い掛かりにも程があるだろう。

スバルのクラスメイトのカンタは癇癪持ちで有名だった。



ここ普通科7年2組の名物で、眼鏡三兄弟と呼ばれる男子三人組の内の一人である。


そして毎日のようにカンタに暴言を吐きかけられるスバルも、その内の一人として数えられていた。

お前の魔法の成績は中の中だ。

情けないと思わないのか。

いや、俺たちは普通科だし。

魔法科でこの成績だと多少は焦るけど、他にも履修教科は多いし致し方ないんじゃないか。

なんだと!

お前を見ていると、ムカつくんだよ!

スカした顔しやがって、出来る奴と勘違いさせておいて中身は平々凡々。

俺がどれだけ失望したと思っているんだ!

お前の成績だって、下の下だろう。

人の事より自分の心配をしたらどうだ。

唾を飛ばしながら暴言を吐くカンタに、スバルは正直辟易していた。

落ち着き払ってカンタを宥めているが、正直なところ内心では軽蔑さえしている。


終業のチャイムはとうに鳴り終わっている。

スバルはそそくさと帰宅の準備を始めた。

お前ぇっ!

逃げるのかぁっ!

不毛だから帰るよ。

ぼくは今日はこれからヴォイトレをしなくちゃならない。

ヴォヴォヴォ!

ヴォイトレェッ!?

ずりぃ!

俺も!

発声の基礎練だけだから、一緒にしなくても出来るよ。

じゃあね。

騒ぎ立てるカンタの怒声を背中から浴びながら、スバルは肩を竦めて教室を出た。


学校の門の付近で、唐突にハスキーな声がスバルを呼び止めた。

よお!

スバル。

今日もシケた顔してんね!

一緒に帰らない?

あ!

マリナさん。

帰るって、今日はどこのお店に?

ピアスが欲しいんだよ。

一緒に見てよ。

いいな。

ぼくもピアスを見たい。

しかし、今日は先生が来るから……。

あんた、まだアイドルやるつもりなの?

歌が下手な癖にまだ頑張るんだ?

酷い……。

いや、歌が下手なのは、あの……。

ごめんなさい。

帰ります。

スバルは落ち込み、目に涙を浮かべながらマリナの前から立ち去った。

マリナはスバルの母だった。


父と離婚し家を出たが、時折スバルを待ち伏せてはデートに誘ってくる。


最初は喜んだが、あまりに強過ぎる性格故に泣かされる事が多く、最近は距離を置いていた。

おい。

今度、あんみつ食べに行こうぜ。

はい。

ぼくが奢ります。

また今度。

スバルはそのまま、築120年の洋館に帰宅した。

見た目のデザインは古いが、内装は非常に豪華であり、クラッシックな雰囲気が気に入っていた。


自室に戻ると、スバルは二階の音楽室へと向かった。

お邪魔してます、スバルちゃん。

待っていたよ。

ソロネちゃん!

ぼくも会いたかった!

スバルは、独学の召喚術にて天使を自分に付けていた。

座天使ソロネと名乗る彼女は、常に彼の元へ降り立つ訳ではなかったが何かと援助をしてくれた。

今日はどうだった?
クラスメイトに怒鳴り散らされて、ぼくの歌が下手だとなじられたよ。

見返してやりたい。

ほら、私の言った通りでしょう。

よく曲を聞いて、メロディーを頭の中に叩き込んでね。

そして、音の通りに発声するの。

そうしないと、音痴だと思われちゃうよ。

それが出来れば苦労はしないんだ。

どうしてメロディーの通りに歌えないんだろうね。

あら、それはね。

スバルちゃんが自由を求めているせいだわ。

抑圧が嫌いなのよ。

メロディーに合わせることに対して、従わされていると勘違いしてしまうのね。

そんな理由なの?

ぼくはそんな、跳ねっ返りのへそ曲がりだってことなの?

それは言い過ぎかなあ。

スバルちゃんは、言ったことをすぐに直すよね。

ヘソは真っ直ぐだよ。

今日は発声の練習だね。

出来るかな、スバルちゃん?

頑張る。

この間は怒っちゃってごめんね。

ぼくはそんなつもりはないんだけど、時々変になるんだ。

気にしてないよ。

さ、足を肩幅まで開いて、喉を少し開けようか。

スバルは深く反省し、言われた通りに発声の練習を始めた。
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登場人物紹介

スバル

魔法使い志望。

ジュニアアイドルをしていた。

ノボル

スバルの級友

突然全てが虚しくなり、出家を決意する。

カンタ

スバルにいちゃもんをつける級友

マリナ

スバルの母

ネリア

可愛い彼女

魔王スケアクロー

スバルの上司にして魔王

ミウラ

打倒の標的にされている勇者

座天使ソロネ

スバルの守護天使

ドミニオン

会社の事務の人

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