第37話 転輪の天使

文字数 2,084文字

勇者と魔王は赤い糸で結ばれている。


彼らはいつかの世で婚姻を結ぶかもしれないし、対立する関係性を築くかもしれない。



対となる彼らの相関図を書き出している内に、ツインレイという言葉が導き出された。

ツインレイ?

何故この言葉が……。

恋愛系のソウルメイトだよね。

ツインレイとなる相手とは一度は結ばれるけれど、いつかは別れる運命にあるよ。

その後もずっと何らかの関係性を結び続け、その究極が所謂勇者と魔王となるんだよ。

魔王とは何なんだ?

魔とは悪い意味に留まらず多く或る、という意味だったよね?

勇者も……。

魔王とは、ワクビムスビにより区画された狭義の世界での最大数たる存在を意味するよ。

勇者とは、そこに勇ましく乗り込んで魔を解く者、という意味があるんだ。

魔を解く者が勇者?

魔を解く勇気とは……。

大抵の場合、魔の攻略は面倒極まりないとして皆忌避するよ。

それを勇気を出して立ち向かうのが、勇者としての姿勢であるよ。

そうして、常に謎掛け論を出し合って切磋琢磨するのがツインレイとしての真の在り方と言えるね。

面倒極まりないのは確かだ。

魔王スケアクローの持つ魔とは一体……。

魔王スケアクローの心の闇を解けば、勇者ミウラはツインレイとしての契約が解除となります。

それが出来ぬ限りはどんなに武力で立ち向かっても攻略完了とはなりません。

我らの使命はミウラとスケアクローを蜂合わせればいいんですよね?

スケアクローの心の闇なんて知りたくもない。

そう言ってスバルはそばの椅子に座り込んだ。


魔王と勇者の個人的な軋轢なんぞ知ったことか。

自分は自分の使命を果たすべきだ。

そう考えていた。

でもね。

折角の縁だから、私達でスケアクローの魔を解いちゃおうか?

この世界が存在する意味を読み解くと、クリア判定が上がるよ。

クリア判定だって?

それより解けるの?

スケアクローの魔を。

ソロネは小さく頷くと、魔法を使って半透明のスクリーンを事務室内に発生させた。


魔王スケアクローの過去生と経歴が映し出されていく。

魔王スケアクローの始まりは、オズの魔法使いのカカシなの。

文字通り、カカシさんなんだよ、彼は。

カカシ?

コワモテの?

そう。

カボチ村のコワモテカカシ。

強そうだけど、所詮はカカシ。

天上天下唯我独尊を掲げ続ける孤独な存在だね。

なんでまた天上天下唯我独尊なの……。

ここで釈迦が出て来る意味よ。

釈迦の道は万人に共通する使命であるので。

スバルちゃんは、ノボルちゃんに永遠に阿羅漢止まりだと言われていたね。

阿羅漢とは釈迦以外の存在から仏道を学ぶ者という意味だけど。

スケアクローは、釈迦の心を読み解いたんだ。

天上天下唯我独尊。

そのように生きると、それが自分の仏性だと何度も主張している。

天上天下唯我独尊ってなんなの?

完全孤独ってこと?

その人の心根次第だけどね。

試練にはなっているね。

釈迦の人生は、全ての人間の模範だよ。

辞めてください!

釈迦修業なんて、もう懲り懲りだ。

何が仏ですか!

私に佛の道などない!

??

そんなにムキなって、どうしたんですか?

それより、対するミウラは……。

釈迦修業で、釈迦と対立した相手とは?
分からない。

転輪王、かな?

凄いよ、スバルちゃん!

すぐに転輪王という言葉が出てくるなんて!

転輪王とはインドラの力そのものだよ。

つまり風のエレメンタルだね。

風のエレメンタル?

それが輪?

分からないな。

輪廻転生の輪だよ。

全ての霊魂はこのインドラの輪から逃れられない。

しかし足掻いた所で何にもならないので、結局は何も出来ずに終わる。

出来ることと言えば、普通に生きるだけ。

たったそれだけのことだよ。

またその言葉!

普通に生きるだけってなんですか!

ぼくは何度もヴァーチャーにそれを言われて、辟易しているんです。

普通にって言葉に期待し過ぎているんじゃないですか。

ぼくはさっさと帰って、アイドル稼業を続けます。

それがぼくの普通です。

なんですって?

私の普通とは……。

ドミニオンは、この修業を終えた暁には光牙の地を治めるという結末が待っているよ。

つまり反転の世界の皇帝になることがドミニオンの普通だった。

ヴァーチャーからの業務連絡にそうあったよ。

なんですって?

ヴァーチャーから。

分かりました。

早く帰りましょう。

ひとしきり話終わってから、ドミニオンは給湯室から缶飲料を持ち出した。


オレンジロードと書かれたそれを、スバルに渡す。

ありがとうございます。

このドリンクはどこで購入出来ますか?

探しているんですが、どこにも売ってなくて。

この世界にはありません。

私の上司の奢りです。

気にせずどうぞ。

ふむ……。

西の門を渡ってから探すしかないか……。

スバルちゃん。

その飲料会社ならすぐに紹介出来るよ。

サンプルを配布しまくることで有名なんだ。

気にせず飲んでね。

サンプル配布で宣伝しているの?

なんというか…古典的だね。

確実に顧客の心を掴むテクニックだよ。

地道が実を結ぶんだ。

そうだったのか。

会長の言われるがままに従って来たが、そんな思惑があるとは。

意外な所で答えを得られるものだな。

……ドミニオン。

不思議な人だ。

三人は取り敢えず落ち着き払い、勇者ミウラを誘導すべく作戦会議を始めた。
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登場人物紹介

スバル

魔法使い志望。

ジュニアアイドルをしていた。

ノボル

スバルの級友

突然全てが虚しくなり、出家を決意する。

カンタ

スバルにいちゃもんをつける級友

マリナ

スバルの母

ネリア

可愛い彼女

魔王スケアクロー

スバルの上司にして魔王

ミウラ

打倒の標的にされている勇者

座天使ソロネ

スバルの守護天使

ドミニオン

会社の事務の人

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