第31話 哀愁の天使

文字数 2,092文字

翌日、スバルは会社を休む事にした。


ベッドの中でソロネと共に横になったまま、ぼんやりと言葉を交わす。

お父さんはどういう人だったかな。

あまり会ったことがない。

再現VTR見る?

お母さんが死んだ直後の。

えっ?

泣きそうだけど。

見る。

お父さんが出て来るんだよね?

そう。

スクリーンを下ろすね。

ビデオ、スタート!

天井から小振りなスクリーンが降ろされ、くっきりとした映像が再生され始めた。


幼い頃のスバルの姿が映し出される。




【幼いスバル】

お母さんが死んじゃった!

どうして!

【スバルの父】

本当だ……。

あいつ、いつの間にサマリカームを。

【幼いスバル】

サマリカーム?

何故!

お母さんは死んじゃったじゃない!

【スバルの父】

あれ?

リカームドラ?

命と引換えに、霊素を発生させたというのか。

【幼いスバル】

お父さん!

お父さんも蘇生術を使って!

【スバルの父】

すまん。

俺はリカームしか打てない。

そしてMPが足りなくて、連発は不可能だ。

ヒランヤも持っていないし、メシヤ教会にもガイヤ教会にも縁が無い。

金質が圧倒的に足りないから、リペアガレージにも行けない。

【幼いスバル】

そんなギリギリでどうしようっていうの!

不安にならないの?

1か2かはっきりさせて!

岡田ジムか吉祥寺の自宅しか休む場所がないの?

【スバルの父】

この!

親に向かってなんて口をきくんだ!

吉祥寺だよ!

悪いか!

回復道場なんて行けねーよ!

【幼いスバル】

なんで無印なんだ!

セントラルもないの?

ミレニアムくらい作ってよ!

【スバルの父】

ああ!

キクリヒメよ!

俺に加護をくれ!

【幼いスバル】

なんて奴だ!

キクリヒメだと?

それはぼくのだ!

絶対に渡さない!

ぼくはラクシュミになってやる!

いつの日か!

その日から父は姿を消した。


噂ではホーリータウンを作り上げたとの事だが、不況に喘ぎ全ての銀行が凍結されたとのことであった。




悪夢のようなVTRだったな。
真・女神転生風味だったけど、素晴らしく正確な巫覡だったね。

キングは流通の頂点だよ。

サラスヴァティとは一体……。
唐突にどうしたの?

天照大神の威光が何か?

アマテラスだって?

まさか……。

その役割はぼくだとばかり……。

おやおや。

ラクシュミとサラスヴァティを混同しているんだね。

極微が足りないよ。

スバルちゃんは、サラスヴァティ領域の中で最大限の努力をするラクシュミになるんだよ。

いつかのゲサラマサラの為に。

虚無だけど、輝きとはそういうものだからね。

なんて儚いんだ。
その儚さを束になって集めて、初めてクリスマス・ツリーが完成するよ。

スバルちゃんはオーナメントを飾るLED電球だね。

イルミネーションだよ。

ぼくがイルミネーション?

そんな……。

最高じゃないか。

その通りだよ。

光の洪水となったスバルちゃんを、みんなが見に来るよ。

はるばる何時間もかけてスバルちゃんを拝みに来る人もいるでしょう。

スバルちゃんは、宇宙最高の輝きを持つ大人気モデルだよ。

分かった。

ぼくは太陽にはなれない。

しかし、人工的な光にはなれる。

夜を照らす強烈なパフォーマンスの目玉となるんだね。

それが恐らく、パープルチャクラの回転の最高峰だ。

なんて賢いの、スバルちゃんは。

野心もなく、己の限界を知り、自分の才能を最大限に活かそうとしている。

尊いよ。

尊すぎるよ。

あのね。

それは、ソロネちゃんがいるからだよ。

ぼくひとりではいじけて駄目だ。

ぼくは褒めて伸びる人間だ。

ソロネちゃんが褒めてくれるから。

それだって中々出来る事じゃないよ。

称賛を正しく上昇気流の流れに転換出来るんだから。

普通は増長天になって堕落の一途を辿るのみだよ。

スバルちゃんは物凄く理性的なんだね。

いい意味で増長天でありたい。

その心を絶対に忘れないよ。

真の意味のハンサム・ボーイになるために。

スバルちゃんは皮肉も上手だね。

上手く使おうね。

恨まれちゃうよ。

それもそうだな。

語彙は多過ぎても良くない。

使い所が難しいものは、封印してもいいくらいだろう。

きっとぼくなら出来る。

神ロギを極めるんだ。

ああ……。

私、スバルちゃんの為に精一杯頑張るね。

加護を尽くすね。

スバルはソロネとそっと抱き合い、天井のスクリーンを収納する。


そのままベッドから這い出ると、ブランチの準備に取り掛かった。


調理が面倒な為、カップヌードルチリトマトを食べることにした。

この絶妙な辛さがいいね。

いっぱい食べたくなる。

一番美味しい味だと思う。
味覚が合うね。

チーズを入れてもいいけど、温玉も合うね。

ソーセージも有りだ。

トマト味は濃度さえクリアしていれば裏切らないね。
生き残る味は本物だ。

奇を衒うのも話題性の為に必要だが、レギュラーあってこその変わり種。

このテクニックを活かさない手はないね。

これは一部上場企業にのみ許されるテクニックだよ。

まずはでっかくならないとね。

なるほどね。

またなまらでかいシュークリームを焼こう。

もっと練習が必要だ。

息をするように、もっと簡単にシュークリームを焼けるようにするんだ。

マドレーヌも必要だよ。

貝殻型がいいね。

マドレーヌか。

またネリアにお菓子を届けよう。

勿論、マドレーヌも。

食べ終わったカップ麺の容器を片付けて、スバルはパントリーの在庫確認を始めた。
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登場人物紹介

スバル

魔法使い志望。

ジュニアアイドルをしていた。

ノボル

スバルの級友

突然全てが虚しくなり、出家を決意する。

カンタ

スバルにいちゃもんをつける級友

マリナ

スバルの母

ネリア

可愛い彼女

魔王スケアクロー

スバルの上司にして魔王

ミウラ

打倒の標的にされている勇者

座天使ソロネ

スバルの守護天使

ドミニオン

会社の事務の人

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