第23話 残酷の天使

文字数 1,868文字

下校をする生徒を幾人も見送ったのち、一際目を引く女の子に囲まれて玄関から出て来る男の姿を確認した。


目標の人物発見。

スバルは勇者ミウラの姿を捉えた。


そっと彼に近付く。

あの……。
ん?

きみは?

ぼくに何か用かい?

はい。

勇者様とお聞きしましたが。

いかにもたこにも。

ぼくが勇者ミウラだが?

きみはぼくのファンか何かかい?

あの、これを読んでください。
ルールーに扮したスバルは、ミウラにそっと手紙を渡した。

ファンシーな封筒とシールが貼られたそれは、どう見てもラブレターのような雰囲気を醸し出していた。


先程、モスにて即席で書き上げたものだった。


ミウラはニンマリと笑うと、スバルから手紙を受け取る。

今、読んでいいかい?
それは……恥ずかしいので。
スバルちゃん、どうやらアピール失敗のようだよ。

彼はルールーの姿を見て、いつものおきゃんだろうと思っているみたい。

おきゃん?

そんな認識を今時……。

ん?

今、俺の考えていることを読んだのかい?

何者だ、きみは。

考えを読むとか、そんな事があるんですか?
きみぃ。

ぼくは今、きみに質問しているんだよ。

ぼくの心を読んだんだろう?

ハイと言いなさい、ハイと。

スバルは苦虫を噛み潰したような顔になり、ソロネの方向をそっと向いた。


ソロネは全てを悟ったような顔をして、そっとスバルに顔を近付けた。

ここは読心術キャラで責めてみようか。

この勇者は、さっき彼女のモナカちゃんと前二回、後ろ三回したよ。

スカトロ趣味もあるよ。

後ろ三回だって?!

なんてことだ。

この短時間に。

痔になるよ。

貴様……。

何故それを。

モナカのケツが切れて、さっき血みどろになった。

それを読んだのか?

ソロネちゃん、プライベートは死守するんじゃなかったの?
この人は、自分の痴行を言い触れて回りたくて本当はウズウズしているんだよ。

内緒話が出来ない人なの。

これが自分の無さの現れだよ。

そらね?

一体何のことだ。

そんな風俗嬢は知らないぞ。

彼女が三人もいるのに、風俗嬢との付き合いもあるのか。

随分派手な人付き合いをするんですね。

彼女が三人というのは昨日までの情報だね。

実はまた二人彼女が増えた。

セフレだがね。

スバルちゃん、この人は話を盛っているよ。

そらねというのは風俗嬢みたいだけど、三年前にオキニだったみたい。

彼女は昨日と変わらず、三人のままだよ。

ハッタリを言う癖があるみたい。

十三歳で風俗通いをするのか?

売春宿の時代で考えても、それは早すぎないか?

ぼくは九歳で精通したからね。

そのくらい余裕さ。

九歳?

(ぼくでさえ十二だったのに)

スバルちゃん、この話は本当みたいだよ。

たまにいるんだよ、早熟な子。

大抵の場合、年上の女性から性的虐待を受けた経験があるよ。

ミウラは、隣のお姉さんにいたぶられた過去があるようだね。

幾つだ?

幾つから、隣のお姉さんにイタズラされた?

ふ……。

幼稚園の頃にはムキムキされ、シャブシャブだったね。

スバルは胸が悪くなるような感覚になり、よろけて門に寄りかかった。


歪むだろう。


心の中で、小さく呟いた。

あの、聞いちゃいけなかったですね。

ごめんなさい。

いや、これは武勇伝だよ。

みんなに羨ましがられるんだ。

剣の腕も立つし、ぼくはみんなの人気者さ。

完全に壊れている。

スバルはそう判断し、そっと彼の前から立ち去った。


暫く進んだ先で、そっとマックに入るとトイレで変身を解いた。

チーズバーガーとコーラを注文し、席に着くとそのまま項垂れた。

ああいうヤツは腐る程見てきた。

全員、性にトラウマがあるんだろうか?

もれなくそうだね。

母親や姉ならまだ良い方で、父や兄に慰み者にされるケースはかなり多いよ。

酷い時は、乳児の頃から虐待されるね。

嘘、だろ……?

ぼくはどれだけ幸せな環境で生きてきたんだ……。

殆どの場合、男性からの性的虐待は抑圧からの突発的行動、そしてトラウマの連鎖からだね。

言い出せないのもあるよ。

男性は我慢し過ぎてしまう。

だからこそ、女性の強姦問題に本当に腹が立つみたいよ。

自分は我慢しているのに、どうして女は我慢出来ないんだ、と。

この負の連鎖は断ち切れないの?

正せないの?

無理だよ。

自分から脱しようとしない限り。

向上心を持つことは本当に難しい。

そして、折り合いをつけることも。

そうして宇宙には、ぽっかりと巨大な穴が空いた蟻地獄次元が出来てしまったんだね。

スバルは陰鬱な気持ちになりながら、運ばれてきたチーズバーガーとコーラを受け取ると、小さくバンズに噛みついた。


チーズの旨味が口の中に広がる。


同時に、まるで砂を噛むような気分になり、宇宙が抱えるとんでもない負の念の塊を考え、肩を落とした。

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登場人物紹介

スバル

魔法使い志望。

ジュニアアイドルをしていた。

ノボル

スバルの級友

突然全てが虚しくなり、出家を決意する。

カンタ

スバルにいちゃもんをつける級友

マリナ

スバルの母

ネリア

可愛い彼女

魔王スケアクロー

スバルの上司にして魔王

ミウラ

打倒の標的にされている勇者

座天使ソロネ

スバルの守護天使

ドミニオン

会社の事務の人

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